最終話:深海のまなざし
長い長い年月が流れていた。
勝は変わらず海の底で暮らしていた。時には砂の中に潜り、時には朽ちた沈没船の陰で擬態しながら、ただ静かに人間たちの様子をうかがっていた。
かつて軍艦に砲撃されたあの頃から、すでに何百年という時が経っていた。
今では念話で片言ながらも人間の言葉を理解し、必要があれば最低限の意思疎通もできる。
けれども、まだ本当の意味で人の輪に入ることはできなかった。
「……マタ、イッタ……ナ……」
今日もまた、海上を小さな船が通り過ぎていく。
勝はふと、目を閉じた。
その脳裏に焼きついているのは、かつての戦い──
あのミサイルのようなスピードで突っ込んできた、虚無の先兵・巨大マグロとの激突だ。
「……マグロ……アレハ、ハジマリ……ニ、スギナイ……」
勝はこの数百年、自らの感覚と、沈没船の中枢にあった古代魔導文明の残骸を通して、少しずつこの世界の“構造”を理解していった。
そして、確信に至る。
──マグロは「虚無の災厄」の一部だった。
その存在は、異次元から世界の理を食い破るようにして侵入してくる。
古代、これに立ち向かい、なんとか封印に成功したのが、伝説の魔剣士たちだったらしい。
『災厄因子、封印継続中。安定度低下傾向』
沈没戦艦の中枢に残された記録の一節。
勝はそこに記された断片的な情報を、何百年もかけて解読していた。
「……フウイン……ツヨクナイ……」
「……モウスグ……トケル……カモ……」
気づけば、500年という歳月が過ぎていた。
思い返せば、虚無と直接対峙したのは、あのマグロとの戦いが最後だった。
「……タタカウベキ、モノ……アラワレル……ノカ……」
そうつぶやきながら、勝はそっと目を閉じた。
沈没戦艦のコアの中、光のラインが脈動している。
人間たちは、今も地上で生きている。
かつて出会った炎の魔剣士、リュウガのように、いつか誰かがまた立ち向かうのかもしれない。
今度こそ、虚無そのものに。
「……ソレマデ……マモル……」
「……キケン……キヅカセナイト……」
けれど、勝自身が再びあの災厄と戦う日が来るかどうかはわからない。
自分の役割は、もう終わりつつあるのかもしれない。
――こうして、転生したバケガニの物語は、一つの終わりを迎える。
しかし、波の奥底、静かに蠢くものがあった。
封印が崩れ始めるそのとき、新たな光が、深海の闇を裂いて差し込むことを信じて。
勝は、そのときまで眠りにつく。
静かに、静かに──
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