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33話 2人の帰宅

 お昼の鐘が鳴って昼食を1人で食べる。味は美味しいのに何かが物足りない。師匠とマリーベルとわいわい話しながら食べる楽しさを知ってしまったら、1人での食事は味気ない。城では1人で食べるのが当たり前だったのに、その頃よりも寂しくてしょうがなかった。


 師匠とマリーベル早く帰ってこないかな……

 

 ため息をつき、進まない食事をもそもそと食べ終える。しばらくしたら外が何やら騒がしくなった。なんだろうと思っていたら師匠とマリーベルが帰ってきた。随分と早い帰りだが、1人でいるのが寂しかった私には大歓迎だ。

 私室に1人でいる時もあるのに、その時は特に寂しさも何も感じなかった。館の中に師匠とマリーベルがいるというだけで安心していたようだ。改めて師匠とマリーベルが、私の中で大きな存在なんだなということに気づく。

 門まで行き、許可を出す。


「おかえりなさい!」


 2人が帰ってきたことが嬉しくて満面の笑みだろうことは想像に難くない。門を通り抜けたマリーベルは笑顔で帰宅の挨拶をする。


「ただいま戻りました。ドミニク様が一目だけでも姫様に会いたいと粘られて大変でした。姫様は何かありましたか?」


 なるほど。外の騒ぎはドミニク様が原因か……監視の目もあるんだからお願いしますよ、ドミニク様!


「私は2人が気になって本の内容が入って来なかったよ!」


 寂しかったと言うのが恥ずかしくて、途中から全然気にしていなかったことを言ってマリーベルの後ろにいた師匠を見る。師匠もドミニク様に呆れたような怒ったような顔をしているかなと思っていたら、予想外の顔をしていてビクッとする。師匠は私を見ながら沈痛な表情を浮かべていた。慌てて師匠に駆け寄る。


「師匠?何かあったんですか?」


 師匠は私をじっと見つめたあと、急に私の頭を思いっきり撫でた。それはもう髪がぐしゃぐしゃに絡まるほどに。


「えっ……ちょっ……何ですか!?」

「メル……もっと食べたいものとか欲しいものとか言っていいんだぞ」


 ええ……どうしたんだろう?食べたいものとか欲しいもの?私、結構遠慮なく言ってる気がするんだけどなぁ。


「十分言わせてもらってますよ。だって城では言えなかったですし」


 ……おっと師匠の顔が沈痛なものから、怒りの形相に変わった。しまった、何か逆鱗に触れたようだ。


「えっとえっとだから今、言いたいこと言えるの幸せです!師匠とマリーベルのお陰ですよ!それよりお土産!お土産ないんですかっ?」


 お土産を自分からねだるのははしたないと思いつつ、師匠の怒りを鎮めるために気にしないことにした。だって師匠とマリーベルを怒らせたら怖いからね!報復されるからね!

 私の必死の話題転換で師匠はフッと力を抜いた。苦笑していたが、怒りは一旦収まったように見える。一安心である。


「仕方ない。メルに免じて許してやるか」


 私の乱れてしまった髪を今度は丁寧に梳いてくれた。さっきとは打って変わり、あんまりにも優しい手つきで髪を撫でられているといつもとは違いなんだかドキドキしてきた。どうしていいかわからず、じっとしていたがマリーベルの言葉に冷静になる。


「私は許しませんけどね」


 許した方がいいと思うよ、心の健康のために!


 そう思っても口にはしなかった。だってこっちに怒りの矛先が向いたら困るからね。誰かはわからないけど生贄にします。ごめんなさい。精一杯マリーベルが楽しいことで頭がいっぱいになるように頑張るから許して!


 そんなこんなでなんか精神的にちょっと疲れたけど、買って来た食材を館に運んで、昼食がまだだという師匠とマリーベルと共に食堂に移動する。私はもう食べ終えていたけど、2人と一緒にいたかったので、私も一緒に行く。


 師匠が昼食を紙袋から出している間にマリーベルはお茶の準備をする。


「メル、デザートは食べられそうか?」

「えっデザート!?食べます!食べます!ありがとうございます!」


 師匠は私の言葉に微笑みながら頷き、紙袋とは別に持っていた四角い箱を開けた。箱の中にはケーキが5つも入っていた。


「苺ケーキ、チョコレートケーキ、チーズケーキ、フルーツタルト……これはブランデーケーキだから俺のだ」


 甘いものがそれほど好きではない師匠らしい選択だ。それにしても……


「多くないですか?」


 私とマリーベルが1つずつ食べるにしても2つ余る。


「……メルはどれがいいかわからなかったから、取り敢えず多くの者に人気なものを買ってみた。残りは氷室に入れておいて夕食後にでもメルとマリーが食べればいいだろう。ほら、どれにするんだ?」


 師匠に促されて、どうしようか迷いに迷ったがチョコレートケーキにした。師匠とマリーベルは昼食のサンドイッチと多めに作ってあったミネストローネが、私はデザートのチョコレートケーキが目の前に置かれている。師匠たちのサンドイッチは食欲をそそるニンニクのタレがかかったお肉とレタス、玉ねぎが挟んであるボリュームがあるもので美味しそうだった。


 今度町に行ったら食べるんだ。


 次の楽しみを胸に目の前のチョコレートケーキに視線を落とす。まずは先の楽しみよりも今、目の前の楽しみを味わうことにする。

 陛下たちとの食事で数回食べたことがあるが、緊張や居心地の悪さから味わう所ではなかった。そのため味もよく覚えていない。

 チョコレートケーキにフォークを入れる。表面のチョコレートクリームの綺麗な装飾を崩すのは勿体無い気がしたが、躊躇わずにフォークを下ろす。一口大に切ってからチョコレートケーキを口に入れる。チョコレートの甘さが口の中に広がり、幸せで笑顔になる。チョコレートクリームの間のチョコレートスポンジの甘さが控えめで、甘すぎずに美味しい。ペロッと食べられそうだ。


「美味しいです!ありがとうございます、師匠、マリーベル」


 嬉しい気持ちそのままにお礼をいうと、師匠もマリーベルもとても優しい顔で頷いていた。小さい子供が何をしても可愛いというような、よかったねというような表情に猛烈に恥ずかしくなった私は話題を変えることにした。


「そっそういえば、今回も何も起きませんでしたか?」


 私が聞くと隣のマリーベルがピクッと反応した。


 え?何かあったの?


 俄かに不安になる。マリーベルが何も言わずにサンドイッチに齧り付いていると、師匠がマリーベルを見ながらゆっくりと口を開く。

 

「……何も、ではないな」

「えっ刺客が現れたんですか!?」

「いや、現れたのは求婚者だ」

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