29話 約束
土の入れ替えが完了したということで、ついに苗や種を植える。スコップを手に少し土を掘る。土の属性の土は栄養分が多いからか色が黒っぽい。金の属性の土とは見た目が違うため、植える場所を間違えないのでいい。
マリーベルは私が日焼けしないように日傘を差してくれている。師匠は本を片手に私と一緒に苗を植えるための穴を掘っている。
薔薇の苗を掘った穴に植えて行く。様々な色の苗を送ってくれたらしいのだが、表示が何もなかったので、どれが何色かわからない。咲いてからのお楽しみである。
始めは、楽しく作業していたのだが、体力がない私は薔薇を植え終わる頃にはぐったりしてしまった。
疲れた……農家や庭師すごい。いつもありがとう!
疲れてしまった私は師匠とマリーベルに館の中で休憩するように言われたが、それは寂しい。せめて近くで庭が作られていく様子を見たい。それに何か出来るなら手伝いたい。
それを2人に言ったら「じゃあピクニック形式にしましょうか」とマリーベルが言い、「今日は無理だが外でお茶ができるようにテーブルセットでも置くか」と師匠が言い出した。
……なんかめちゃくちゃ館生活満喫してる感出ちゃうけどいいのかな?監視の人いるんだよね?
どんどん充実していきそうな庭に監視の目は気になりつつも、庭でのお茶の誘惑に抗えなかった。結局今度テーブルセットを設置することになった。
今日は土の上に敷物を敷いて、お茶をする。私だけではなく、みんなで一休みすることにした。マリーベルが入れてくれたお茶を飲んでホッと息をつく。お茶の準備のために一回館に戻った時に手は洗ったけど、一応ハンカチで手を拭ってからクッキーに手を伸ばす。
このクッキーは先日町に行った時に師匠がお土産で買ってきてくれたものだ。
わざわざお土産を買ってきてくれるとか本当に師匠は優しいよね。
私とマリーベルのことを考えてお土産を選んでくれたことが嬉しい。マリーベル以外に顧みられることがなかった私は、この優しさになかなか慣れなくてくすぐったいけど、胸が温かくなる。
師匠の優しさの塊であるクッキーをゆっくり味わいながらお茶を楽しむ。クッキーは優しい甘さとナッツの香ばしさが口の中に広がり幸せだ。思わず笑顔になる。
「師匠!美味しいです。ありがとうございます!」
「よかったな」
師匠は微笑ましいと言わんばかりの表情を浮かべながら手を伸ばし、私の口元に付いていたクッキーのカケラを取ってくれた。
恥ずかしい……!小さい子供じゃないのに、お菓子食べて浮かれて口周り汚れてたの気づかなかったとか恥ずかしい……!
恥ずかしさのあまり師匠から目を逸らし、マリーベルを見ると、師匠をじっとりと睨んでいてビクッとなったけど、まあいつものことだよね。恥ずかしさがちょっと何処かに行ったよ。
休憩の後、師匠とマリーベルは苗を植える作業を再開した。私も手伝いたかったけど、体力が回復しきらなかった。
……いいもん。これから苗の世話してたら体力つくはずだから……!
日が沈む頃に苗と種を植え終わり、畑の方はレンガで囲って水をやり、本日の作業は終了だ。庭にはトマト、レタス、ラディッシュ、ほうれん草、キュウリ、人参、苺、バラあと塀の近くに桃の木を植えた。どれくらい収穫できるかわからないため、様子見でトマトのように一株で複数個収穫できるものは二株、ラディッシュのように一株一個のものは三株植えた。
育って行くのが楽しみ!
桃の木は一本だ。桃は実がなるまで3年ほどかかるらしい。長いけど多分何事もなければここにいると思う。私の腰くらいの高さの桃の木を見つめながら実がなる日に思いを馳せる。
「食べるの楽しみ〜」
「……何年いるつもりなんだ?」
師匠が少し呆れた声で言った。
「何もなかったらずっといるんじゃないですか?」
「……結婚しないつもりか?」
「うーん、なるべく引き延ばしたいですねぇ。……師匠は結婚してもここにいそうですよね」
「…………言うな」
「ごめんなさい」
軽口を叩いていたらちょっと師匠の周辺の空気が澱んだ。凹ませたかった訳ではないので、慌てて元気づけることにした。師匠とマリーベルの腕を取って真ん中を陣取る。2人と腕を組んで未来の楽しみで期待に胸を膨らませる。
「実がなったら三人で食べましょうね!約束!」
どんよりとしていた師匠も、少し疲れた顔をしていたマリーベルも一変して笑顔で頷いてくれた。




