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空白のエルエリスト  作者: 新野哀歌
第一章
3/5

  1  それは機械人形との出会いから

「起きてくださいませ。遅刻なさいます」

 メイドの格好をした女性がベットで寝ている少年に声をかける。義務でやっています、というような冷淡な声。その声に少年は寝返りを打つ。

「ん……」

「遅刻なさいます」

 メイドはもう一度繰り返す。

「………何に。…つか眠い」

 少年は目をつむったままそう言ってまた寝息を立て始める。

「………」

 無言のままメイドは右手を自分の耳に持っていき、中指でそっと耳に触れ通話機能を発動させる。

「料理長様、ファイ様は朝食はいらないとおっしゃっていま―――――――」

「ってぇ、おいおいおいおいおい!起きる、起きるからっっ!」

 少年―――ファイはがばっとベットから跳ね起きる。

「……料理長様。やはりいるとおっしゃっていますので朝食をたっぷりと用意しておいてください。……ファイ様。おはようごぜいます」

「うわ。メイドが噛んだ……。っじゃなくてっっ!」

 自分の部屋でメイドに朝食抜きにされそうになった少年。

 ファイ・ファルデリアはここ、ファルデテント王国の皇子である。つまりはこの国の次期王様。

 しかし、彼はどこをどう見ても皇子にはあまりみえない。贅沢や面倒くさいことは基本的に嫌いで、容姿も実にそこそこの普通のイケメン。特別イケメンというほどのものではない。寝ることが好きで髪の毛にはどこかしら必ず寝癖がついている。そんな彼は、もっとしっかりとした皇子になれるようにとファルデテント軍事学校高等部に通わされていた。もっとも、面倒くさいことの嫌いな彼にとってははなはだ迷惑なことでしかなかったが。

「んで、何に遅れるんだっけ?」

「学校です。今日から二年生でございます。寮への荷物は準備しておきました」

「サンキュ。相変わらずしっかりしてんな」

「いえ、そんなことは。早く準備されないと遅刻なさいます」

「え、ぁあそうだな」

 ファイはのそっと立ち上がると、自分の準備をし始める。

「お急ぎくださいませ。遅刻なさいます」

「わかってるって」

「というよりもう遅刻なさっています」

「あーはいはいってええぇぇぇ!?」

 メイドの衝撃発言にファイはばっとメイドを見る。

「2時間13分57秒の遅刻でございます。8、9、14分になりました」

「そういう細かい情報はいらないからっ!つーか何で起こしてくんなかったんだよっ」

「起こしました。起きなかったのはファイ様です」

「あぁ、もうくそっ」

 メイドとそんな会話をかわすと、ファイはものすごい勢いで自分の準備をすませる。そして、メイドの用意した荷物をもつと

「朝食はほかのメイドとかで食べていいから。俺もう行くからっ」

「承知いたしましたww」

「お前こうなるってぜってぇわかってたろっ!あとwwつけんな」

「すいません。私はたとえ主人であれど、ひとの困った姿や恐怖にゆがんだ顔を見るのが好きなものですから」

「ドS?!」

「えぇ。なにぶん性癖ですゆえ」

「つうか……あぁ、もういいや。とにかく行ってくるから」

「いってらっしゃいませ」

 ファイは家―――つまり国の城を飛び出して走る。とはいえ彼は一応皇子なので城を出るときにきちんとお見送りをされたが。彼は学校での寮生活のためしばらく城には戻らない。

 町を抜けると道以外はすべて草に覆われた平原にで出る。しばらくは一本道だ。

「ぜってぇリィーアに怒られる」

 走りながらそうつぶやく。

 リィーア・憐・トールは15年前にこの国と合併した当時ミンティティール王国の姫。ファイとは同い年で幼馴染である。ファイと同じファルデテント軍事学校に通う剣士で少し勝気な性格の女の子だ。

 風が吹き、さわわっと草木が揺れる。

 そんな中ファイの、たたたっという走る足音が聞こえる。

 さっ――――――――――。

 ファイが一本の木の前に差し掛かった。


 そんな時。


 風に流れて少女のような声が聞こえてきた。


 

「雲が月に―――――――――――」



「歌……?」

 ファイがふと足を止める。見ると木の下には少女がいた。

 その声は歌だった。

 機械のように感情のこもっていない声。

 なのにどこか悲しげで、それでいて優しい声。

 聞いたことはないはずなのになぜか懐かしいと感じてしまう。

 それはそれは矛盾だらけのような歌だった。

 そんな歌声にファイは思わず聞き惚れてしまう。


「――――――叶わぬままに――――――――――………」


 少女は歌を歌い終える。そしてこちらを見ている少年に気が付いた。

 水色と灰色が混じったような柔らかな透き通る長い銀髪をふわりと浮かせ、ゆっくりと少女は振り向く。



何方どなたか存じませんが。わたくしに何か、ご用でしょうか」


 無感情の淡々とした声がファイに尋ねる。

「あ、いや……」

「見たところ、私と貴方は初対面だと認識できますが。もし、用があるのならば此方こちらにいらっしゃっては如何いかがですか。以上」

「え、ぁ、じゃぁ……」

 ファイは彼女の言葉通り彼女が立つ木の下へ移動する。遅刻しそうだということなんてすっかりと忘れてしまっていた。

「いや、その、きれいな歌だなと……」

「お褒めに預かりまして。がとうございます」

「………」

「………」

 お互いが無言になってしまう。

 その時、少女はいきなりファイを守るように彼の前に出た。

「約1㎞先に貴方を狙っていると思われる者確認。対処致しますか?以上」

「ぇ、ぁ、ぅん?」

「対処致します。以上」

 そう言って少女は腰のところから釘のようなものを取り出し、狙いを定めた。

 そして。

 ヒュンッ。

 軽い風を切るような音が鳴り、しばらくして少女はまた

「誤差約0.5mm。修正致しますか?以上」

 それにファイは

「殺したのか?」

 と、問う。

「いえ。恐らくは急所は外したものと」

「そうか。ならいい。えと、修正しなくて」

「……そうですか」

 少女がそう答えたとき、ファイの耳に声が流れ込んできた。誰かがファイに対して通話機能を使ったのだ。

『ファイ様。先ほど、ファイ様を狙うという男がそちらに向かいました。今全力を持って対処をしております』

「なっ!?」

 ファイは思わず少女を見た。

 先ほどの出来事についてファイは本当は、何かの冗談でやっているのだろうと思っていた。

 けど違っていた。彼を狙っている者は本当に存在していたのだ。

『どうなされました?ファイ様』

「えぁいや、なんでもない。その、俺を狙っている奴はもう対処してあるからもう大丈夫だ」

『はい?』

「あと、そいつたぶんすげぇ怪我しているだろうから軽く手当してやってくれ」

『そちらでどのようなことになっているのかは知りませんが……。分かりました。そのように致します。では』

「頼んだ」

 通話機能を解除し、少女に向き直る。

 そして考えた。こいつは何者なんだ、と。

 最初はその自分を狙うものの仲間なのかと思った。しかし、自分を守るようにして立った時の様子や自分と話したときの様子には全く殺意や敵意などというものは感じられなかった。

 それにあの無感情な話し方や声、顔には覚えがあった。

 機械人形。

 それは約15年ほど前に開発され、つい5年ほど前まで盛んに使われていたもので、その名の通り機械の人形である。基本的になんでもこなせ、口も利ける。そのため戦争など軍事の場や貴族の家の家政婦として雇われることが多かった。壊れたら新しいものを用意すればいい。便利なことこの上なかった。

 しかし所詮は機械。人工知能のため人間に似せた行動や判断はできても人間のような感情は持つことができなかった。そのため人間のような心が大切だといわれるようになった5年前からは機械人形は不要物扱いを受けるようになっていった。徐々に破棄され、製造もされなくなり、とくに軍用機械人形の製造に関しては禁止とされた。少なくともこのファルデリア王国では。今ではこの国では数えるほどにしか機械人形は残っていない。

 この少女はその数少ない機械人形の生き残りなのか。しかし先ほどの1㎞先の相手に対してのあのほぼ正確な狙い、手さばき……。軍用機械人形にしかできるわけがない行動だった。だがこの国に残っている機械人形は家政婦人形がほぼ。軍用機械人形はいたとしてももうボロボロであろう。

 それなのにこの少女は少しも傷ついた様子は見当たらなかった。透き通った細い髪、きめ細やかな白い肌、しなやかな指使い……それらはとても機械には見えない。

 なら何者なんだ……?

 そんな疑問がファイの中で渦を巻く。

「どうなされましたか?」

「お前は……何者なんだ?」

「何者とは」

「そのままの意味」

 ファイは少女の答えを待つ。

「私は、空白機械人形でございます」

「空白……?」

前主様ぜんあるじさまが私のことをそう言っておられました。簡単に言えば、貴方様の考えているように軍用機械人形に間違いはないと思われます。以上」

「軍用……」

 ファイの考えは8割方あっていたようだった。しかし、わからないのが「空白」の2文字。

「空白ってのは?」

「それは私にも分かりかねます」

 軍用……軍用かぁ。

 ファイは考える。

 確かにこの国では軍用機械人形の製造は禁止されている。しかし、所持についての規定は特にない。現に所持している人というのは少ないのだから。ならば持って帰っても支障はないんじゃないか?

 一瞬だけそう考えたが、すぐに取りやめた。同い年くらいの女の子の機械人形を持ち帰ったとなると幼馴染であるリィーアが怒ってくる様子が想像できたからである。

 とはいえ、守ってもらってこのまま立ち去るというのもなんだと思ったので一応名前だけは聞いておくことにした。

「お前、名前とかってあんの?」

「今は名前はありません。つけて頂けると有難ありがたいです。以上」

「へぇ……んじゃぁ……」

 せっかくなのでファイは名前を考える。

 機械……自動機械………。古代英語でいうとロボットだから、つづりの頭文字は「l」で……。

「前の主につけてもらった名前ってある?」

「エリストです。以上」

「なら……エルエリスト……は?」

「エルエリスト。よき名前です。有難ありがとうございます。…………少々ダサい気がしますが……」

「お前今小声でなんか言ったろ……って、まぁいいか。んじゃぁ、俺行くな。遅刻してるし」

 ファイが背を向けて戻ろうとすると、後ろの少女、エルエリストから声がかかる。

「私も行きます。あと、よろしければ主様の名前も教えて頂ければと思います。以上」

「あぁ、ファイ・ファルデリア…ってえ、主様……?」

「はい。私たち機械人形は、名前がないときに名前をつけてくださった方を主様とするように設定されています。以上」

「ちょ、聞いてねえよ!!え、じゃぁ俺はお前と契約したみたいなことなのか?」

「はい。以上」

「取り消す方法は?」

「私に勝つこと」

「……他には?」

 若干あきらめ気味に聞くと

「リセットボタンを押すことです。ちなみにそれは鎖骨の下、胸の間に埋め込まれています。以上」

なんて答えがかえってきて、ファイは深くため息をつく。

「………しかたない。連れて行くか」

 あきらめの早かったファイはエルエリストを連れて学校に向かうことになってしまった。

最初のほうはなんかものすごいギャグタッチになっちゃいました。

すいませんν

ですが一応シリアスもののつもりですのでこれからなんとかしてシリアスにしていきたいです^^


なにか変な文章があったら気軽に行ってください(^^;////)

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