表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/33

4話 館の探索

このままでは夕食もとれないということで、マリーベルとフレデリック様の作業部屋へ向かった。


「フレデリック様。少しよろしいでしょうか」


 マリーベルが扉をノックしてから、フレデリック様に問いかける。しばらく待ってみるが、扉からフレデリック様が現れない。


「……失礼します」


 マリーベルは強硬突破することにしたようだ。いいのかなと思いつつ私もマリーベルの後ろにつき、作業部屋へ足を踏み入れた。部屋の中はそれほど大きくはなく、入って正面の壁際に大きな長方形の机が設置されているようで、フレデリック様は私たちに背を向けて座っていた。机の上は魔術陣や魔石、本、何かよくわからない魔道具などたくさんの物で溢れていた。床もたくさんの物で溢れているが、一応足の踏み場はある。入って左側には棚があり本や魔石などが置かれている。右側にはシンプルだけど、女性が使うような鏡台が置かれていた。

作業に集中してて気づかなかったのか、フレデリック様は振り返って、私たちを見てギョッとしている。


「この部屋には入らないでくださいと言ったではありませんか!」

「ノックしたのにお返事がありませんでしたから。それより食事を用意したかったのですが、調理場の魔道具が私たちには扱えません。他のものはありませんか?」


 マリーベルの言葉にフレデリック様は眉を寄せ、ため息をついた。


「それならこの館の魔道具は全部使えないな。前に使っていた魔道具があるはずだが、物置に適当にしまったから探さないといけない。今日はもう諦めろ」

「姫様にお食事と湯浴みを諦めさせるわけにはまいりません」

「パンとかチーズとか干し肉とかあるだろう」

「姫様に保存食を召し上がれとおっしゃるのですか」

「えっ食べてみたい!」


 フレデリック様とマリーベルの会話を黙って聞いていたけど、保存食という今まで出会わなかった食べ物につい反応してしまった。マリーベルが苦い表情を浮かべて私を見る。


「姫様……保存を目的にしているので、そんなに美味しくないですよ」

「美味しくなくても一度食べてみたい!それに今日はもう移動して疲れたでしょう?手軽に食べて、早く休んで、明日一緒に魔道具を探しましょう」


 城では経験できない新しいことに、自分でも口元がニヤついているのがわかる。きっと目も爛々と輝いているだろう。そんな私の様子にマリーベルは食事に関しては諦めたようだ。


「姫様がこうおっしゃるので、お食事の件はいいです。でも湯浴みは譲れません」

「……仕方ないな」


 フレデリック様はものすごく嫌そうな顔をしながら棚から大きな黒い魔石を持ってきて、マリーベルに渡した。魔石の色から水の魔石なのだろう。


「明日には返せ」


 そう言って、フレデリック様は用は済んだだろうということでさっさと私たちは部屋から追い出された。マリーベルはフレデリック様に何か思うことがあるのか、じっとりとした金色の目を扉に向けている。

 私はマリーベルを促して調理場でフレデリック様が言っていたパンやチーズ、干し肉を探して食べた。確かにマリーベルが言っていたように、普通のお肉に比べれば美味しくない。でも初めての経験で興奮していたからか、美味しくないと聞いていたからか、思っていたほど味は悪くなかった。味より硬くて顎が疲れる方が問題だ。

 食事の後は湯浴みして明日に備えて早々に就寝した。



 翌日、洗顔と着替え、夕食と同じメニューの朝食を終えたら魔道具を探すついでに、フレデリック様には案内されなかった所も確認してみることにした。

 ……そうでもしないと暇なのだ。


 1階は応接室や調理場、食糧庫、食堂、物置、空き部屋が数部屋。探していた火と水の魔道具は割とすぐに見つかって安心した。

 2階は私、マリーベルの部屋、浴場、鍵のかかった部屋、空き部屋……そしてなんと図書室があった。


「やったわ!図書室は自由に立ち入っていいのよね!?」


 部屋の一室なので、それほど大きくはないけど壁一面に本がぎっしり並んでいる。嬉しい。さっそく1冊手に取ってみて、パラパラと中を読んでいく。


「これ……魔術の本だわ」

「これもそうですね」


 違う本を見ていたマリーベルも頷く。


「もしかしてここでなら魔術を学べる!?」


 興奮から、つい声が大きくなった。城では魔術関連の本すら読ませてもらえなかったのだ。

 魔術師は魔術陣が書けて一人前。それぞれ【○○魔術師】という呼称を授けられるからには魔術が使えて当たり前なのだ。魔術陣が書けない魔術師なんていないと考えられている。それくらい魔術陣が書けない、魔術陣のことを知らないというのは恥ずかしいことだ。


 ……まあ私が魔術陣のことを知らないということは、城にいた人たちにはバレていると思うけど。


 そこから多分国中の貴族に広がっていることだろう。そうでなければ、一応王族である私を侮ることはしないと思う。

 城にいた頃の貴族、使用人たちの態度を思い出し気分が沈む。お父様たちがいる前では恭しいが、私が1人になると「魔力が少ないくせに」とか「魔術陣も書けないとは」とか嫌みを言われていた。


 ……私本当にマリーベル以外から愛されてないわ。知ってたけど改めて思うとヘコむ。

 いや、私は悲劇のヒロインやりたいんじゃなくて、この前読んだお話の主人公みたいに、逆境でもへこたれずにのしあがってく女の子の方が好みだわ!流石にお話みたいに女王になるつもりはないけど、悩むよりやりたいことをやるのよ!


 私が密かに決意していた横で、マリーベルも真剣な顔で本を読んでいた。


「この本は上級者向けのようで私には理解できません。昼食後に他の本も読んでみましょう」


 魔術が学べるかもしれないという希望を胸に、マリーベルに大きく頷いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ