3-1 -急転-
「と、いうわけで」
教卓に着いたセシルが言うが、何の前触れもなしに、というわけも、どういうわけも無い。
「今日からこのアイリがこのクラスで授業を受けるので、みんな仲良くやりな、以上!」
・・・と、言うことらしい。
彼女は本当に今日からこの学校で授業を受けることになったようだ。挨拶も程々に席についたアイリは今まであったであろう大変なことを微塵も顔に出さずレイやラウルに笑いかけていた。
「おはよう」
「あ、おはよう・・・」
シルの挨拶に、目を合わせないようにして応える。頬を若干染めているあたり、昨晩のことが関係するのだろうが、シルは気にしない、いや、気付かないのだ。
今まで、レイやセシルに『女心が分かっていない』と散々言われてきたが、人の性格というのは、そんなに簡単に改善されるものではないらしい。
「アイリって授業どのくらいまでやってんだ?ずいぶん学校行ってないんじゃ?」
とシルが、自分の隣に座っているアイリに聞く。
「う、うん、2年前から行ってないけど、そのときちょうど今のシルと同じ学年だったし」
彼女の返事に、シルは、「へー、そうなん・・・」と、言葉の途中で何かに気付いたらしい。
「え!?もしかして、アイリって年上!?」
「うん、そうだよ、シルが2年間留年してない限りは・・・」
「そ、そうだったのか・・・」
シルは一瞬何かを思い出していたが、すぐに意識を現実に引き戻す。
「まぁなんにせよ同じクラスで良かったな!」
アイリは白い歯を見せながら無邪気な笑みを浮かべるシルから少し目を逸らし、小さな声で「うん」とだけ囁いた。
「二人ともなんかいい雰囲気なんですけど・・・」
レイとラウルは少し離れたところで話している、レイは腕を組みながら不満たっぷりに言う。
「うらやましいのか?」
ラウルが落ち着いた声でレイをからかう、からかわれたレイは顔を真っ赤にし反論する。
「べ、別にそんなんじゃないわよ!」
「ははは、そうだったな、レイはシルのことなんかどうとも思ってないもんな。」
「え、そういう意味じゃなくて・・・」
レイは焦るように両手をわたわたと振りながら言う。それを見てラウルはなおさらおかしそうに笑う、それを見てレイはムッと頬を膨らまして見せた。
しかしそれ以上はからかうのをやめておいた、そうしないと、そろそろレイお得意のボディーブローやらなんやらが飛んできて大変そうだ。
「おまえら、賑やかにするのはいいがな、今は授業中だぞ!」
セシルはシルにだけ白いチョークを叩きつけながら注意する。チョークはシルの額に当たると見事に粉砕した。シルは額を白くしたまま「いってー!何で俺だけ!?」と不満の声を上げる。しかしそれもセシルの「もう一本ぶち込まれたいのかい?」という発言でおとなしくなった。表情は相変わらず不満に満ち満ちた顔をしているが・・・教室はみんなの笑い声で賑やかだった。
そこからは皆静かになり、休み時間を知らせるチャイムが鳴り響いた。号令があり、皆席をはずしてそれぞれの用事を始めた。
あるものは窓際で3,4人でたむろし、会話に花を咲かせている、机に突っ伏して眠っているもの、一人で黙々と読書にふけっているもの、さまざまである。
そんな中この四人は廊下に出て話をしていた。
「どうだ、授業は」
ラウルがアイリの近況をうかがう、シルは窓を開け放し、その窓枠に腰をかけている。アイリとレイは壁に背を預け、ラウルは少し間を空けて立っている。
アイリはいつものごとく遠慮がちに話し始めた。
「うん、みんな良くしてくれるし、授業も大丈夫、着いていけそう。」
「そっか、そりゃ良かった。」
ラウルはいつものイケメンスマイルでにっこりと微笑む、アイリも笑顔でそれに答えた。
その日はそのまま何事も無く平穏な時間が過ぎていくように思われた。
しかし・・・




