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第12話:やどかり、そして王

マグロとの死闘を制し、勝は海の覇者となった。


 周囲の魚介たちはひれを震わせ、彼の名を讃えた。


 「勝さんマジパねぇっス……」「あれが“マグロ喰い”か……」などと噂は瞬く間に広がり、ズワイタウンでは勝の等身大海藻パネルが設置されかけていた。




 しかし――勝はそれどころではなかった。




 「……なんか、足……足りなくねぇか?」




 興奮と疲労で気づかなかったが、勝は歩脚を二本失っていた。


 しかも、甲羅の構造も微妙に変わっている。




 ズワイタウンの長老がぬめっと言った。


 「これはもう……ヤドカリじゃな」


 「うそだろ!? 俺、カニじゃなかったのかよ!」




 勝は動揺した。


 確かに、甲羅が硬くならない。背中がスカスカする。


 ハサミがどんなに強くても、カニとしての威厳はない。




 「……宿、探さねぇとな」




 かくして、勝の新たな旅が始まった。


 カニでありながらヤドカリになってしまった男の、宿探しの旅である。




 潮の流れに乗って何日か、勝はついにそれを見つけた。




 ――とてつもなくでかい、沈没船。しかも戦艦タイプ。




 「おいおいおい……あれ、殻にできるんじゃねぇか?」




 見るからに頑丈そうな鋼の装甲、船体からはどことなく不穏なオーラが漂っていた。


 だが、勝は臆さなかった。これが自分の“殻”になると、魂で感じたのだ。




 「とりあえず……強度チェックといくか」




 シャコパンチ。


 カジキの速度、モンハナシャコの威力、ヤシガニの質量を融合させた、勝の渾身の打撃。


 それを沈没船の船腹に叩き込む!




 ドゴォォン!




 艦体の装飾や外装はバキバキに壊れたが――


 船の中枢、いわば“骨格”は無傷だった。


 そして、その表面には淡く青白い光のラインが走っていた。




 「こいつ……ただの戦艦じゃねぇ。生きてやがる……!」




 よく見ると、艦の内部には奇妙な文字が刻まれていた。


 触れた瞬間、勝の脳裏に幻のような映像が流れ込む。




 それは――超古代魔導文明の遺産。


 この海底に文明が存在した時代、人々が海をも征服しようとしていた時代の記憶だった。




 「……どうやら、とんでもねぇ宿を手に入れちまったみてぇだな」




 勝はニヤリと笑い、戦艦の中に体を収める。


 サイズも申し分ない。全体の重量バランスも安定しており、甲殻の代わりとして完璧だった。




 「よし……これからは“艦甲殻種・勝せんこうかくしゅ・かつ”ってことで頼むわ」




 誰にともなく名乗りつつ、戦艦をズズズと動かし始める。




 そのとき、船内に散らばっていた遺物――


 金属のスプーン、紙のようなものに描かれた奇妙な絵(おそらくは写真)、そして靴。


 “人間”の痕跡だった。




 「……いたんだな、人間。こんな深海にまで……」




 勝はその場でしばし立ち止まり、戦艦の内部を見渡した。




 「……次は、あいつらに会ってみてぇ」




 かつて海に沈み、去っていった存在――人間。


 だが、もしかするとまだどこかに、生き残りがいるかもしれない。


 この魔導戦艦が今も機能しているのなら、人間もまた、どこかで生きている。




 勝はそっと目を閉じた。




 ――海の覇者から、殻探しのヤドカリへ。


 そして今、新たな名を冠して“人類探索カニ”となる。




 「よし、人間探しに出発だ!」




 甲殻の響きを残して、海の底から戦艦が動き出した。


 次なる物語の波音が、遠くで鳴り始めていた。

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