50話 仕事
機織り職人?布作るってこと?何で?
私が疑問に思うようにテオくんとアメリーも不思議そうに首を傾げている。
「魔術陣を描く布は需要の割に作る人が少ないんだ」
師匠が言うには、魔力が込められて織られた布――魔力布は魔石を加工する時と同じように、少ない魔力を糸に一定に込めながら織らなければならないらしい。そのため中級魔術師であるマリーベルが魔石の加工に苦戦していたように、中級魔術師以上の人には魔力布を織るのも難しいそうだ。
それなら下級魔術師が織ればいいじゃないかと思うが、魔石の加工と違い、魔力を使っているとはいえ、布を織ること自体は平民が行う仕事だ。貴族というプライドがあるため、魔力布を織りたがる下級魔術師は少ないそうだ。
それでも需要があるため、下級魔術師が就ける仕事の中では高給になる。そのためお金に困っている下級魔術師や、テオくんのような平民出身の魔力持ちの下級魔術師が魔力布を織る仕事をしているらしい。
「だから他で働くより、貴族からの嫌味とかは少ないと思うぞ」
貴族というプライドを捨ててその仕事をしているため、身分にそこまでこだわらないだろうし、もしこだわるような奴でも平民出身の魔力持ちがいるため、そちらと友好関係を築けるのではないかと師匠が説明を続けているうちに、テオくんは徐々に決意を固めたような目になっていった。
「僕、機織り職人になります!」
「えっそんなすぐに決めていいの!?」
私はびっくりしてテオくんを見つめるが、テオくんの決意は固いようで、真剣な赤い瞳をして頷いた。
「じゃあドミニク様に連絡しておく」
「ありがとうございます」
仕事が何とかなりそうでテオくんがホッとした。そんなテオくんをアメリーさんも安心したように見つめる。
「アメリーさんはもうお仕事決まってるの?」
私の質問にアメリーさんは「いえ、決まっていません」と答えた。
「今は下女を雇っていますから、私もその仕事を覚えて、働きに行こうと思っております」
「なるほど。その仕事を覚えたら、他の貴族の館でも働けるものね」
私は納得していたが、マリーベルが眉を寄せていた。
「どうしたの、マリーベル?」
「……家で雇われているのは下女なんですよね?アメリーさんは男爵のご家族ですから、侍女の仕事を覚えた方がよろしいのでは……」
そっか。侍女は基本的に良家の女性で、貴族の身の回りの世話が仕事だ。下女は平民が掃除、洗濯、料理、雑用と仕事内容が異なる。
そうなると確かに貴族枠に入るアメリーさんは侍女の仕事をした方がいいだろう。お給金も侍女の方が高いし。
一番いいのはアメリーさんが何処かの貴族の館で侍女として雇ってもらうのがいいだろうけど、元平民を下女ではなく侍女として雇うのは、いい顔しない人が多いだろう。
うーん……あっそうだ!
「師匠、アメリーさんをここで雇うことはできませんか?」
師匠は難しい顔をして腕を組んだ。アメリーさんが緊張して背筋を伸ばす。
「……この館がどういう役割をしているか知ってるか?」
「……国を守る結界を張ってくださっていると伺っております……」
アメリーさんが師匠の様子を伺いながら恐る恐る答えた。
「そうだ。だから今日のように短時間ならともかく、長時間もよく知らない者をこの館に置きたくない」
師匠が言いたいことはわかる。だけど……
「マリーベルの負担が大きいと思うんです」
私の世話、料理、掃除、洗濯、庭仕事他色々……こう並べると、マリーベルを働かせすぎているのがわかる。しかもほぼ一人で。マリーベルが倒れる前になんとかしなくては!
「だがここで働くとなると、侍女だけではなく下女の仕事もすることになるぞ」
本当だ!マリーベルがいいって言ってくれたからお願いしてるけど、本当は侍女のマリーベルがする仕事じゃないんだよね。本来なら下女や庭師がするような仕事までしてもらっている。
「ごめんね、マリーベル!いつもありがとう!!」
「滅相もございません。姫様にお仕えできるだけで幸せですから」
「私も幸せだよ!」
マリーベルは冷静だけど、私が変に興奮しているせいで応接室に妙な空気が流れている。師匠はさっきよりも険しい顔をしているし、テオくんは困惑しているし、アメリーさんは自分の話からこうなったので、口を挟んだほうがいいのか、オロオロしている。いつの間にか寝ていたパールの「きゅーう……きゅーう……」という呑気な寝息が場違いに響いていた。
「……私が魔術講義を受けている間に仕事をしていただけると助かるんですよね。フレデリック様、アメリーさんには何日かに1回来ていただくのはどうですか?」
マリーベルの提案に師匠が考え込む。話を聞いていた私はふと思ったことを口に出す。
「じゃあ一緒にテオくんも来て、魔術講義受ければいいんじゃない?」




