運命
俺がニッキギさんと山中を歩いていたときの話である。俺は前を歩くニッキギさんに話しかけた。
「ニッキギさん」
「なんだい?ミスミ」
「ニッキギさんは神様はいると思う?」
「どうしてそんなことを聞くんだい?」
「俺の国は、みんな神様のこと嫌いだったから」
「そうか。私は神様はいると思っているよ。というか、神様がいる思っていないと私は納得出来ないことがたくさんあるからね。80年ほど前ここよりもいくらか遠くにある南の国に私は訪れたことがある。そこで私はある錬金術師の男に出会った。彼は若く快活でエネルギー溢れる男だった。誰よりも祖国を愛し、人を愛していた。その国ではもう長いこと外国人による支配が続いていて、ある時それに怒った国の人たちが反乱を起こした。その中には彼もいた。私はもう何度も友人を失ったことがあるが、それでも長い間彼が死んだことに納得がいかなかった。私はそういう時にこう思うことにしているのだよ。あれが彼の「運命」だったのだと。神様があらかじめ決めていたことだったのだと。こうすればせめて、不当な彼の死をいくらかロマンチックなものにすることができる。そうでもしないと私は、彼が死んだことに納得することできないんだ」
俺はこの話を聞いた時、ニッキギさんが何を言ってるのかなんだかあまりよくわからなかった。だけど、今は本当によくわかる。俺はスズカと行った都会のビル群を遠くの丘から眺めた。綺麗な夕焼け空が広がる時間だった。
「あいつが死んだのも「運命」だったのか…」
「なによ、それ?」
肩に乗った小鳥のマンサクが言った。
「こっちの話。独り言だよ。…でも、もし本当に「運命」なら、俺は神様を許せそうにねえや。俺もまだ若いってことなのかねえ…」
夕焼け空の中にたたずむ摩天楼は、悔しいぐらいに美しかった。