1ー6
現在時刻 午前7時30分、それが今の状況で遅い方なのか、もしくは早い方なのかは分からないが、ただ言おう。「夏海と海斗くっ付き過ぎ、めちゃくちゃ動き辛いんだけど」そう溜め息が零れそうな勢いの言葉が出た。
『両手に花』成らぬ『全方向に花』と言った所か。まぁ何方にせよキツイ、いや宿願と言うべきか。
夏海の身長にしては少し大きめの制服が腕をダボッと言う感じで包み込み、また年相応では無い程に豊満な胸がその大きい制服すらもピチピチに引き延ばす。スタイルも去る事ならば整った可愛らしい顔から放たれる悪戯な笑み、そして見慣れて居ない制服姿だからか妙に心を擽られる。
少し雰囲気が変わった、そんな表情をさせる様に海斗は可愛らしい笑みを浮かべ、何時もの様なポニーテールでは無くロングとして伸ばした髪が綺麗と言う感情を持たせた。
こんなにも凄い両手に花は無い、いや両腕を花に包み込まれているが正解かな。語呂悪いけど。
右腕には夏海、左腕には海斗、両者共々恥ずかし気も無く体を縦で割った中心、即ち胸の間に腕を入れ、何方かの手で愛おしく離さないと言う風に腕を抱き締め、余った手で指と指を絡ませ、可笑しな気持ちにさせる。二の腕辺りに感じる柔らかく、ふんわりとマシュマロと言えばマシュマロだが、表現の難しいそれは確かに気持ち良く僕を感じさせる。
そんな2人は「いいじゃん、いいじゃん減るもんじゃ無いんだし。それともお兄ちゃんは嫌、私に抱きつかれるの」と甘える様に、少し涙目に成りながら上目遣いでそう言い、続く様に「ふふ、僕は恋が本当に嫌なら辞めるが、それは今は守れそうにない。何しろ此所最近はあまり僕に構ってくれなかったしね、まだ髪の事も言われていないんだ。こんな所で引けばどう成るぐらい君と居れば直ぐに理解出来るさ」逃げ道が無い、正にそれだろう。
逆立ちする勢いで思考が駆け巡るが今1つ良い案は浮かばない、もとい動揺が激し過ぎて浮かぶ物も浮かばない。
ヤバイ、思考が働かない脳でもその事ぐらいは分かり、普段出る筈の無い汗か身体中から溢れて来る。
まさか要らぬ所で責められるとは、諦めの様な言葉が頭の中に過ったがそれは本当に過っただけだった。
「恋ちゃん、怪我とか病気に成ったら直ぐに帰って来るのよ。それと一様あの人が御守りを上げたみたいだけど、効かなかったら直ぐにママに電話してね。そしたら御祈りして、それと、それと」多分この2人を見て自分も何かしたかったんだろう。
玄関、今僕と僕にくっ付いて居る2人が居る場所は靴を履かなくてはいけない場所だが、数cm下がれば別に廊下の中だ。詰まるところ母さんは見送りをしてくれて居る。そしてこの2人の発言でストッパーが外れてしまった。
まぁ『可愛い子には旅をさせよ』と言う言葉があるが、実際可愛いならば一生側に置きたいし、誰とも知らない奴に渡したくはない。寧ろ自分が生きて居る内は毎日でも会いたい。
それが強過ぎると母さんみたいになる訳か。
ただ母さんの言葉では状況が悪化しただけだ。父さんのくれた旅行安全の御守りと不運を吸収する宝石でも、流石に悪魔に愛された様な不運までは払える代物では無いか。
軽く現実逃避気味にそんな事を考えると、痺れを切らした様に夏海を気遣ってか、僕と自分の荷物を持ちながら扉を開けて待っててくれた姉さんが「はぁ夏海、海斗ちゃん、それとお母さん。恋ちゃんが困ってるみたいだし、それと早く行った方が良いから口論はそれまで、ね」怒ってない?と思いそうな程に冷静な言葉、これが何時もの口調ならばクールな人と言う感じで済む。だが姉さんの何時もの口調ならもっと優しくなる。
と成ると、必然的に姉さんはかなり怒っている。しかも3人を名指ししたと言う事はあんまり感じないけど、3人に対して多少成りとも苛立ちの方の気を出して居るのかな。
3人の反応が何か、その鬼教官や鬼軍曹と呼ばれる様な人に呼ばれた様に直ぐに黙った。
あれ、でも此所に居る僕以外で男の命令を聞く姿が想像出来ないや。
予期せぬ所でこのゴタゴタが終わり、学校に向かって行く。
学校への道のりは長くも無く短くも無い感じだ。まぁ比較的近い方ではあるが、15〜20分程度が目安と成る。まぁ本当に遠い人は寮に入ってるし、長くても30分ぐらいだ。
で、最低でも15分間も美女や美少女に囲まれながら歩かなければいけない。それは天国と地獄、まさにその通りだな。釣られる様に周りの視線も濃くなる上に、たまに周りの見えない人が逆ナンしてて来るのがまた辛い。
溜め息が出そうな事を考えながらも歩いていると、姉さんは度々僕を見ては物欲しそうな目をし、夏海と海斗は僕の腕に絡み付く。
何と言うか、とても和む光景では無いのは確かだな。いや、これが欲求溢れる男ならば微笑みでも浮かべるのだろうが、生憎昔から色々と嫌な目に合って居ると、寧ろ変わって欲しいと願ってしまう。
歩く事数分、それほど時間は経って居ないがやっとと言う感じで桜並木まで着いた。
舞い散る桜、満開期寄りかは明らかに少ない花びらだが、またそれが風流。コレで夜桜で満月での露天風呂なら最高だろうに。花、植物とは不思議な物だ、声を出して愛でれば喜び、ふと心の中で出た言葉には尚喜ぶ。
ジジくさい、そう思える様な言い草。でも事実なのだからしょうがない。
僕の周り、心地良い風が吹き舞い散る桜が優雅にも儚気に舞い降り、また美しい彼女達を更に彩る。
まるで昔の小説、光源氏にでも出て来そうな言葉。
そして突き刺さる周りからの僕にだけ向けられた視線。正直言って辛いです。
桜並木も真ん中まで来れば、まさに春そのものと言う感じがする。そんな中、後ろから「あ、恋ちゃん おはよう!」、「恋くん、おはようございます」その2人の声が重なったのにも関わらず綺麗に僕に聞こえ、振り返ってみるとそこには姉さん達同様、舞い散る桜の花びらを美しく纏わせた副会長さんと飛鳥さんが居た。桜もさることながら風が吹く度に髪が綺麗に舞い上がり、たったそれでさえも芸術的に見えるのは多分皆が本当に美しいと言う事なんだろう。
腕にまだ夏海と海斗をくっ付けたままだが離れてはくれなさそうなので、そのまま「おはようございます、副会長さんと飛鳥さん」と挨拶をした。すると2人の腕を抱き締める力が強くなり、飛鳥さんは少し険しい表情をして、副会長さんはニヤニヤと笑っている。姉さんは後ろに居るから見えないが苛立って居るのは何となく分かる。えっ、なにこの状況。と声が出そうに成るが抑え、誰かが喋るのを待った。
何か言いた気に副会長さんのニヤけが強くなって行き、まるで貯めて居た物を出すかの様に副会長さんが喋り出した。
「ふっふっふ、恋ちゃんは私と言うお姉ちゃんが居ながら皆に甘えさせるんだぁ。お姉ちゃんちょっとガッカリだにゃぁ、そうだにゃあ、だから今日はお姉ちゃん色々恋ちゃんと罰ゲームしたり、弄ったりして楽しまなくちゃね♡」何だろう、前半は確かに野次馬精神丸出しの声だったけど、後半は結構マジでヤバそうなんだけど。
永遠に続きそうな寒気が体を襲い、副会長さんに続く様に飛鳥さんが「……わ、私だってまだあんまり恋くんと話せてないのに。やっぱり私も真弓ちゃんみたいに積極的に、でも急にやっても怪しまれるだろうし、それに私の意見だけを押し付けるのはあんまり好ましくないし、でも恋くんとは色々やりたいし」その、聞かなかった事にしよう。その方が色々救われるだろうし。うん、そうしよう。
2人の言葉に姉さんの苛立ちは増し、そして腕を抱き締めて居るこの2人はまだ姉さん程耐える事が出来ないんだろう。
愛おしく、離したくと言う感情が剥き出しにされた様に強く腕を抱き締め、海斗が「僕は貴方達の事を知らないのだが、説明を頼めるか?」と高圧的とは違うが敵意が開放され、尚且つロングヘアーのせいで『僕』と言うのが余りにも不思議な感じだ。敬語は話し方のせいで使われて居ない。まあ今の険悪ムードなら一生使わないな。
夏海も続け様に「私のお兄ちゃんに変な事を言わないで下さい」1番ハッキリと怒りを露わにして居る。
ただ両者とも海斗には「えっと、私の名前は赤羽 飛鳥です」や「ん、私は沢城 真弓だにゃぁ。そして恋ちゃんのお姉ちゃんであり、恋ちゃんのお嫁さんだにゃあ♡キャハッ♪」と副会長さんは多分狂気に気づいてでの反応で、飛鳥さんはかなり普通の答え。
もちろん海斗が望んで居た様な答えは1つしか無く、それでは識らしめると言う意味では効果を発揮しない為引いた。
で、やはりと言った所か。夏海との間には微妙な雰囲気が流れてる。まぁハッキリと言えば僕は何方の物でもないが正解だけど、それを無くして言うと夏海とは家族だからある意味ではあの発言が正しくはないけど、副会長さんのお姉ちゃん+お嫁さん発言寄りは正しい。その2つを理解した上での雰囲気。当然僕の居心地は良くはない、寧ろ悪い方に変わって行く。
美少女、美女がお互いに見つめ合う、構図としては最高な物に成り得るだろうが、お生憎様雰囲気がヤバ過ぎた。
まだ此方に飛んで来ないだけ増しと思えるぐらい、多分真ん中に居れば軽く死ねるよ。
気や思考を集中させ、最善の言葉を考え様にもこの人達に言葉何か掛けたら、まぁ両者択一して居るのに片方に肩入れする様な事をすればどう成るか全く予想が出来ない。
悩む、悩む。言葉で言うんならこれ程までに簡単な物なのに、実現すると成ると焦りが神経を荒く削り取り、思考を崩して行く。
それにしても早急も同じ様な光景を見た、と言うか人数が増えただけであったな。
その瞬間、濃い纏わり付く様な殺気が後ろから放たれ、姉さんに寄る雷と言えるレベルの説教が落とされた。
学校に着き、目的地へ向かう為の普通のバスが3台と生徒会様のマイクロバスが1台見え、普段とは違う風景が見えて来た。その横で満面の笑みを浮かべながら僕の腕を優しく、だが押し付ける様に姉さんが居て、また頭を抑える姉さん以外の3年生徒会メンバーと夏海と海斗が居た。
普段見る事出来ない不思議な光景なのに、裏の背景を知っている僕には酷く乾いた物に見えた。
そして姉さんパワーだからか海斗は「それじゃ恋、また後で会うとしよう」と言うと今日室に向かって行き、夏海も「お兄ちゃん、家帰ったら一緒に色んな事してね。約束だからね」と勝手に約束を押し付けた物の、それ以外は無かった。流石姉さん、長女で生徒会長の地位は伊達じゃないと。
因みに生徒会メンバーはメンバーでマイクロバスで向かうが、基本的には同じ内容の物をやるのだが生徒会は生徒会でやる事に成って居る。あくまで生徒会は先生の補助と細かい調整を行う為に着いて行く。なのでこう言う風に別れることに成ったらしい。
らしいと言うのこの事を九条先生が教えてくれたのだが、妙な妄想に入ったらしく曖昧な記憶で話されたのでらしいだ。
で、別れた所でこの状況が打破される事は無い。いや打破された方が可笑しいが人数が少なく成ったからか面持ちは軽く成り、生徒会室に向かい何事も無く着き、扉を開けた瞬間、光。差し込む光が中に居る不機嫌そうな美女、美少女2人の事を照らし出し、僕には『ああ』と溜め息の様な言葉が出た。
感想や誤字脱字などがありましたら書いて下さい。




