48話 加工の練習
今日の魔術講義は以前師匠が言っていた魔石の加工をすることになった。最近は私は水、マリーベルは金と癒しの魔術陣以外の初級魔術陣を描く練習をしていたのだが、正直ずっと魔術陣を描くだけでは飽きてきてしまった。
それに気づいた師匠が授業内容を変えてくれたのだ。
いや〜本当師匠って人のことよく見てるよね。もっと多くの人に教えるの向いてそうだけどなぁ。
そんなことを考えている間に師匠が加工に使う魔道具の説明を始めた。
「この研磨の魔道具で魔石を削る」
そう言って師匠が私の目の前にその研磨の魔道具を置いてくれた。透明な色をしており、魔術ペンと似た形、大きさだ。違うのは魔術ペンはその名の通り、ペン先があるが、この魔道具は一方の先は小さいヘラのような形をしている。もう一方は細長い。細いけど先が針のように尖っていないので、刺さっても痛くはなさそうだ。
師匠はマリーベルの前にも同じ研磨の魔道具を置く。そして自分用の研磨の魔道具を手に説明を続ける。
「このヘラのような部分で魔石を削るんだ。こっちの細い方は魔石に穴を開ける時に使う」
師匠は保護メガネを私たちに渡し、自分も着用しながら、私たちにもつけるよう促す。保護メガネをつけ終わると、師匠は緑の魔石の原石を手に、研磨の魔道具のヘラの方を魔石の表面に当てる。
「これは木の魔石だ。木の属性は火の属性に弱い。だからこの魔道具に火の属性だけの魔力を注ぐと魔石が削れる」
そう言うと師匠が持っている研磨の魔道具が透明から赤い色に変わった。そして師匠が手を動かすと魔石が削れて、綺麗な面ができた。
すごい!硬い魔石が綺麗に削れてる!
「魔力を注ぎすぎると、削れすぎるから少量の魔力を注ぐように。カットの仕方は色々あるが、練習だから好きに削ったらいい」
師匠が宝石のカットの絵が描かれている本を開いて置いてくれた。それを見て、私は気が遠くなった。
えっこんなにいっぱい削らないといけないの?しかも均等に削らないといけないとこが何か所もあるよね。……不器用じゃないと思うけどこれは難しい。
とりあえずなるべく削る面が少なそうな長方形に削る事にした。師匠と同じ、木の魔石の原石を取って、透明な研磨の魔道具を手に取る。魔力を注ごうとして、手も一緒に削ってしまう怖い想像をして動きを止めた。
「どうした?」
「あの……手の保護は何もしないんですか?」
「ああ、研磨の魔道具は魔石しか削れないから大丈夫だ」
師匠の言葉にホッとする。安心して、研磨の魔道具を魔石に当てる。火の属性だけを研磨の魔道具に注いでいく。師匠と違い、ゆっくりと研磨の魔道具が透明から赤に変わっていく。私はまだ師匠のように瞬時に狙った属性を注げない。完全に赤に変わったのを確認してから、ゆっくり魔石を削るように、ヘラ部分を下から上に動かす。すると大した力もいらず、簡単に魔石が削れた。
やった!私にもできた!
私は魔石が綺麗に削られたことに感動していたが、隣に座って黒の魔石を片手に、魔道具に魔力を注いでいるマリーベルは師匠から指摘されていた。
「マリー、金の属性が混ざっている」
「……魔術陣を描く時と同じように、木の属性だけ注いでいるつもりなのですが」
「魔術陣は多少他の属性が混ざっていても描けるが、魔石は完全にその属性だけじゃないと削れないんだ。だから属性が少ない下級魔術師の方が魔石の加工がしやすい」
「師匠、私、一応全属性ですけど……」
「メルは全属性でも均等だろう。マリーのように一つの属性が特化していると、他の属性を注いでいるつもりでもその属性が釣られて混ざりやすい」
なるほど。
器用なマリーベルが苦戦しているという珍しい状況に、「マリーベルも何でもできるわけじゃないんだな」とちょっと安心した。
私は本を見ながら出来るだけそのカット図の通りになるように削っていく。私がなんとか長方形の半分をカットし終わる頃、マリーベルが手を止めた。マリーベルは中々木の属性だけを注ぐことができず、魔石が変に削れている部分があり、綺麗に削れていない。自分で削った魔石を見て苦い表情を浮かべている。
「……私には魔石の加工は難しいですね。練習を続けたらできるようになるかもしれませんが、それなら魔術陣を描く練習をした方が良さそうです」
「……そうだな。魔石の加工は特に必須な技術じゃないからな」
そういうわけで、マリーベルは魔術陣を描く練習を、私は魔石の加工をそれぞれすることになった。
そろそろ夕食の準備のため、今日の魔術講義は終わろうかという頃に私の魔石の加工が終わった。
「お、終わった……疲れた……」
「お疲れ様です、姫様」
机の上に加工し終わった魔石と、研磨の魔道具を置く。今すぐベッドに横になりたいくらいには疲れた。加工の終わった魔石を師匠が手に取り、観察するように色んな角度から眺める。
「よく頑張ったな。初めての割に綺麗に仕上がったな」
師匠はそう言ってくれたけど、実際は四隅の面は不揃いなのが一目瞭然だ。趣味で加工するのならいいけど、仕事で毎日こんな繊細な作業はやってられない。加工ができるように色々準備してくれた師匠には悪いけど、私は細工師の道にさっさと見切りをつけた。
そこでハッとする。
「師匠!またこの研磨の魔道具お高いんじゃ……!?それにうちの国は魔石がたくさん採れるとはいえ、安くはないですよね!?」
「……だからお金のことは気にしなくていいと言っているだろう」
「そんなわけには行きません!」
眉を寄せて迷惑そうな師匠の顔を、私は睨むように見つめる。師匠はすぐに諦めて「じゃあ……」と言って、手に持っていた私が加工した魔石を軽く左右に振る。
「これを貰ってもいいか?」
「え?いいですけど……それならもっと綺麗に削れるようになったら差し上げますよ」
「いや。これがいい」
師匠が加工された魔石を見て微笑んだ。その顔が対価として渋々受け取るわけではなく、本当に喜んでいる表情だった。
師匠が喜んでるならいっか。
しばらく魔石を見ていた師匠は、勝ち誇ったような笑みをマリーベルに向けた。マリーベルは薄らと笑っていたが、私は何故か背筋が凍りそうになった。
……なんで夏なのにこんなにひんやりした空気なんだろうね?




