腹痛を仮病と言われてしまうと、さすがに……。〜婚約破棄されても生きていくのです〜
ある日のこと、朝から腹痛だった私は自室で休んでいたのだけれど、遊びに来てからそのことを知った婚約者ラザールは急に不機嫌になった。
「なんだよ! 婚約者が来てやったのに、遊べない、とか! あり得ねぇだろ!」
「すみません」
「腹が痛い? なんだその理由! どうせ仮病だろ? 俺と遊ぶの嫌だからそんなこと言ってんだろ?」
体調への気遣いなど一切なく。
むしろ攻撃的な態度をとってくるほどで。
「そんなことはありません」
「はあ? 嘘つくな! そんな雑な嘘でごまかせると思うなよ!」
しまいには滅茶苦茶なことを言い出して。
「腹痛くらいなら遊べるだろ。なのに、それを理由に遊べないとか、あり得ねぇ。あり得ねぇの極みだ。そんなくっだらねぇ嘘ついて何が楽しいんだ? なぁ? 何が楽しくてそんなこと言ってんだ? 馬鹿かよ!」
勝手に極端な思考を抱き、勝手に怒っている。
「もういい! 婚約は破棄だ!」
妄想で怒った彼は、しまいに、そんな風に宣言してきた。
「お前みたいな女、遊んでくれねぇなら要らねぇんだよ!」
彼はそう吐き捨てると去っていった。
はぁ……? と言いたいような気分だった。そんなことを言っては失礼かもしれないけれど。でも、ここまで理不尽に理不尽を塗り重ねたようなことをされると、そう言わずにはいられないような気分だった。……当然、実際には口から出さなかったけれど。ただ、私は、滅茶苦茶なことを言い勝手に怒り婚約破棄宣言をしてくるような人にでも優しくできるほど完成された人間ではない。許されるなら、本音を言うなら。……何なの、それ? とはっきり放ってやりたいくらいの気持ちだった。彼という人、そのすべてが、ただひたすらに不愉快だったのだ。
◆
あれから数ヵ月。
元婚約者である彼ラザールは突如亡くなった。
朝食後、急に、激しい腹痛に襲われたそうで。一時間くらい悶え苦しみ、病院へ運ばれるも手遅れで。内蔵に異常が起きていたらしく、そのままこの世を去ったようだ。
彼がかつて放った言葉を覚えている。
『腹が痛い? なんだその理由! どうせ仮病だろ?』
それは、腹痛で弱っていた私へ彼がかけた言葉だ。
『腹痛くらいなら遊べるだろ』
命に関わるほどのものではなかった。だがそれでも辛かった。普通の生活をすることはできないような痛みで、だから自室で休んでいた。
にもかかわらず彼は冷たい言葉を投げつけて。
まるで私が悪いかのような接し方をしてきた。
彼が腹痛の果てに亡くなった今だからこそ、問いたい。
……私の気持ち、少しは理解できた?
弱っている時に。
苦痛がある時に。
嘘つき扱いされた気持ちがどんなものか。
……彼も今なら少しは分かるだろうか?
だが問っても答えは返ってこない。
もう彼はいないから。
もう彼は答えを述べることすらできない。
悲しいくらい呆気なく、彼はこの世から消えた。
◆
ラザールの死後、親の紹介で知り合った青年と親しくなった私は、じっくり話し合ったうえで婚約し、結婚した。
青年との関係は順調だった。
お互いを思いやりながら生活できているからこそ、快適な日々の中で生きることができている。
穏やかな日常こそが何よりも偉大な宝物。
そう思って過ごす彼との日々は、とても優しくて、とても愛おしい。
◆終わり◆




