25話 現場維持
流石に私の表情が死んでいたため、宰相がドミニク様を嗜めてくれ、やっと手が自由になった。それでもドミニク様は諦めきれないようで「今後の私の行動で生まれ変わったことを証明いたします!」と宣言されてしまった。
「……そうですね。私はドミニク様が変わられたのは分かりますが、他の方たちはすぐに信じないかもしれません。中には心無いことを言う方もいるかもしれません。それでも今回のことから学んだことを忘れないでくださいね。そうすればきっと私よりもいいご縁があるかもしれませんし」
家柄がいいのだから心を入れ替えたら、きっと縁談が増えるのではないかと思う。そして私のことを忘れてくれたらいいなと思う。しかしドミニク様は最後を聞いていなかったのかキラキラした瞳で「姫様のためにも周りからの信用も得ます!」と言っている。
違う!そうじゃない!
「そのためにまず殿下とは距離を置きます!」
私の思惑通りに動かないドミニク様はさらに殿下との決別宣言をした。確かに殿下と一緒にいたら更生したとは思えないだろう。私は納得していたが、師匠と宰相が待ったをかけた。
「殿下の動向を探るために、殿下の前では今まで通りに振る舞う方がよろしいかと思います。……が、ドミニク様はそういった『フリ』ができますか?」
「私もドミニクは殿下にそこそこ信用されているようだから、このままの方がいいと思うが……お前には少し難しいかもしれないな……」
待ったをかけた割には煮え切らない様子の師匠と宰相。ドミニク様はそんな2人に憤慨した。
「失礼な!私にだってそのくらいできる!殿下の味方のフリをしていればいいのだろう?」
「そうだが、お前は感情的に言葉を発してしまうことがあるからなぁ……」
「うっ」
父親の指摘に思い当たることがあるのか、ドミニク様は言葉に詰まった。
結局夜会や殿下からの誘いがある時は一緒にいて行動を探り、必要以上に話さないということになった。くれぐれもスパイだということがバレないようにと宰相からも師匠からもそれはそれは念押しされていた。ドミニク様も危険性は承知しているようで神妙に頷いていた。
……あれ、今まで通り殿下と行動を共にし、怪しまれないように振る舞うのなら、周りからの目は変わらないのでは?そうなると私との結婚諦めないんじゃ?それは困る!困る……けどしょうがないか。
私個人としては困るけど、周囲からの目よりドミニク様に殿下側の動向を探ってもらう方が大事だと分かるので、余計な口を挟むことはやめた。
そんな話をしていたら結構な時間が経っていたようだ。そろそろお昼だということで、宰相たちは帰ることになった。帰ろうとソファから立ち上がろうとしていた宰相がふとマリーベルを見る。
「そういえばこの館にはそこの侍女しかおりませんよね?お食事はどうされているのですか?」
「侍女のマリーベルが作ってくれています」
私も手伝っているけどそれを言うと咎められることは分かっているので、余計なことは言わない。
「君は料理人の経験があるのか?」
「ございません。心苦しいのですが家庭料理をお出ししております」
「何!姫様に家庭料理だと!?」
質問をした宰相ではなくドミニク様が声を荒らげた。
「父上!すぐに料理人の手配を!」
「いえ、マリーベルの料理は美味しいので必要ありません!」
料理人を至急手配しそうなドミニク様を慌てて止める。料理人がいたら私が料理できなくなる。
絶対に阻止しなきゃ。
「……私も彼女の料理に不満はありませんし、信用できない者を館に滞在させたくありません」
「そうだな。現状問題がないのならこのままの方がよかろう」
「父上!」
ドミニク様は不満そうだったが、宰相は納得してくれたのでよかった。このまま料理の手伝いができそうで一安心だ。
話が済んだので、宰相たちの見送りのため立ち上がる。机の上のキラキラの髪飾りが目に入った。
新年祭の時に着ける髪飾りがなかったからありがたいけど、これ着ける度にドミニク様が大喜びするのかな。結婚に乗り気だって思われたらどうしよう……
私の一瞬の苦い表情と視線の先から、宰相は私が何を考えていたのか察したようで、私にさりげなく近づいてきてコソッと「そちらの品は私からになります。ドミニクも装飾品を贈りたがったのですが気持ちが重いと思いまして硬貨の一部を用意させました。ご安心ください」と言われた。
……宰相すごい!洞察力と気配りがすごい!流石宰相!……でも見抜かれすぎててちょっと怖い。
そんな考えもお見通しな気がするがどうしようもない。私は諦めて玄関ホールへ向かった。




