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42話 治療

「何故か今は監視がいない。怪我人がいることは確認しているだろうが、まあいい。メルに免じて治してやろう」

「ありがとうございます、師匠!」


 笑顔でお礼を言うと師匠は諦めたように笑い、私の頭に乗せたままだった手を動かして撫でられる。


「本当にメルは優しいな」

「……そんなことないと思いますよ。ややこしい事情がなければ助けたいとみんな思うんじゃないですか?」

「俺は自分と大切な人しか助けたいと思わない」

「えっ」


 嘘だと思ってマリーベルを見たら頷いていた。


 あれ?そういうものなの?でもよく本の主人公って人助けしてるような……とりあえず置いとこう。それよりそんな師匠に何をしたら感謝を伝えられるんだろう。


 考えてもわからないので、師匠に決めてもらう方がいいだろう。


「対価にはならないと思いますが、私にできることなら何でもしますから遠慮なく言ってくださいね!」


 頭を撫でていた手が止まり、なぜか師匠が真顔になった。

 

「何でも……?」

「不埒なことは許しません」

「そんなことは考えていない!」


 師匠が何を思ったのかわからないが、マリーベルにすかさず突っ込まれて顔を真っ赤にして怒っていた。私が首を捻っていると、ラピソルも顔を傾けていた。


 私の真似してるのかな。可愛い……


「とにかく!応援が来る前にとっとと終わらせるぞ!」


 師匠は睨んでいるマリーベルから視線を逸らし、強引に話題を変えた。そしてこの場にいる人たちに聞こえるように、よく通る低い声を張り上げる。


「今からお前たちの治療を行う!これはメルリーユ姫様の慈悲である!他言無用だ!まあ言いたければ勝手にしたらいいが、責められるのはお前たちだろう。それでもよければ好きにしろ!」

「しっ師匠!?」


 何で私の名前出すの!?さっきからマリーベルが『姫様』って呼ぶの我慢してたのに、何してくれてるの!?

 あっもしバレた時、私の責任になるか。何でもするって言ったのは私だからまあいいけど、抜け目ないな、師匠!


「え……姫様?」

「我儘姫なんだろう?」

「まさか助けた見返りにとんでもないこと要求されるんじゃ……」

「奴隷にされるのか!?」


 意識のある怪我人たちがざわつき始めた。


 私のイメージ悪すぎる。あんまりだ。


 どうすればいいのかわからずまごまごしている間に、師匠は魔術陣を1つ描き終わっていた。それに魔力を込めると私に渡した。


「メルはこれを使ってその者の足を癒やせ。結界は発動させたまま、少年も結界内にいれてここで待っていろ。マリーは俺を手伝え。メルの願いだからな」


 師匠は言うだけ言って、不承不承ながら了承したマリーベルを連れて怪我人の方へ走っていってしまった。


「ちょっと師匠!?私がお願いしたんですから、マリーベルだけじゃなくて私もお手伝いしますよ!」

「メルはそこでじっとしてるのが手伝いだ」

「えー!?」


 マリーベルと違って癒しの魔術陣は描けないけど、魔術陣を持つくらいはできるのに。無理をお願いしてる自覚はあるので、少しでも手伝いたかったのに。マリーベルは師匠の手伝いができていいなぁ……


 なんだか面白くない気持ちを抱えて、骨折している少年の母親に向き直る。少年の母親は何故かクスクスと笑っていた。

 

「申し訳ありません。噂と全然違うので……息子と同じような反応をしていてつい……痛っ」


 話しながら体勢を少し変えようとしたのか、怪我に響いたようだ。

 

「あ、お待たせしてごめんなさい。今から癒しますね」


 ラピソルを一旦地面に降ろしてから、少年の母親の足の上に魔術陣をかざして魔術陣を発動させた。赤く腫れ上がっていた足が、魔術陣からの光を浴びて、ゆっくりと元の綺麗な足を取り戻していく。


 いつ見てもすごいなぁ……


 やがて魔術陣の光は徐々に消えていき、紙も手の中から消えていった。

 少年の母親は高揚した顔で自分の足を摩り、恐る恐る立ち上がった。確かめるように何度か足を動かし、キラキラした瞳で私を見た後、勢いよく頭を下げた。


「姫様!ありがとうございます!全然痛くありません!」

「……頭を上げて?治ってよかったわね。私の力じゃないから、お礼は師匠に言ってね」


 師匠に姫だと暴露されてしまったので、今更ながら姫っぽさを装うことにする。


 やらないより、やったほうがいいよね!多分!


「もちろんあの方にもお礼をしますが、姫様がお願いしてくださらなければ治療していただけなかったでしょう。本当にありがとうございます」


 確かに何も言わなかったら師匠は治療しなかっただろうことは先程の会話でバレている。私は何て言ったらいいかわからず、曖昧に微笑んでおく。


 もー師匠正直すぎるよー!


 師匠に心の中で文句を言っていると、魔力持ちの少年の瞼が震えたのが見えた。

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