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68話 巻き込まれていく

 私はマリーベルのお説教を聞きながら反省していると、ミレイナが控えめに「あの、マリーベル様……」とマリーベルに声をかけた。


「フレデリック様からの支援もあり、贅沢をしなければ半年以上は余裕で過ごせそうですから、しばらくは大丈夫だと思いますよ」

「……それならよかったです。ですが姫様、今後は軽々しく行動してはいけませんよ」

「……はぁい」


 マリーベルのお説教から助けてくれたミレイナに「ありがとう」という気持ちを込めた視線を送ると、察したミレイナは肩を竦めて苦笑した。そして一口お茶を飲むと、心配そうな目で私を見つめた。


「私が言いたかったのはね、新年祭で気をつけてねってことよ」


 新年祭?この噂によって気をつけなきゃいけないこと……まず師匠の派閥の人たちが寄って来るだろうな。それ以外の派閥にとっては不愉快な噂だろうから警戒しなきゃいけないか。


「わかった。ありがとう、ミレイナ」


 私がにこやかにお礼を言っても、ミレイナは心配そうに顔を曇らせたままだった。そして視線を私の後ろに向けたり周囲を伺うように彷徨わせた後、躊躇いながら声を潜めて話し始めた。


「……私の憶測でしかないけど……メルの悪評は殿下の派閥が流していると思うの」

「でも私の悪い噂を流して何になるの?私を政略結婚の駒にしたいなら悪手だわ」

「政略結婚の駒ならね。でも王位に関しては有効だわ」


 ミレイナの言葉に思わず眉を顰めた。

 

「……殿下は私が王位を狙ってると思ってるの?」

「メルの意思は関係ないのよ。周囲の支持があれば正当な血筋であるメルは十分女王になれるのよ」


 この国は国王の実子であれば男女どちらでも王位を継げる。基本的には長男が王になるため、二男以降や女子が王になることは少ない。


「メルに足りなかったのは魔力と後ろ盾。もしフレデリック様と結婚したらどちらも問題なくなるのよ」

「……それなら何で私をここに追いやったの?」


 結界の館に住んだら、師匠と接触するに決まっている。もし殿下たちが私を王位から遠ざけたかったのならもっと別の所に追いやる方がよかったはずだ。

 眉間に皺を寄せている私を見て、ミレイナは苦笑した。


「多分そこは誤算だったのでしょうね」

「そうでしょうね。私もフレデリック様がここまで姫様に心を開かれるとは思っていませんでした」


 マリーベルまでミレイナに同意した。


 あ〜……確かに始めの頃の師匠、氷点下対応だったよね。今じゃ過保護な母親……


 師匠にバレたら怒られそうなことを考えていると、ミレイナは真剣な顔をして話を続けた。


「ディユテール教皇国みたいに貴族である魔術師が国民の大半である国と違って、平民の方が若干多いこの国では平民の意見もバカにできないのよ」


 平民が反乱を起こしたら、魔力が持つ限りは結界でなんとかなるだろうけど、師匠ほどの魔力がなければいずれ限界がやって来る。そうなる前に平民を魔術で倒すにしても国が荒れるのは必至だ。

 そもそも布を織り、服を仕立てているのも、畑を耕し、作物を育てているのも平民だ。魔力よりもさきに食料が尽きそうだ。

 金などの鉱物を売って他国から食料を買うという手もあるが、鉱物を掘るのも食料を運ぶのも平民だ。つまり平民を敵に回したら大半の貴族は生活できない。そのため平民の支持もある程度必要なのだ。


「……殿下って平民の間では何て言われてるの?」

「そうねぇ……大半は王太子ではないことを不思議に思ってるけど、慈善活動も積極的に行ってて、魔力が少ない陛下を王妃様と支えておられる立派な方って思ってるかしら」


 ……あの殿下が慈善活動?


 顔を合わせれば睨まれ蔑まれた記憶が蘇り、乾いた笑いが 漏れたのはしょうがないと思う。

 ミレイナが声の調子を落として「もうここまで言ったからぶっちゃけるけど」と前置きをしてから続ける。


「殿下たちと関わりのある商会の者たちは、殿下こそ姫様の噂のような方じゃないかって言ってるわ。大きな声では言えないから、こっそりとだけどね」


 仕立て屋のソニアさんの様子を見れば、殿下は商人には横柄な態度を取っているようだったもんね……

 

 ミレイナが言うにはもし殿下が王太子になったら、今王家と取引をしている商会は平民を煽って反乱を起こす可能性もあるとのことだ。今までは私は殿下以上に難ありな王位継承者だったけど、ここへ来て全部覆ってしまった。


 ……何でこんな面倒なことになったんだろう。王位なんていらないから、今のまま師匠たちと自由に暮らせたらいいのに。


 王族の一員である以上避けられない問題だってわかっているけど、心が重く沈んでいく。


 ああ……本格的に命が狙われるんだ……


「メル、くれぐれも気をつけてね」


 ミレイナの言葉が何処か遠く聞こえた。

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