56話 過ぎゆく日々
夕方の鐘が鳴り、テオくんとアメリーさんは帰って行った。アメリーさんが夕食の下拵えをして行ってくれたので、マリーベルは仕事が楽のようで「アメリーさんが来てくれることになってよかったです」と言っていた。
今まで結構無理させてたんだなとちょっと反省した。
マリーベルにはいつも助けてもらってるし何かできることないかなぁ。あっもうちょっと先だけどマリーベルの誕生日に何かあげられないかな。
マリーベルの誕生日は秋の3の月、8の日だ。今までだと何か買おうと思うとマリーベルに言うしかなく、そうするとマリーベルへのプレゼントだとバレてしまっていた。バレると、ただでさえ少ない予算しかもらえないのだからとマリーベルが許可してくれないので買えなかった。けど今は人生で一番お金持ちだ。それならいつも頑張ってくれているマリーベルに感謝を伝えるために使ってもいいだろう。
何がいいかな。あんまり高価だとマリーベルは受け取ってくれない気がする。程よい値段で普段使いできそうなマリーベルに似合うもの。うーん……あっ。
以前のマリーベルの様子を思い浮かべ、何となく決まる。でもそれだけだと物足りない。
何かないかな…………
とりあえず思いついたことに取り掛かりつつ、まだ時間あるしまた考えよう。
テオくんとアメリーさんが5日に1回来る時に、硬貨を預けて食材も買ってきてくれるようになったため、私たちの月1回の買い出しはなくなった。転移の魔術陣を使うため、重いものも問題なしだ。テオくんの魔力では転移するには足りないので、町役場の魔術師にお願いするためお金はかかるけどね。師匠的には魔石を使うよりお金を払う方が安価らしく、食材費と交通費を渡している。
町に行けないことは残念に思ったが、師匠がたまになら町に買い物に行ったらいいと言ってくれた。でもアーシェイヴィルの件があったからしばらくはダメだって。次に町に行くのは私のドレスの調整の時だろうと言われた。
……かなり先じゃない?
がっかりしたがしょうがない。テオくんとアメリーさんの話では、瓦礫の撤去はだいぶ終わったが、以前のような状態に戻るにはまだまだ時間がかかるようだ。何事も少しずつ進めるしかない。
夏の2の月、下の頃。無事師匠の申請が通ったようで、テオくんとアメリーさんが町役場から仕事や書簡などと共に新しい水の魔道具を預かって来てくれた。
多分師匠が強引に宰相に通してもらったんだろうな……ありがとう、宰相。
そして庭の苺が収穫でき、薔薇も咲いた。苺は歯を入れるとジュワッと甘い果汁が広がり、後からやってくる酸味のお陰で重くなくて、いくらでも食べられそうなくらい美味しかった。パールが気に入ってかなり食べていた。パールは果物やお菓子など甘いものが好きなようだ。一応なんでも食べるけど、甘いものの食べる量が半端じゃない。太らないのかなと心配になったけど、魔獣だからか知らないが、全体的に少し大きくなったかなという程度だ。……羨ましい。
庭の薔薇は色がバラバラに咲いているけど、それはそれで色んな色が楽しめて面白い。パールは薔薇の側で走り回っている。私とマリーベルは歩いてゆっくり鑑賞する。師匠は薔薇が綺麗に見える位置に、以前購入したテーブルセットを設置し、度々そこで休憩するようになった。満足そうで何よりである。
テオくんは魔術陣を描くのに苦戦していて、正直同じ頃の私の方が描けていたと思う。師匠が早い方だと褒めてくれていたけど、お世辞かなとちょっと真剣に思ってなかった。でも本心だったんだなとようやくわかった。
……だってマリーベルというもっと早い人が隣にいたからさ……
自分を卑下しないで、私は私なりに頑張ればいいんだなと改めて思ったのだった。
「そういえばミレイナを雇うことになったんですよ」
「ああ、前に言っていた大店の娘さんね」
魔術講義中、魔力が少ない私やテオくんはすぐに疲れてしまうため、こまめに休憩している。その合間に世間話をする。アメリーさんが入れ直してくれたお茶を飲む。以前なら悪いなと思いつつマリーベルにお願いしていたけど、今はアメリーさんのお陰でマリーベルは講義に集中できる。
アメリーさん上達してる。マリーベルにはまだまだだけど。私も頑張ろう。
アメリーさんにマリーベルがお茶の淹れ方を教えるということで私も一緒に習ったのだ。2人がいるので、なかなか私が淹れる機会がないのだが、私も励もうと思う。
「ミレイナちゃんはどんな子なの?」
「僕と同じ14歳で、いつも元気で、自分の意見をしっかり言えるかっこいい子です」
そう言うテオくんは自分のことのように誇らしげだった。
……女の子だけどかっこいい……?私のイメージだと小説の中で敵をバッサバッサ切ってた人が思い浮かんだけど、まさかそんなわけないよね。あっ仕事をきっちりしてるマリーベルは凛としてかっこいいからそういう感じかな?
私の拙い知識と想像力ではミレイナちゃんがどんな子なのかよくわからなかった。でもテオくんはその子のことを信頼していて尊敬してるんだなということはわかった。
私も会ってみたいなぁ。そしてあわよくばお友達に!
私はこっそりと野望を抱いた。
アメリーさんが下女の仕事に慣れてきたので、私の世話の仕方という侍女に関する仕事も少しずつマリーベルから教えられるようになった。
私は魔術陣を描いたり、庭の手入れをしたり、お料理を手伝ったり、パールと遊んだり、本を読んだり、魔石を削ったりして、充実した日々を過ごした。




