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第15話:西山港(せいざんこう)にて

リュウガが目を覚ましたのは、小さな港町「西山港」の一軒家の中だった。


漁師の一家に助けられ、数日間、養生していた。




体は回復していた。しかし――心はそうではなかった。




ある朝、漁師の娘が無邪気に差し出した焼きガニに、リュウガは目を見開き、後ずさった。




「い、いやだ……! 食えない! 近づけるなッ……!」




突然の叫びに、家族全員がぽかんとする。




「どうしたんだい、お兄ちゃん? カニ、怖いの?」




その問いにリュウガは顔を伏せ、ただ一言つぶやいた。




「……バケモノだった」




──あの巨大なハサミ。テレパシーで語りかけてきた低く重い声。


自分の炎の魔剣すら通じなかった硬殻。


なによりも、あのとてつもなく重いパンチの記憶が、骨の奥に残っている。




彼はあの日、力だけでなく“矜持”まで砕かれた。




だが、その敗北が彼を変えた。




港に暮らしながら、リュウガは村の老人たちから様々な伝承を学び、


武の意味、魔剣の歴史、人の限界を知るようになった。




焦らず鍛えること。


状況を読むこと。


敵の力を侮らぬこと。




──かつての自分に足りなかったものが、少しずつ埋まっていった。




そしてある日、港に一通の文が届いた。


彼の師匠が、彼の成長を見届けるため、呼び寄せたのだ。




「リュウガよ。お前に『 カルド・ゲイザー・レプリカ』を授けよう。これはお前のために鍛えた専用魔剣、正統なるレプリカだ」




柄を握ったその瞬間、リュウガの中に再び火が灯る。


だが、決してあの日のような“イキり”ではない。慎重さと覚悟を伴った“業火”だった。




──その瞳の奥には、まだカニの影がちらついていたが。




「いつか、もう一度……あのバケガニに出会ったとき。今度こそ、きちんと話をしてみたい」




カニ恐怖症を克服するには、まだまだ時間がかかりそうだったが――


リュウガは、確実に強くなっていた。

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