62話 やっと仕立て屋へ
玄関近くで仕事していたミレイナに慌ただしく去る詫びを入れ、また今度ゆっくり話そうと約束してテオくんの屋敷を後にした。
静かな貴族街では何となく声が響きそうな気がして、口を開くことが躊躇われた。師匠も特に何も言わず、私の歩調に合わせてくれているが、いつもより歩くペースが早い。入る時と違い、出る時は割とあっさり門から出て、町中に戻ってきた。貴族街周辺なので、普段行くソニアさんの仕立て屋周辺よりは閑散としているが、町特有の活気さがある。貴族街で感じていたような息苦しさからは解放されてホッとする。
ああ、貴族街って城と似た雰囲気なんだ……
用がない限り貴族街に行くのは控えよう。そう心に決めながら、師匠を見上げる。師匠の顔から強張りが消えた気がする。歩くペースもいつも通りに戻った。今度こそ仕立て屋に向かう。
「師匠、ありがとうございました」
「ああ。……俺も使えるだろう?」
私がお礼を言えば、師匠が少しいじけたような視線を向けて来た。何だか師匠が可愛く見えてプッと吹き出す。
「心配しなくてもドミニク様より頼りにしてますよ」
師匠の顔がパァッと輝いた。
「そ、そうか」
師匠は照れくさそうに、でも嬉しさを隠せないようで珍しく口元が弧を描いていた。師匠がご機嫌になってよかった。ドミニク様は尊い犠牲だ。
歩きながら気になっていたことを聞くことにした。
「どうして家庭教師に私がいることを隠したんですか?門番とか監視がいたら、何処からかわかることなんじゃないですか?」
「ああ、いずれわかるだろうな。別に徹底的に隠したかったわけじゃない。あの場にメルがいて、あのままメルが怒鳴り込んで行ったら、もしかしたらあいつが何か危害を加えるかもしれないだろう?結界があるとはいえ、王族に危害を加えたら軽い処罰ではすまない」
そっか。家庭教師を守るためだったんだ。
いくら扱いが悪くても一応は王族だ。私は自分を卑下しすぎてて、周りのことを考えてなかった。周囲への影響もちゃんと考えている師匠に改めて尊敬の念を抱いた。
「俺はあいつがどうなっても構わないが、あんな奴でも処刑されたらメルは心を痛めるだろう?だから接触させなかった」
……違った。家庭教師じゃなくて私の心を守るためだった。有り難いんだけど尊敬の念、ちょっと回収したい。
なんかちょっと得意気な師匠に、「ありがとうございます……」としか返せなかった。
仕立て屋に行くとヴァレリーさんが笑顔で迎えてくれたが、マリーベルがいないとわかるとあからさまに元気がなくなった。
あの……なんかごめんね。……でもちょっと傷つくよ。
ソニアさんがヴァレリーさんの態度を叱り、私と師匠に謝る。気にしなくていいと告げ、私とソニアさんはドレスの調整のため、別室へ行く。師匠はお店の隅にあるソファに座り、ヴァレリーさんにお茶を出してもらって談笑しながら待っていてくれる。
別室に行き、準備されていたドレスを見て固まった。オーダー通り黄緑なのだが、デザインはよくわからずお任せしていた。
まさかこんなに豪華なドレスになるとは……
胸元に緑の大きなリボンがあり、その下に2つ同じ色でそれより少し小さなリボンがついている。袖は肩から二の腕あたりまで膨らみ、そこにまた同色のリボンがついており、そこから手首あたりまで扇形に広がっていた。スカート部分は互い違いに白いフリルが重ねられている。袖のリボンや黄緑のオーバースカートの下部にあるリボンから乳白色の艶が綺麗な丸いものが垂れ下がっている。さらに一番下の裾に近いフリルには緑の石が大小等間隔に施されていた。
……ちょっと待って。リボンの飾りに付いてるあれとか裾のあれ、宝石じゃないよね!?違うよね!?パールやエメラルドとか言わないよね!?




