第1話「謎のアプリ」
――こんなアプリ、入れた覚えはない。
内田優成は、スマホの画面を凝視していた。
見慣れないアイコン。
黒い背景に、白い線だけで描かれたグラフ。
「……なんだこれ」
アプリ名は――『Forecast』
記憶を辿っても、ダウンロードした覚えはない。
広告も踏んでいないし、変なサイトも見ていない。
なのに、入っている。
「気味悪……」
アンインストールしようとして、指が止まる。
なぜか分からない。
でも――消したらいけない気がした。
「……開くだけならいいか」
タップする。
画面はシンプルだった。
グラフと、数字。
そして、一行だけ表示されたテキスト。
【本日の推奨行動】
・銘柄コード:1192
・10:00 買い
・14:50 売り
「……は?」
一瞬、意味が分からなかった。
「これ……株?」
そんなの、やったこともない。
でも、妙に具体的だ。
時間まで細かく指定されている。
「……詐欺アプリか?」
そう思うのが普通だ。
だが――
画面の下に、小さくこう書かれていた。
※結果は自己責任で利用してください
「当たり前だろ……」
苦笑する。
そのとき、ふと気づく。
「……今、9:58?」
時計を見る。
あと、2分。
胸の奥がざわつく。
「いやいや、やるわけないだろ」
普通はそうだ。
でも――
もし、当たったら?
そんな考えが頭をよぎる。
「……ちょっとだけ」
優成は証券アプリを開いた。
以前、友達に勧められて登録だけしていた口座。
残高は、十万円ほど。
「最悪、全部なくなっても……まあいいか」
完全に軽いノリだった。
――10:00
「えいっ」
成行で買う。
それだけ。
「……ほんとにやっちまった」
苦笑する。
だが、この時点ではまだ“遊び”だった。
授業中。
優成は何度もスマホを見そうになるのを我慢していた。
(どうなってるんだよ……)
気になって仕方がない。
そして、放課後。
我慢の限界だった。
「……見るか」
スマホを開く。
表示された数字を見て、思考が止まる。
「……は?」
評価額――
+23,000円
「……はぁ!?」
思わず声が出た。
たった数時間で、二万三千円。
「いやいやいや……おかしいだろ」
震える手で画面をスクロールする。
確かに上がっている。
グラフも、一直線に近い形で。
「……マジで?」
偶然?
それとも――
「……まだだ」
アプリの指示は“14:50に売り”。
そこまで待てば分かる。
帰宅後。
時計は14:49を指していた。
「あと一分……」
心臓がうるさい。
たかが数万円のはずなのに、妙に重い。
――14:50
「今だ!」
売却ボタンを押す。
数秒のラグ。
そして――確定。
「……っ!」
最終利益。
+38,000円
「……やば」
声が震えた。
本当に当たった。
いや、“当てた”というより――
「未来、知ってるみたいじゃん……」
アプリを見る。
静かな画面。
だが、その奥に何か得体の知れないものを感じる。
そのとき。
新しい通知が表示された。
【次の推奨行動は明日表示されます】
「……続きがあるのかよ」
笑いがこみ上げる。
怖さよりも――
期待の方が大きかった。
「……明日もやるか」
この選択が。
自分の人生を大きく変えることになるとも知らずに。




