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1.最期の時

いつの間にか、窓の外は、夕闇が迫っていた。

石造りの冷たい部屋の中は、ほの暗くなっていた。


どのくらい、こうしていたのだろう。

腕の中で、もう目を開くことのない妻の身体は、

少しずつ、温もりを失っていく。


ユージは、愛しいアラメラの身体をもう一度強く抱きしめると、

静かに抱きあげ、そっと寝台の上に横たえた。


そうして、枕元にある水入れの水を布に含ませると、

自分の顔を拭いた。


例え、妻を亡くした直後であろうとも、

王である自分が、気づかぬ間に涙にぬれてしまった頬を

この水晶塔の出口で自分と妻を待っている

兵士たちに見せるわけにはいかない。

幼い頃から一緒に育った親友である竜騎士長にでさえ。


未だに、ダカーは自分を親友と思っているのだろうか?

愛するアラメラを奪った今でも?


静かに顔をぬぐい終えると、

ユージは、アラメラの身体を静かに抱きあげる。


アラメラは、最後の装束に、「白き竜」と呼ばれ、

白魔導師として戦場をかけめぐっていた頃の

白い鎧をまとっていた。


しかし、その鎧と身体の間には、大きく、隙間が空いていた。

すっかり、細くなってしまった、その身体。

8年の苦しみは、彼女の身も心も蝕ばみ、

身体は、小さく軽くなってしまった。


けれども、その眠っているような顔は、とても穏やかだった。

やっと、彼女は、静かに眠れるのだ。

その顔は、出会った頃の少女の頃の面影に近かった。


穏やかに逝かせることが出来て良かったという思いの反面、

自分を独りにして、穏やかに眠るように逝ってしまった彼女に

なんとも、やりきれない、憤りのようなものを感じる。


彼女は、自分を残して逝ってしまうことに、

なんの躊躇もなかったのか?

もう、彼女の心の中に、自分を想う気持ちはなかったのか?


彼女を苦しめていたのが、全て自分が起因しているということは、

今はもう、ユージは判っている。


けれど、再び心は通じあったと、

最期の瞬間にもユージは感じていたのに。


何故、生きている間に、

もっとこの身体を抱きしめなかったのだろう?

何故、生きている間に、

もっと話をしなかったのだろう?


何故、もっと生きている間に・・・・・。


ユージの心に、自分を責める後悔の念があふれる。


その時、頭上から、

「クイーン!」

という哀しげな竜の絞り出すような鳴き声と

大きな羽の音がして、

水晶塔の最上階のこの部屋を大きな影が包んだ。


アラメラの白き竜、チラルの声だ。

アラメラの死を悲しんでいる。


いつまでも、ユージはアラメラとふたり、

こうしていたかった。


けれど、夜の闇はそこまで来ている。

もう、行かなければならない。


ユージは、アラメラをもう一度、しっかりと抱きしめなおし、

塔の外へと足を向けた。


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