第13話:言葉なき声の先に
かつて西方の未開海域で生きていたカニ、勝。
カジキとの死闘、虚無の先兵・マグロとの激突、そして戦いの果てに得た超古代戦艦の殻を背負い、彼はいま――東方近海に姿を現した。
長き旅路の末に辿り着いたこの海域は、人類の領域だった。文明の匂い。船の音。煙のにおい。
それは勝にとって、初めて「夢」が触れられそうになる瞬間だった。
「おおぉぉぉおお!!ニンゲンだーーー!!」
思わずハサミを高く掲げて喜びを表現する勝。
しかし、当然のように人類は混乱した。
「怪物だ!撃てーーーッ!」
どどどどどどどどどど!!
軍艦からの一斉射撃が炸裂。海が火花に染まり、爆音が轟いた。だが、勝にはまったく効かない。戦艦の骨格でできた甲殻が、すべてを弾いた。
……にもかかわらず、反射的にハサミをブン!と思い切り振り回してしまった。
(やばい……これ、完全に敵意と取られてる……!)
困惑しながらも、勝は気づく。
彼は人間の言葉がまるで分からず、そもそも発声器官もなかったのだ。
それでも、彼は諦めなかった。
むしろこの逆境に燃えた。
「ならば……学ぶまで!」
彼はそれから何度も海面に現れ、人間の様子を観察した。港に近づいては追い払われ、灯台の下でこっそり浮上し、船の無線を盗み聞く。海底に沈んだボロ船から日誌や絵本を拾い、ひとりで黙読の練習を続けた。
人間の言葉は、なんてややこしいのか。
名詞、動詞、助詞、発音、イントネーション、スラング、方言、そして比喩!
しかし時は力をくれる。
気が付けば、彼は学習を始めてから200年が経過していた。
ついに勝は、思考の中に「伝える力」を生み出す。
声帯の代わりに、心が響きを作り出す。
テレパシー。
――それは、彼が人間と通じ合うためにたどり着いた、唯一の答えだった。
もちろん最初はうまくいかなかった。音にならず、意味も混乱していた。
「……コンニチ……ハ。ワタシ、カニ……ア、勝。」
「オマエ……ニンゲン? ナカヨク……ナリタイ。」
港の空に、微弱な“声”がぽつぽつとこぼれる。
それを誰が聞いたのかは、まだわからない。
だが、彼は確かに語りかけた。
甲殻の奥、鉄と魔導の殻を背に負ったまま、
彼は“伝える”という最初の一歩を踏み出したのだ。
勝の旅はまだ終わらない。
言葉を手にした今、彼の物語は新たな幕を開ける。
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