外伝:勝と軍艦
俺の名は蟹江勝。
人間だった頃は43歳――だが、今となってはもう自分の年なんてわからん。
一応、人間年齢43歳+蟹歴200年+ヤドカリ歴800年くらいってとこだ。
……なにそれ?って思っただろう。
俺はもともと、どこにでもいる普通のサラリーマンだったんだ。
だが、ふとした拍子に――なんかこう、魔力がブワッと満ちてる異世界に転生してしまったんだよ!
しかも、よりによって蟹としてな!
まあ、細かいことは置いとこう。
それより聞いてくれ。俺は軍艦が嫌いだ。
あいつら、マジで問答無用で撃ってくる。
ピリピリした変な電気みたいなのを飛ばしてくるし、やたらとでっかい砲弾も撃ち込んでくるし……
とにかく、ものすごく鬱陶しい。
しかもだ――今から250年前。
俺が暮らしてた海域の沿岸都市を、あいつらは焼き払いやがった。
何の落ち度もない、ただ平和に暮らしてた人間たちの街をだ。
俺は人間が好きだ。
平和主義な国に生まれた者として、そういう非道は許せない。
だから俺は決めている。
見つけ次第、撃沈だ。
なぜこんなことを言っているのかって?
――それはな、何年ぶりかに俺の生活圏に軍艦が入り込んできやがったからだ!
あれだけボコボコに沈めてきたってのに、まったく懲りない連中である。
どこにそんな勇気があるのか、逆に教えてほしい。
……まあ、俺も鬼じゃない。カニだけど。あ、いや今はヤドカリか。
とにかく、慈悲深い俺は、いつもちゃんと脱出の猶予は与えてやっている。
本気を出せば、奴らの鉄クズなんざ必殺・シャコパンチで粉みじんだぞ?
一撃だ、一撃。ガチでやれば海底の藻屑だ。
――にもかかわらず。
俺はいつも、脱出用のカプセルが飛ぶのを確認してから沈めてやっている。
なんて優しいんだ俺。感謝してほしい。マジで。
というわけで、久々に全力で泳ぎ――
ザバーンと波をかき分けて、ハサミを高々と掲げ、軍艦に「ごあいさつ」してやった。
俺は不意打ちはしない主義だ。
不意打ちは犠牲が増えるからな。
しかし奴らはいつも通り俺を見るなり「化け蟹だー!」と叫び、ピリピリした豆鉄砲を撃ってくる……
はずだったのだが、今回は違った。
撃ってこない。
代わりに――ピカピカの新型らしき砲身が、俺に向けられていた。
ただの飾りではない、すさまじいエネルギーが収束しているのが分かる。
――ズドォォォォォン!
ふむ。いい音だ。過去一デカいかもしれん。ちょっと熱い。
……が、俺の超古代文明由来の殻には、傷一つつかない。
というか、ハサミで受けても平気だったなコレ。
こないだの「まとめしもの」の剣技の方が、正直強かったんじゃないか?
などとぼんやり考えながら、俺はその最新鋭っぽい砲身をハサミでズバッとカット。
そのまま、海にポイッと捨ててやった。
軍艦の上では軍人たちがあたふたし始める。
まあな、自慢の新兵器が効かないどころか、秒で壊されたらそうもなるだろう。
だが、俺は容赦しない。
見慣れたピリピリ砲をプチプチ潰し、推進スクリューを破壊し、
最後に船体をコツコツと叩いてやる。慌てて逃げ始めたのを見計らって、穴をぷすり。
……これが、いつもの流れ。
今日もまた、海の平和を一つ、守ってしまったな。
ふと横を見ると、「まとめしもの」が乗っている船が航行していた。
あいつもあいつで、相変わらず冒険してるんだろう。
俺は応援の気持ちを込めて、ハサミをフリフリしてやった。
……が、なぜだろう。こっちを認識した瞬間、ものすごい勢いで遠ざかっていくではないか。
きっと、俺が他の軍艦も沈めてるかもしれないとか、
軍艦に追われてる中で偶然俺を見てビックリしたんだろう。うん、仕方ない。
俺、デカいもんな……。
などと自己弁護をしながら、俺は今日も海底へ――
ぶくぶくと、帰っていったのだった。
軍艦を退治してから数日。
俺は海底に沈んだ軍艦の残骸をこねこねして、仲間のヤドカリたちの家を作っていた。
久々の大物とあって、ヤドカリたちのテンションは高い。
「王よ! トゲトゲしたカッコいいやつを仕上げてくれ!」
「ピカピカの筒が居心地よさそうです、王よ!」
……海底の住人たちにとって、軍艦は人気の物件である。
毎度思うが、こいつら“王”って呼ぶわりに注文多すぎじゃねえか……。
こうして、俺の何気ない日常は今日も続いていくのであった。
転生したら蟹でした2に続きます!
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