44話 ラピソルの扱い
町役場に続く広い街道から武装した騎士達が後ろが見えないほどの大人数でやってきた。本来アーシェイヴィルの討伐にはそれだけの人数が必要なんだろう。師匠の規格外さには慣れていたはずだけど、視覚的に見ると改めて驚かされる。
え……何人いるんだろう。百人いたりするのかな。それだけの人数必要な討伐を師匠1人で……?師匠が味方でよかった!本当に!!
先頭にいた騎士が隊列から外れ、駆け寄ってきた。見知った人物、ドミニク様だった。ドミニク様は私の側までくると、急いで馬から降りた。
「姫様ご無事ですか!?こんな所にいては危険です!すぐに避難を!」
後ろの人たちとは距離があるとはいえ、殿下を探るスパイであるドミニク様が私を敬っている姿は見られるとまずい。私は急いで小声で注意する。
「ドミニク様!私は大丈夫です。それより演技!演技忘れてます!」
私の言葉にハッとしたドミニク様は、咳払いをして気持ちを切り替えた。そして周りを見渡して倒れているアーシェイヴィルを見つけ、ギョッとした。
「えっ討伐されてる?どういうことだ?」
「私が討伐しました」
住民の輪から抜け出してきた師匠が近づいてきた。師匠を見たドミニク様は納得と困惑の表情を浮かべる。
「いや……お前がすごいのは知っているが……いくらお前でも1人で討伐は無理だろう?」
「できました」
「本当にお前何なんだよ!」
ドミニク様が苛立たしげに叫んだ。まあその気持ちはわかる。私は思わず真顔になった。師匠はそんなドミニク様の様子は気にせず、自分の要件を淡々と伝える。
「あとのことは任せます。あと、平民の魔力持ちを見つけたので保護をお願いします。それから私たちはもう帰りたいのですが、荷物が多いので町役場から館まで転移の魔術陣で送ってください」
「待て待て待て!」
言うだけ言った師匠は私とマリーベルに「行くぞ」と促していたが、ドミニク様に止められた。
「平民の魔力持ちってどいつだ」
「この子です。まだ未成年ですから母親も手続きに同行させてあげてください」
私がテオくんとアメリーさんを手で示すと、2人は緊張したように体を強張らせた。
「わかりました。この者たちと一緒に私も役場に戻ります。少しお待ちください」
ドミニク様は騎士達の方へ向き直る。
「アーシェイヴィルの回収、住民たちの救助を隊長の指示に従い進めろ!私は役場に戻る。何かあれば魔道具で連絡しろ」
「はっ」と揃った返事に満足そうに頷いたドミニク様に「行きましょう」と促され、私、師匠、マリーベルが町役場へ歩き出すと、戸惑いながらテオくんとアメリーさんも続いた。
アーシェイヴィルは北門の近くの平民の家が多く立ち並ぶ区域と、平民向けの庶民的なお店が並ぶ区域との間のメインの通りに出没したため、町役場までは距離があるが一直線だ。町役場まで向かいながら瓦礫と化した家やお店を見て、胸が痛くなった。
どれだけの人が住む場所を失ったんだろう……ううん、きっと命を亡くした人も……
そこまで考えるともっと胸が痛くなった。私には何もできないけど、亡くなった方が安らかに眠れるように心の中で祈った。町も早く復興されることを願った。私が深刻な顔をしていたからだろう。大人しく私の手の中にいたラピソルが「きゅう?」と心配そうに鳴いた。その鳴き声を聞いてドミニク様が目を剥いた。
「生きてる!?姫様すぐに離れてください!」
「大丈夫ですから!!」
腰に下げていた剣を抜きかけるドミニク様を慌てて制止した。魔獣でもこのラピソルは人に危害を加えないどころか助けてくれたのだ。そんな説明をするとドミニク様は渋々引き下がった。静かに聞いていた師匠が私とラピソルを交互に見てから、口を開く。
「それでメルはこのラピソルを飼うのか?」
……飼ってもいいのかな?この子にも家族がいるのなら、家族のもとに帰してあげた方が幸せだよね。
私は両手を少し上げて、ラピソルと目を合わせる。
「家族がいるなら森に帰る?それとも私と一緒に暮らす?」
ラピソルはすぐに頭を横に振った後、私の手のひらにスリスリした。
可愛い〜!私と一緒にいたいってことだよね?ね?
「じゃあ一緒に暮らそう!」
「きゅう!」
こうしてラピソルも館で住むことになった。師匠はため息をついていたが、「しょうがないな」と許してくれた。
ありがとう!師匠。ちゃんと面倒見るからね!
……魔獣って何食べるんだろう?




