第2話
何とか1点リードのまま後半戦へ――
「よし、あと半分だ!みんな頑張ろうぜ!」
「勝てる!いや、勝つぞ!」
先制点を取ったからか、久しぶりの勝利の予感を感じるのか。
チームはいつもより少し明るい雰囲気だ。
しかし、そのムードも束の間だった……
ピピッ!
ペナルティエリアでのファール……
相手チームのPKであった。
「すいません……俺……」
田崎が泣きそうな顔で謝る。
「田崎のせいじゃない……頑張って守ってたんだ……」
ピーッ!
無情にもボールはネットへと包まれた……
「ハァ……」
どこからかため息が聞こえる。
「気持ち切り替えて!取られたら取り返す!」
口では簡単だが、スポーツとはそう上手くいくものでは無い。
後半ロスタイム――
ズルズルと時間だけが流れ、ひとつもチャンスを掴めずに諦めムードが漂う。
(ハァ……しゃーない。やってみるか)
スンッ……
「うおっ……」
一瞬、気を失いそうになった。
「キャプテン、大丈夫っすか。最悪引き分けでしょーがないっす」
「いやいやいや、勝つに決まってるでしょ!」
(はっ?何言ってるの俺)
(俺?いやいや、そんな事言って無いぞ。)
「ヘイ、パスパス!」
中央付近でボールを受ける修斗。
ザッ!ザッ!
1人2人とドリブルで躱していく。
あとはGKだけ……
「うぉ〜!」
飛び出してくる第一のGK
サッ……
スパンッ!パシュ……
GKまでも躱し余裕のゴール。
俺が……
(何もしてないのに……身体が勝手に動いてる……)
「うぉ!」
また、少し気を失いそうに……
ピッピッピー!
試合終了のホイッスルが鳴り響いた。
駆け寄るチームメイト。
久しぶりだ。試合後の笑顔のチームを見るのは……
「キャプテーン!あんな凄い事出来るなら始めからしてよ〜」
浜神は嬉しそうに肩を抱いてきた。
「…………ん、あ、あぁ」
全く実感が無い勝利。
ベンチへ戻るといつもは寝てるか、ボーッとしている監督が立ち上がってこちらをみている。
「お前……来都か?」
「へっ?」
楠 来都。
ウチの高校を全国大会準優勝まで連れて行ってくれた立役者。
高校卒業後はプロとして活躍し、日本代表でもアシスト、ゴールを量産。
その後フランスへ渡りフランスリーグでもその名を轟かせる選手……だった……
3年前までは……
俺が高校受験を控える中学3年生の時に、移籍先のフランスで事故に会い、帰らぬ人となってしまったからだ。
子供心にショックで涙を流した思い出がある。
日本の至宝と呼ばれる選手だったのに……
「いや、すまん。何でもない……来都はもう居ないんだ……お疲れさん……」
そう呟きパイプイスへと腰掛ける監督はどこか寂しそうな顔を見せた。
(健三監督、まだ監督やってたんだ。)
翌日――
坂井 涼太の弟 坂井 陣が部室へと顔を出した。
「兄貴に説得されて、始めは戻るつもりは無かったんですが……昨日の練習試合を見に行ってて、キャプテンのゴール見て……その……もう一度、やらせて下さい。」
深々と頭を下げる陣。
自分自身の活躍では無いが、確かに自分が相手を抜き去りゴールを決めた事は事実であった。
「あ、あぁ……戻って来てくれてありがとな!」
それからと言うもの――
部活の練習では特別変わりが無いが。
練習試合や紅白戦。
試合と言う名のつく物は連戦連勝……負ける事が無くなった。
そして、決まって毎回……試合中と試合後に気を失いそうになる。
「いよいよ来週からインターハイの地区予選か……」
勝てる事は嬉しいがどうしても実感が湧かない。
そして、最近ある事に気が付いた。
俺が気を失いそうになると、決まって別の声が頭に入ってきて自分の自由が奪われる。
自分の中に、別の誰かが存在している。
「あっ……くる……」
気を失いそうになるのが分かるようになっていた。
試合中でも無いのに、こんな事は初めてだ。
(おい!修斗!やっと気付いてくれたか)
「ん?貴方は誰なんです?」
自分の中で会話が出来る……変な感覚だ……
(あっ、見えはしないんだった……ちょっと待ってろよ〜)
ボフン……
(これで見えるだろ?)
「えっ!?く、楠選手……ですか?」
目の前……いや正確には見えては無いが。
言うなれば心の自分の目の前に楠選手が立っていた。
(そっ!楠 来都。やっと気付いてくれたんだもんな〜……気付くの遅〜よ……修斗)
「いや……いやいや……なんで楠選手が……」
(修斗。お前、少し前に古ぼけた神社でお参りしてねーか?)
「…………あっ!しました」
半ば諦めて神頼みにと立ち寄った見慣れない神社。
(あの時、たまたま神様……って言うのか?が聞いてて)
楠選手から事の経緯を説明されたが、あまりにも突拍子も無い話に半信半疑であった。
しかし、ここ最近の試合結果だけは真実だ。
「話は分かりました。それで、楠選手は……」
(来都で良いよ!俺、居候みたいな物だし)
「は、はぁ……では……来都はどうすれば成仏できるんですか?」
修斗にそう聞かれ、来都は腕を組み考えこんだ。
(よし、決めた!)
決めたって……自分の成仏の仕方を、自分で決められる物なのか?
「で?どうすれば良いんです?」
(あれだ!高校サッカー全国大会優勝!あれだけは経験出来なかったからな〜)
幽霊なのにしみじみとした表情で語る来都。
またもや無茶苦茶な事を投げ込んで来た。
「出来るわけ無いでしょ!インターハイ優勝なんて!」
(そうか〜?何回か修斗と入れ替わって見てたけどよ……)
来都は数回、自分と入れ替わって試合を経験しただけで、チームメイトの癖や、ここは直した方が良い所などをスラスラと言い始めた。
(って事だ。おい、修斗聞いてんのか?)
「たった数回入れ替わっただけでそこまで……」
(当たり前だろ!俺は日本の至宝なんだぜ!)
鬱陶しい……面と向かって絶対には言えないが……
(お前……今、鬱陶しいって思っただろ……)
ギクッ!
そんなこんなで幽霊となった日本の至宝を成仏させる為、修斗はインターハイ優勝を目指す事となってしまった……




