67話 新たな噂
「ねぇメル。最近町で流れてる噂知ってる?」
秋の2の月、下の頃に納品にやってきたミレイナが仏頂面で問いかけてきた。今は本日の師匠による乗馬教室が終わって休憩がてら庭でミレイナとお茶をしている。
今日は前回よりも早く馬を駆る事ができて師匠に頭を撫でられながら褒められた。やったね!
そんな私たちをミレイナは何か言いたげに見ていたので、聞いてみたけど「何でもない」としか答えなかった。
なんだろう?
いつものように私の後ろにはマリーベルが、ミレイナの後ろにはピエールさんが控えている。パールもいつものように穴を掘って体をすっぽり埋もれさせてご満悦だ。師匠は館内に戻っている。私が乗馬の練習をしている間に品物はマリーベル、アメリーさん、テオくんによって館内に運び込まれた。今はアメリーさんとテオくんが館内で仕分けしているだろう。
先日はテオくんを男爵として扱っていた師匠だが、館にいる時は使用人のようにこき使う。それはどうなのかと師匠に抗議したけど、当のテオくんが「まだ魔力布が織れないからせめてこれくらいさせてください」と困った顔で笑いながら言ったのでお願いしている。
本当にテオくんいい子だよね。癒される。師匠や他の貴族に染まりませんように。
ちなみに例の家庭教師はそれはもう不機嫌なオーラがバンバン出ているらしいが、表面上は敬う姿勢を見せ、きちんと教えてくれるようになったらしい。お礼を言われたけど、私は師匠に思ってることを言っただけだ。
「メル、聞いてる?」
私が答えないことに焦れて、ミレイナがますます不機嫌な顔になっている。私は慌ててミレイナの質問を思い出す。
ええと、『最近町で流れてる噂』だったよね?うーん……
記憶を探るけど、特に思い当たるような噂はなかった。
「ごめんごめん。噂は知らないかな」
「そう……」
ミレイナは躊躇いがちに口を開いた。
「今、町では『姫様とフレデリック様は仲睦まじく、姫様が女王になるのがいいのでは』という噂が流れているのよ」
「え!?」
何でそんなことに!?
「そもそも私の『我儘姫』の噂があるじゃない!何で『女王に』なんて話になるの!?」
「その噂の他に虐げられてる噂も一部では流れていたから、我儘姫の噂が嘘じゃないかって」
「でも……そんなの平民には確かめる術ががないじゃない……」
「そうね。でも大司教が『私は姫様とフレデリック様はきっと優しい方だと思います』って発言しちゃったから平民にはそれだけで十分なのよ」
「……嘘でしょ……あの二人喋っちゃったの……?」
会ったこともない大司教がそんなことを言うということは、教会への支援しか考えられない。人の口に戸は立てられないとはいえ、噂がある程度広まっていることに頭を抱える。
「うちの者が言うには、誰からの支援だってことは言わなかったそうよ。ただ自分たちの店に来て、仲が良さそうだったとか、全然横暴じゃなかったとか教会にいた人たちに言ってたらしいわ。鈍い人じゃなければ、支援の出所なんて察するわよね」
ミレイナが呆れるように言った。
確かに私たちからの支援だって言ってはいない。言ってはいない。けど!言ってはいないけど、言ってるようなもんじゃない!!
「あああああ」と頭を抱える私の背後から「お話中失礼いたします。姫様、支援とは何のお話ですか?」とひんやりとした声が降ってきた。ミレイナが私の背後に視線を向けるが一瞬で目を逸らした。そして「頑張って、メル」と謎の応援をされた。
カフェに行ったことはマリーベルには内緒だった。すっかり忘れてた。どうしよう。
ダラダラと冷や汗が流れるが、ここまで話してて今更隠せるわけがない。町でアーシェイヴィルから助けた夫婦に会って、教会の話を聞いて師匠と支援をしたと詳細をぼかして説明した。
話を聞き終わったマリーベルはため息をついた。
「姫様……姫様がお優しいことは知っていますが、支援できるほど姫様には余裕がないでしょう」
「全くもってその通りです」
その通り過ぎて弁解の余地もない。
「姫様が一時的に支援をしても継続するのは難しいですよ。それはそれで民には酷なのではありませんか?」
確かにその通りだろう。私がした事は一時凌ぎにしかならない。それも師匠の上乗せ分がなければ私の自己満足にしかならなかっただろう。というかもう師匠の支援に私がちょっとおまけをつけただけという感じだ。
その後、城ではともかく王族なのだから町では影響を考えて軽々しい行動をしないように、とお説教が始まった。
この前の家庭教師の時に周囲への影響のことを考えなきゃと思ったのに、直後にやらかしてる。師匠への尊敬の念と共に記憶も回収したっぽい。城での扱いが紙よりも軽かったから、つい町でも同じだろうって思ってたなぁ。認識を変えなきゃ。




