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30話 平和な日々

 日課に庭の世話が加わった。芽が出てきたものもあって毎日庭に出るのが楽しみだ。大体朝食後に水やりと雑草を抜く。とは言っても水やりは簡単だ。師匠が水の魔石に魔術陣を刻んでくれたからだ。この魔石を水やりしたい作物の上に向かって掲げ、魔術を発動させると、魔石から小さな水の粒が雨のように降り注ぐ。

 

 ……重い水を運ばなくていいなんて庭師が泣いて喜びそうだよね。まあ平民は魔力ないから魔石使えないけど。それにしてもガーデニングがこんなに軽い作業なわけないよね……師匠様様である。


 水やりは簡単だけど、草抜きは従来通り、手で抜いていく。苗はわかるけど、芽が出たら抜かないように気をつけなければと思いながら抜いて行く。土の属性の土は作物が育ちやすいだけあって雑草もぐんぐん育つようだ。

 師匠は何か用事がある時は庭に来ないが、時間がある時は一緒に作業してくれる。それでも面倒くさがりの師匠は雑草が生えなくなる魔術陣でも開発しようかと言い出して必死に止めた。

 平民の仕事がなくなる云々(うんぬん)の前に、私が庭仕事っぽいことをしたいのだ。体力も付きそうだし。


 そもそも魔術陣の開発って、褒賞が出るくらいには簡単なものではないはず。それをほいほいしちゃう師匠って……


「すぐに魔術陣を開発できちゃう師匠はやっぱりすごいんですね……」


 雑草を抜きながら感嘆の息を吐く。近くで嫌々ながらも同じように雑草を抜いていた師匠が聞き咎める。


「流石に俺も魔術陣の開発はそれなりに大変だぞ?」


 ……そうかなぁ?


 呼び出しの魔道具とか割とすぐに作っていたような気がする。納得がいかずに首を捻っていると師匠が小さく呟いた。


「……まあ理論を組み立てるのが早いのも、試行錯誤できる回数が多いのも他の者より有利だろうが」


 だよね。だって今まで誰も開発できなかった強化結界を弱冠10歳で開発した天才だ。頭の回転が早い上に発想力が凡人とは異なるのだろう。魔力量が多いから、開発した魔術陣が思った通りの動きをするか確認して、ダメなら修正してまた魔術陣を描いて……ということが国で一番できる人だ。


 そんな話をしながら庭の手入れをする毎日。平和だなぁ。




 魔術講義の時間は引き続き魔術陣を描く練習だ。やっと2割ほどの魔術陣はきちんと発動するようになった。

 ……マリーベルはもう8割は発動するようになったけど何か?


 マリーベルと比べるからいけないんだ!私は私で成長してるよ!


 自分で自分を褒めないとやってられない。それに師匠が『早くて3つの月』と言っていたことからマリーベルが優秀すぎるんだろう。そんな人と比べても劣等感が刺激されるだけだ。


 私は私のペースでいい!!


 大事だから何回も言うよ!




 マリーベルが完璧に魔術陣を描けるようになった春の3の月、(ちゅう)の頃。

 せっせと庭のお手入れを頑張った結果、ついに初めての収穫ができた。ラディッシュ特有の赤のような濃いピンクのような色が土から覗いていたため分かりやすかった。3株しか植えてなかったからラディッシュの収穫はすぐに終わったけど、私が知ってるラディッシュと大きさが違う。私のこぶし大はある。師匠に聞いたらそれが土の属性の土の作用だと言っていた。


 いや本当、土の属性の土すごすぎない……?

 

 夕食時に早速収穫したラディッシュをサラダにして食べる。新鮮な上に自分たちで育てたということで、美味しさが増している気がする。


 町で売ってるのより美味しいんじゃない?


 シャクシャク咀嚼しながら自画自賛している内に師匠とマリーベルが今月の買い出しはどうするかという話をしていた。すると師匠が「そういえば……」と何か思い出したように口を開く。


「新年祭用の衣装の仮縫いがしたいから、今度マリーも連れて来てくれと言われてたんだった」

「早いですね」


 私は衣装がどれくらいでできるのかわからないが、マリーベルが言うには早いようだ。


「多分来月辺りにメルの採寸をしたいと言われるだろう。……安全が確認できるまではメルには外に出て欲しくないが、採寸はしょうがないな」

「えっ今月は一緒に行けないんですか?」

「ああ。今月は俺とマリーだけで行く」

「ええ〜……」

「姫様、お土産を買ってきますから」


 マリーベルが申し訳なさそうな顔をしている。残念だがここで駄々を捏ねても仕方がない。


「……気をつけて行って来てね」


 今月の買い出しは私のお留守番が決まってしまった。

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