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57話 ミレイナの闖入

 暑さが和らぎ過ごしやすくなってきた秋の1の月、上の頃。

 いつものようにテオくんとアメリーさんがやって来るという連絡を受けて、転移の魔術陣の準備や結界の許可のためにみんなでぞろぞろと門へ向かう。準備が整い転移されてきたのはテオくん、アメリーさんの他に見慣れぬ少女と老紳士がいた。知らない人がいることに「あれ?」と思い、視線をテオくんとアメリーさんに向ける。困惑顔のテオくんとアメリーさんはどう説明したらいいのかとまごまごしている。

 

 少女は私やテオくんと同じ年頃で、勝気そうな金色の吊り目が印象的な綺麗な子だ。艶やかなグレーの髪は両サイドを三つ編みして後ろでまとめており、残りの髪は綺麗に巻かれて腰まで広がっている。着ている服が上等なものから貴族か豪商のお嬢様だと推測できる。

 老紳士は少女の後ろに静かに控えている。その佇まいや服装から、少女の従者なのだろう。


「……そちらは?」


 結界の許可を出す前に警戒心たっぷりな声で、師匠がテオくんとアメリーさんを見た。師匠の問いに答えたのは視線を向けられた二人ではなく、少女だった。


「メルシエ商会のミレイナ・メルシエと申します。いつもわたくし共の商会をご利用いただき誠にありがとうございます」


 ミレイナちゃんはそう言うと、スカートを摘み、綺麗なお辞儀をした。


 ん?『ミレイナ』……?


「ああ、テオくんが言ってた宝石商のお嬢さん!」


 私は以前テオくんがかっこいいと言っていた女の子だとわかり、ポンと手を打った。確かテオくんの家で下女として雇うことになったと言っていたはずだ。でも服装といい、さっきの挨拶といい今日は下女ではなく、メルシエ商会の者として来たようだ。


「姫様、僕が話したこと覚えてるんですか?」

「やだなぁ、師匠みたいに頭がいい訳じゃないけど、一月、二月前に話したことはそれなりに覚えてるよ」


 びっくり顔のテオくんにふふっと笑う。テオくんは「嬉しいです」といい、言葉通りの笑みを浮かべた。そんなテオくんを見たミレイナちゃんは悔しそうに顔を歪める。そして私に目を向けると蔑むような色を浮かべ、頬に手を当てて少し首を傾げた。

 

「まあ、何をおっしゃっているのですか?10年程前から食品や雑貨まで手広く商いをしていて宝石だけじゃないのですよ!ご存知ありませんの?」


 口調は丁寧だけど、明らかに馬鹿にされている。


 え。喧嘩売られてる?


 どうしたものかと思っていると、隣と後ろからひんやりしたものを感じた。恐る恐る横を見ると、師匠が憤怒の形相をしていた。


 ひぃっ!これを見て、後ろを見る勇気はない!ミレイナちゃん逃げてー!


 テオくんもアメリーさんも真っ青になってあわあわしているけど、ミレイナちゃんは一瞬恐れの表情を浮かべるも、すぐに自信ありげに微笑んだ。


「本日は提案に参りました。テオやアメリーおばさまが毎回食材を運んでいらっしゃるでしょう?いくら転移の魔術陣が使えると言っても量が多いと大変でしょう。月に何回かこちらまで食材を運びますがいかがでしょうか?」

「何が狙いだ?」


 師匠の睨みに負けず、ミレイナちゃんは「狙いなんてございませんわ」とからりと笑った。


「ただ我が国の誉れであるフレデリック様と取り引きさせていただいているということが広がれば、ますますわたくし共の商会の発展に繋がりそうだと思いまして。もちろんわたくし共も結界を張り続けてくださっていることに感謝しております。今の平和はフレデリック様のお陰だと両親がよく言っておりますもの。ですから輸送費は結構ですわ」


 師匠は表情を若干緩めると腕を組んで考え始めた。師匠の思考の邪魔をしないよう、恐る恐る振り返る。


 ……よかった。無表情で若干ひんやりした怒りを感じるけど、声をかけるのを躊躇うほどではない。


「ねぇマリーベル、テオくんたちに頼むより、メルシエ商会に頼んだ方がいいのかしら?」


 マリーベルは無表情から思案する顔になった。

 

「……そうですね。本来は貴族になったテオに頼むことではありませんから」

「あっそっか。ごめんね、テオくん!」

「いえ、僕は全く気にしてないです!ですからこれからも僕たちが運んでも大丈夫ですよ」


 テオくんの言葉にアメリーさんは頷いている。でもマリーベルに言われた通り、貴族がすることではない。商会に頼んだ方がいいのだろうけど、師匠が何て言うか……

 ちらりと師匠を見る。考え込んでいた師匠がゆっくりと口を開いた。


「条件がある。テオとアメリーがいる日に来ること。食材を運び込むのはマリー、テオ、アメリーで商会の者は館に入らないこと。食材を運ぶ間、馬を貸すこと。これらの条件を呑めるか?」

「馬を貸すことというのはどういうことですか?」


 ミレイナちゃんが怪訝そうに尋ねる。

 

「メルに乗馬の練習をさせたい」


 師匠の言葉にミレイナちゃんは私を見て一瞬憐れむような表情になった。大店の娘で貴族と接することもあるミレイナちゃんは、私が貴族としての教育を受けていないことがわかったのだろう。テオくんたちから聞いているのかもしれないけど。


 根っからの悪い子じゃないのかも。テオくんもかっこいいって言ってたし。


 私がそんなことを考えいている間に師匠とミレイナちゃんは詳細を決め始めた。そこにマリーベルも加わり、月に何回来るのか、どう注文するのか、馬車への結界はどうするのか話を詰めている。

 完全に蚊帳の外の私は同じ立場のテオくんとアメリーさんにそろりと寄って行った。


「ごめんね。私が許可しても、師匠が許可しなきゃ入れないから……」

「あ、いえ……お気になさらず……」


 テオくんは困った顔で笑い、アメリーさんも苦笑していた。大人しくしていたパールはじっとしていることに飽きてきたのか地面に穴を掘り始めた。師匠、マリーベル、ミレイナちゃんの話が終わるまで、私たちはじっと立ったまま待ち続けたのだった。

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