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6話 少し前進

倒れているフレデリック様を目にしてパニックになった。

 

「フッフレデリック様……!?えっ餓死!?私たちがもっと早く来ていたら……!」

「落ち着いてください、姫様。……さて、埋めますか。私たちが疑われる前に」

「証拠隠滅!?ますます疑われるんじゃない!?」

「……燃やしますか。館ごと」

「もっとまずいわ!!」

「……うるさいな」


 私とマリーベルが騒いでいたら、怒りを孕んだ低い声がした。のっそりとフレデリック様が起き上がって床に座る。どことなくぼんやりした感じだが、不機嫌そうに眉間に皺が寄っている。


 よかった……生きてた。


 フレデリック様はホッと息を吐き出す私とマリーベルを睨んだ。


「また勝手に入りましたね……」


 一応口調は丁寧だけど、怒りを隠すつもりはないようで顔と雰囲気が怖い。でも今回はしょうがないと思う。


「ちゃんとノックはしましたよ。でもお返事がなかったので、また集中しているのかと思って扉を開けたら倒れているんですもの。そういえば、お身体は大丈夫ですか?」

「寝ていただけですから大丈夫です」


 ……床で寝ていた……?


「フレデリック様……3階にお部屋ちゃんとありますよね?」

「面倒ではありませんか。よくあることなので、気にしないでください」

「よくあるんですか!?ダメですよ……」


 床で寝るなんてダメだと言い募ろうとしたら、途中で誰かのお腹が鳴った。誰かというか、私もマリーベルもさっき食事したばかりだから1人しかいない。


「……そういえばしばらく食べてなかったな」


 マリーベルがため息をついて、持っていたサンドイッチのカゴをフレデリック様に差し出す。


「作業しながら食べられるようにということで、姫様がお作りしました」

「姫様が……?」


 目を丸くしたフレデリック様に見つめられ、私は居た堪れなくなった。


「そんな作ったなんて……ほとんどマリーベルが切ってくれましたし、私が切ったきゅうりは分厚すぎてサンドイッチというよりきゅうり食べてるみたいですし……」


 アワアワしながら私が必死に言っている間に、フレデリック様はサンドイッチのカゴに掛かっていた布を捲って中を見て吹き出した。


「ふっはは。謙遜かと思ってたら……本当にきゅうり、分厚いですね」


 ぐっは。何でよりにもよって一番分厚いきゅうり挟んでるのを持って来るかな!?いやそれしか残ってなかったのね。何でそれ食べておかなかったの、私!


 あああああ〜と悶えている私を放って、マリーベルは魔石を作業机に置いて「返却します。ありがとうございました」とさっさと用を済ませていた。


「では行きましょうか、姫様」


 マリーベルに頷こうとして、私はハッとする。


「フレデリック様、図書室の本は読んでもいいですか?」

「……別に読むのはかまいませんが……」


 何だか歯切れが悪かったけど、フレデリック様の許可を貰ったのでこの後は読書だ。やったね。

 私はウキウキしながらフレデリック様の作業部屋を出ようと、足を扉の方へ向ける。その時フレデリック様に「姫様」と今までより少し柔らかい声をかけられた。


「サンドイッチ、ありがとうございます」


 あんなサンドイッチでもお礼を言われた。初めて作った料理にお礼を言われた。私は嬉しくて満面の笑みをフレデリック様に向けて部屋を後にした。

 


「よーし、本読むぞー!」


 マリーベルと図書室に移動した私は早速本棚から本を取り出して読み始めた。これも魔術の本のようだ。ワクワクしながら読み始めたが、数ページで投げ出した。


「無理……基礎知識もないのに、応用の話をされても……次」


 次に手を取った本も難しい魔術の本だった。じゃあ次……次……と数十冊読んで思った。


「……もしかしてここにある魔術の本、難しいものしかない?」

「そうかもしれません。私が読んだ本もそうでした。……でも考えてみたらフレデリック様が初級の魔術の本を持ち込むわけがありませんよね」


 ……確かに。建国からずっと狙われやすいこの国を守るための魔術を、歴代の魔術師たちは必死に開発していたはず。それなのに誰1人開発できなかった魔術を、たった10歳で開発したフレデリック様。そんな人が今更初級の魔術の本なんて必要ないだろう。


「物語もないのかな」

「フレデリック様、そういうの読まなそうじゃないですか?」

  

 ……わかる。私はがっかりして肩を落とす。その様子を見ていたマリーベルが、そっと声をかけてくれる。


「後でフレデリック様に聞いてみましょう。もしかしたら以前住まれていた方の本があるかもしれませんし」

「そうね!」


 私はパッと気をとりなおす。そして夕食の準備のために調理場へ移動することにした。

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