39話 ラピソル
師匠はアーシェイヴィルが噛みついていた住民の腕を引きちぎり、住民とアーシェイヴィルの間に若干できた隙間を見逃さず、瞬時にそこに入り込み、魔石を使って魔術を発動させた。師匠の体よりも大きな炎の玉がアーシェイヴィルに当たり、爆発した。師匠は近くにいる住民を覆えるくらい大きな結界を張り、巻き込まれないようにしている。瓦礫が結界に当たって弾かれる。
爆風が離れた場所にいた私とマリーベルの所まで届き、髪やスカートが激しくはためく。こちらにも瓦礫が飛んで来て、結界が防いでくれると分かっていてもヒヤッとする。
あんな凶暴な魔獣にも師匠は引けを取らないとわかったら、恐怖心が薄れていき、少し心に余裕ができる。
流石、師匠!強そうな魔獣もあっという間だね。でも渡された魔石も同じような威力なのかと思ったら、いくら襲撃者でも可哀想な気がして使いにくいよ……
あまりの威力に私が若干引いている間にようやく爆発による砂埃が落ち着き、視界が晴れる。アーシェイヴィルは仰向けで倒れていたが、重症ながらも起きあがろうとしていた。
うそ……!あれだけの魔術を食らってもまだ生きてるの!?
師匠はちゃんと備えていたようで、魔術陣を構えていた。すぐに魔術を発動し、炎が吹き出した。その炎はアーシェイヴィルの首のあたりを焼いている。アーシェイヴィルが炎から逃れようとキンキンした耳障りな悲鳴を上げながら身を捩っている。
その時、師匠の後ろ、少し離れた場所からも炎が上がった。
えっ新たな火事!?あっもしかしたらあれが使えるかも……
そう思い、肩にかけていたカバンを探っていると「きゅう……」という弱々しい声が聞こえた。なんだろうと思い、周りをキョロキョロすると、足元に小さな兎がいた。
いや、兎……?
兎に似ているが耳の先が岩のようにゴツゴツしていて、重そうに垂れ下がっている。前足と後ろ足の先も同様にゴツゴツしていた。つぶらな瞳は黒々としていてとても愛らしい。ゴツゴツしている所以外は短めのベージュ色の毛に覆われているが、全体的に汚れていて弱っている感じがした。
誰かが飼ってて、爆風に巻き込まれたのかな?
私は思わず抱き上げる。思っているより重くて驚いた。私の片手に乗るくらい小さいのに、ずっしりと重い。なんだか岩を持っているみたいだ。抱き上げても暴れることなく大人しい。私の手の上に乗っている生き物を見て、マリーベルが息を呑んだ。
「姫様、それがラピソルです……」
「この子が?」
なるほど。だから兎に似てるんだ。ラピソルは私の手に擦り寄って来た。
か、可愛い……!
「なぜ、こんな所に……」
「え?誰かが飼ってるんじゃないの?こんなに可愛いんだもの」
「魔獣を飼う平民はいません。それにラピソルは臆病で、森から出ることはありません」
……どういうこと?アーシェイヴィルといい、このラピソルといい、何でいるはずもない所にいるんだろう?
「姫様、危険かもしれないので、放してください」
「……でも結界内にいるってことは敵意はないんじゃない?」
「きゅう、きゅう!」
私の言葉にラピソルが必死に頷いた。
えっ私が言ってることがわかるの!?
これにはマリーベルも目を丸くして驚いている。
すると背後からまた爆発音がした。びっくりしてラピソルを強めに握ってしまった。幸い体が硬いようでちょっと苦しそうだったけど無事だった。よかった。
ラピソルに気を取られてすっかり師匠やアーシェイヴィルから背を向けていた。いくら結界があるからって警戒心が無さすぎる。
少し反省して師匠の方へ視線を戻すと、状況が一変していて一瞬頭が真っ白になった。
何故か師匠はアーシェイヴィルではなく、私と同じ年頃の炎を纏った少年と対峙していた。




