66話 支援
「メル!」
師匠に咎めるように名前を呼ばれたけど、私は首を横に振る。
「今度教会に行く時に少しだけど足しにして」
定期的に支援できるわけじゃない。何の解決にもならないのはわかっている。それでも何かしたい。
「そんな……いいのですか」
男性は目を大きく開いたまま声を震わせ確認してきた。師匠の厳しい視線を感じながらも私は頷く。女性は両手で口元を押さえて「やっぱり姫様は女神ですか」と言った。
「いや、違うから!」
強めに否定しておく。それなのに二人からの熱い眼差しを感じる。
お願いだからそんなキラキラした目で見ないで!
居た堪れなくなった私は師匠に視線を向けた。師匠は渋面を浮かべていたが、しばらくするとため息をついた。そしてウエストバッグから硬貨の入った布の袋を出した。私がテーブルの上に置いた大銀貨をその袋に入れて、男性に渡した。
「師匠までいいんですか?」
「メルの気持ちは汲むが、あれだと数日分にしかならないだろうからな」
私と師匠が話している間に男性は袋の中を見てギョッとした。
「こっこんなにいいんですか!?」
「ああ。だが必ずメルシエ商会を通すように。もしお前たちが持ち逃げしたらこの国で生きていけると思うな」
「そっそんなことしません!」
師匠の言葉と雰囲気に夫婦は震え上がった。私もそっと腕をさすった。怖い。実際に容赦なく追い詰めそうで怖い。そんな凍りついた空気を気にした様子もなく、師匠は思い出したように「ああ」と声を上げた。
「俺たちが支援したと言わないように」
「何故ですか?」
理由が分からず私も夫婦も首を傾げる。
「自分たちも支援してくれと色んな団体が言い出してきたら面倒だろう」
「私にはそんなお金ないですしね」
「それに平民に支持を得て、王位を狙ってると思われたくないだろう?」
「うわ、そっちのが面倒です!」
教会は中立で権力とは無関係とは言っても、大司教の発言は平民に強く影響を与える。実際過去に王族や貴族が好き勝手し、平民から搾取するばかりで荒れた国を治めていた王に呆れ、「創造神ディーフェルゥユは人と協力して豊かに発展させるようおっしゃったのに、このような状態を見て何とおっしゃるでしょう」という発言を聞いた平民たちが奮起し、王を斃したということもあった。
私が支援に関わったなんて知られたら、陛下たちに何て思われるか……
王位を狙っていると思われたら、本格的に命を狙われるだろう。今も狙われているっぽいけど、こんな風に町でパフェを食べる事はできる。だけどそれすらもできなくなるだろう。一生を館の中で過ごすことになる。城にいた頃とは比べものにならない程、館での生活は幸せだが、町に行く楽しみを知ってしまった今では館の中だけで一生を終えるのは少々物足りなく感じる。
だから面倒なことは極力回避する!
私は夫婦に私たちからのお金だって言わないように強く念押ししてからカフェを後にした。
その後マリーベルとパールにクッキーや焼き菓子のお土産を買って帰路につく。帰りは転移の魔術陣を使うのではなく、師匠による出張乗馬教室が開かれて馬で帰ることになった。今までに数回、ミレイナが館に納品に来た時に乗馬の練習をしていたが、長距離を自分が手綱を持って乗るのは初めてだ。緩い速度で館まで半分にも満たない距離を走り、前後を交代した。あとはなんだか動きが硬い師匠が手綱を握って私は落ちないようにしがみついている間に館に着いた。
……まだまだ颯爽と乗馬はできそうにないな。テオくんの運動神経が羨ましい限りである。
館に帰ると大幅に帰宅時間が遅くなったため、心配していたマリーベルとパールに出迎えられた。お昼の時間がだいぶ過ぎていたため、すぐに昼食が準備された。けれどパフェを食べてそれなりに満たされていた私のお腹に、いつも通りのお昼ご飯は多かった。でもマリーベルにパフェを食べたことは内緒なので、マリーベルに不審に思われながら必死に詰め込んだ。
……師匠がこっそり笑ってたの、忘れないんだからね。




