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32話 出会い(後編)

 フレデリックは何が起きたか分からず、マリーベルとヴァレリーを凝視する。


 (一目惚れ?マリーよりメルの方が可愛いだろう?今は愛らしさのが際立っているが数年したらきっと可愛いらしさと美しさを兼ね備えた女性になるぞ?ヴァレリーとメルを会わせるのは危険か?)


 マリーベルは本人が装わないため、地味に思われる事も多いが美人である。だがフレデリックはメルリーユ以外にあまり関心がないため人の美醜に疎い。そのため『マリーベルに一目惚れ』という現状にピンと来ていない。

 フレデリックが首を傾げている間にマリーベルは正気を取り戻した。


「お断りします。突然そんなことを言われても困ります」


 マリーベルに断られたヴァレリーは苦しそうな表情を浮かべるとシュンと肩を落とす。


「そりゃそうよ。弁えなさい、ヴァレリー」


 母親の言葉にハッとしたヴァレリーは急いで立ち上がり、マリーベルを見て笑みを浮かべる。


「自己紹介がまだでした。ヴァレリーと申します。この店で跡を継ぐために勉強しています」

「……マリーベルと申します。メルリーユ姫様の侍女をしております」

「マリーベルさん!素敵なお名前ですね」


 ニコニコしているヴァレリーに面食らうマリーベル。きっぱり断ったのにめげないヴァレリーに戸惑いを隠せない。少し照れたように小さく「ありがとうございます」と言うマリーベルに、フレデリックはこんなマリーベルは初めて見るなと思った。


 (マリーは身分が上の人にもはっきりモノを申すからな……)


 案外いい組み合わせなのか?とフレデリックが思っていると、コソッと顔色の悪いソニアが近づいて躊躇いがちに口を開く。


「あのフレデリック様……お嬢様は貴族様ですよね?平民が求婚するなんて無礼だってお怒りになっていませんか?」

「あー……貴族だが……怒ってはいないと思う」


 マリーベルは貴族だが庶子だ。扱いも使用人同然だったと聞く。考え方が似ているフレデリックからしたらこのくらいで怒ったりはしないが、マリーベル本人ではないので正確なところはわからない。というか興味がない。

 メルリーユに面白い土産話ができたと思っているくらいである。メルリーユはマリーベルの結婚についてどう思っているのだろうと、完全にメルリーユに思考が行っている。

 怒ってはいないというフレデリックの言葉に安心したソニアは仕事をすることにした。


「ヴァレリー、そこまでにしなさい。フレデリック様の仮縫いをお願いね。お嬢様はこちらへどうぞ」


 ソニアの言葉に名残惜しそうにしながらもフレデリックを別の部屋へ案内するヴァレリー。マリーベルはヴァレリーから解放されてホッとしていた。




 来月を心待ちにしていると熱烈にマリーベルに訴えるヴァレリーに見送られ、仕立て屋を後にする。

 疲れた様子のマリーベルと共に食材の買い物をさっさと済ませて行く。2人とも早く帰りたいがために、普段の険悪な様子は鳴りを潜め、非常に協力的に買い物を終えた。自分たちの食事用のサンドイッチを買い、後はメルリーユへのお土産だけだ。


「メルへの土産はこの間と同じ店で、別の焼き菓子にするか?」


 先月クッキーを買った店は、王都で評判の菓子屋の2号店だ。多分この町では一番美味しいのではないかとフレデリックは思っている。甘いものどころか食に興味がなかったフレデリックは美味しいお店を知らない。菓子屋もドミニクに聞いて知ったのだ。


「お店はそちらで構いませんが、ケーキを買って行かれる方が姫様は喜ばれると思います」

「メルはケーキが好きなのか?」


 メルリーユとケーキという可愛い組み合わせに自然と口角が上がる。だが続いたマリーベルの言葉に微笑ましい気持ちが霧散した。


「いえ……そもそもケーキを召し上がったことがあまりありません」

「は?どういうことだ?……まさか食事までちゃんと与えられてなかったのか!?」

「食事は……他の王族の方に比べれば品数はかなり少なかったですが、ちゃんとありました。ですがデザートはないことが多く、たまにフルーツがあったくらいですね」


 フレデリックはしばし絶句していたが、徐々に怒りが込み上げてきた。


 (あのクソ王族……!!)


 爪が食い込むほど拳を握りしめる。その後で先日のメルリーユを思い出す。


 『私、桃食べたい!』


 ペリドットのような黄緑の瞳をキラキラさせていたメルリーユ。フレデリックが実家にいた頃はよくデザートに出ていたため何の感慨もなく食べていた。だがメルリーユにはたまに食べられる特別なものだったのだ。そんな様子を微塵も感じさせなかったメルリーユ。フレデリックは胸が締めつけられるような心地になり、無性にメルリーユに会いたくなった。

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