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境のほとり~ふしぎの境~  作者: 夜霧


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メモ帳

 スマホのメモ帳の一番下に、見覚えのないファイルが増えていた

「ひさしぶり」とだけ題名がついている


 開いてみると一言目で手が止まった

「先に死んじゃってごめん。たぶん、これを読む頃には三年くらい経っていると思う」


 亡くなった人の名前はどこにも書いてないけれど、言い回しや句読点の打ち方で、誰からなのかはすぐにわかった


「もしまた泣いてたら、少し休憩して」

「ちゃんとご飯を食べてるかな?」

「心配性なあなただけど、あなたが思っているより大丈夫」


 スクロールすると日付が遡っていく

 入院した日、検査結果を聞いた日、最初に弱音をはいた夜

 生きていた頃のあの人が未来の私に向けて「その日」の気持ちを少しずつ残していた


 最後の行だけ日付けが空欄になっていた

「ここから先のことは分からないけれど、あなたが誰かに優しく出来ているのならそれで十分です」


 その一文の後ろには余白だけ

 続きは書かれていない

 気付けば、指が勝手に動いていた


「今日はちゃんとご飯を食べました」

「少しだけ、あなたの真似をして、人に優しくしてみました」


 書き終えて保存すると、メモ帳の題名が変わっていた


「ひさしぶり」から「いってきます」


 その後にいつもの顔文字がひとつ


 私は、くすりと笑った



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