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54話 兆し

 私が反省の意を示し、なんとか師匠とマリーベルは落ち着いた。落ち着いたら師匠はさっさと指示を出し始めた。


「マリーは物置から以前の水の魔道具を持って来てくれ。アメリーはここの掃除をしろ。ああ、マリー、近くに掃除道具はあるか?」


 マリーベルは「少々お待ちください」と言ってから、足早に浴場を出て行った。ほどなくして戻ってきたマリーベルは手に掃除道具を持って帰って来た。それをアメリーさんに渡すとすぐに「魔道具を取りに行って参ります」とまた浴場を出て行った。


「あっ私もお手伝い……」

「メルとテオは待機。余計なことをするな」


 手伝いを申し出ようとしたら、言い終わる前に師匠に冷たい目を向けられた。しゅんとしながら掃除の邪魔にならないように、端に寄る。一緒に端に移動したパールはいつものように私の足に擦り寄ろうとして、自分が土まみれだったことをハッと思い出し動きを不自然に止めた。そして悲しそうな顔をしてプルプルと耐えている。


 可愛い!偉い!洗ったらいっぱい抱っこするからね!


 私はしゃがんで、取り敢えずパールの頭を撫でてあげる。悲しそうな表情から一転して嬉しそうなパールに私も笑顔になる。私とパールを見ていた師匠はゆっくりと口を開いた。


「……魔道具は宰相に経費として落としてもらうから、二人とも気にするな」

「え……経費ですか?」

「ああ。この館が建った時からあった魔道具だぞ?耐久性がなくなって破損しても不思議じゃないだろう?」


 師匠が悪い笑みを浮かべていた。私は口元が引き攣るのを感じながら立ち上がり、疑問を発する。


「その理由、通用するんですか?」

「だから宰相に連絡するんじゃないか。ドミニク様経由だとそこから城の担当者に行き、耐久性の調査やら破損の原因調査やら面倒な上にすぐに魔道具が与えられないだろう」


 ……だから宰相の力でなんとかしてもらおうということですか。


 私がそれはどうなんだと思っていると、師匠がスッと真剣な顔になった。


「……メルもテオも自分で全部やろうとしすぎだ」


 私も、私たちの会話を黙って聞いていたテオくんも目を丸くする。


「自分で責任を取ることは立派だ。だが使える手がある時でも自分で背負いすぎると、自分が苦しくなるぞ」

「……私、割と使ってる気がするんですが。町の人の治療の時とか」


 私の言葉に、使われた自覚のある師匠は苦笑する。そして手を伸ばし、私の頭を撫でる。


「そうだな。だがメルは自分のためには使わないんだ」


 ……そうなのかな?やりたいことやってる気がするけど。まあ師匠がそう言うなら、頭の片隅に置いておこう。


 私がピンと来てない事を師匠はわかっているようで、「その内気づくだろう」と言って、手を下ろした。テオくんは素直に「勉強になります」と答えていた。そして躊躇いがちに私を見た。


「あの……姫様。こんなことになって悪いなと思ってますけど、姫様のお陰で魔力というものの感覚を掴めたので、多分次は大丈夫だと思います!」

「えっ本当!?」


 じゃあ何かに魔力を注いでみようとキョロキョロと、魔力を注げそうなものを探す。見当たらないので、どうしようかと思っていたら、マリーベルが魔道具を持って帰ってきた。師匠が受け取り、魔道具を設置する。そしてテオくんに「これに魔力を注いでみろ」と魔力を注ぐことを促して場所を空ける。

 

「これなら容量が大きいからお前の魔力では溢れることはない。使えもしないがな」

「えっ」


 師匠の言葉にテオくんが驚いて振り返った。確かにあの水の魔道具はここに来た時に、中級魔術師のマリーベルでさえ使えないと言っていた。下級魔術師のテオくんには当然使えないだろう。


「それでも魔力を注げば色が変わるから、やってみろ」


 テオくんは緊張しながら頷き、水の魔道具の魔石部分に手を伸ばす。その様子を、掃除を終えたアメリーさんが心配そうに両手を胸の前で握って見ていた。

 私も魔石をじっと見ていたら、半透明だった黒い魔石が少しだけ黒い色が濃くなった気がした。


「テオ、もういい。ちゃんと魔力を注げている」

「ありがとうございます!」


 師匠にできていると言われたテオくんは破顔した。私も嬉しくなって「よかったね!」と言いながらテオくんの手を握った。テオくんは魔力を注げた高揚感からか頬がほんのり赤くなりながら「姫様のお陰です」と言ってくれた。


「メル!早くパールを洗ってやれ」


 険しい顔の師匠に強めに名前を呼ばれて、ビクッとなる。


 ……あれ?機嫌悪い?


「きゅう……」


 相変わらず難しいな師匠と思いつつ、テオくんの手を離し、悲しそうなパールに「ごめんね」と言いながらパールを手のひらに乗せる。私も当然魔道具を使えないので、師匠にお願いしようと視線を上げると、師匠は胸元の服を握りしめて首を少し傾げていた。その表情は何やら怪訝そうである。


「あの……師匠?どうしたんですか?水の魔道具に魔力を注いでもらってもいいですか?」

「あ、ああ」


 師匠に声をかけると、眉間の皺が取れ、水の魔道具に魔力を注いでくれた。やっとお湯が出てパールを洗うことができた。パールをタオルで拭き、タオルにパールを包んだままみんなで食堂へ移動する。

 もうすぐ食事ができるということだったので、手伝おうとしたらマリーベルに断られた。教える人が2人に増えるので、アメリーさんがいる時は大人しくしていて欲しいと言われた。


 ……さっきので信用無くした。


 ガックリと肩を落としていると、手も口も出さず見学するだけならいいと許可が出た。アメリーさんへの説明を聞いて、作業を見ていることで私もやらなくても学べるだろうということだった。


 合理的!


 アメリーさんは家事をしていたので、流石の手際だった。マリーベルとアメリーさんがあっという間に食事を盛り付けていく。


 ……確かにこれじゃ私がいると邪魔だろうな。悲しいけどしょうがない。料理歴が違いすぎる。


 これでマリーベルの負担が少し減ると思ったら、一安心だからいいのだ。

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