24話 タスケナケレバヨカッタ
え?け、結婚?結婚って言った??
私は呆然として言葉が出なかった。私だけではなくドミニク様以外みんな呆然としているようで、応接室はシーンと静まり返っている。
先に我に帰ったのは宰相だった。
「ハァ……このタイミングで言うとは」
その言葉にどうやら宰相はドミニク様の気持ちを知っていたようだ。師匠がハッとし、猛然とドミニク様に抗議する。
「何を言っているのですか!今までの態度をお忘れですか!虫が良すぎます!大体年が離れすぎているでしょう!」
「たったの13だろう!貴族ならこのくらい珍しくない!」
確かに貴族は政略結婚が多いため、そのくらいの年の差は珍しいものではない。多いものでもないが。
「はっさてはフレデリック、お前も姫様との結婚を狙っているな!」
「なっ……そんなことありません!」
顔が赤くなった師匠だったが、すぐに否定した。
うわ、ドミニク様何言ってるの。師匠、顔真っ赤にして怒ってるよ。そりゃそうだよね。師匠の中で多分私のことは妹みたいな位置じゃないかと思うんだよね〜師匠とばっちり、可哀想……
自分が求婚されたのに他人事の気分でお茶を飲む。2人が言い争っているから、このまま有耶無耶にならないかなと思っていたが、宰相に水を向けられてしまった。
「姫様はドミニクとの結婚をどうお考えですか?」
まだ言い争っていた師匠とドミニク様がピタリと止まる。そして私を見つめてきた。ドミニク様は期待を宿したキラキラした瞳を、師匠は不安そうな瞳を向けてくる。
そんな目で見ないでよー!
そんな目で見られても困る。私の心は決まっているからだ。
「お断りいたします」
「何故ですか!」
私の答えに間髪入れずに問うドミニク様。
いやいや何で受け入れられると思ってるのかな。うーん、何て言ったら諦めてくれるのかしら……
私が黙っているとドミニク様がしょんぼりする。
「……私の今までの行いのせいですか?しかし私はあの時生まれ変わったのです!」
「信じられません」
私ではなく師匠が即座に冷たく返す。
わぁ、すごいバッサリ。まあその気持ちはわかるけど。
仮に本当に更生したとしても結婚したいかと言われたら『否』だ。単純に今は興味がない。やっと自由に色々できるようになったのだ。結婚は20歳くらいでいい。
例え今婚約したとしても成人の16歳までは結婚しないだろうけど、婚約したら結婚に向けての勉強とか社交とかなんだか面倒なことが多そうだ。基本的に知らないことを学ぶのは好きだが、結婚に興味がない今では意欲をそそられない。それならその分魔術を学びたい。
「……本当に反省している。以前の私は高貴な血筋に多大な誇りを持っていた。『下の者は上に立つ者の恩恵にあずかっているのだから、こちらの思い通りに動くのは当然』だという殿下の言うことに共感していた。下の者たちの気持ちを全く考えていなかった。……私と同じ心があるというのに」
肩を落とし悄然と話すドミニク様は本当に反省しているように見えた。
「あの時、自分が命の危機に陥った時、助けられて当然だと思っていた。だって私は公爵家の人間だ。魔力も公爵家の名に恥じぬ程度には多い。それなのにフレデリックもそこの侍女も助けなくていいと言った。死んで喜ぶ者の方が多いと。……その時に私は自分が周囲からそれほど嫌われている事を実感した」
それまでも宰相や家族の人たちに注意されていたが、媚びる者ばかりが周囲にいたため信じていなかったらしい。しかしあの命の危機に瀕した時に自分が簡単に切り捨てられるちっぽけな存在だと身に沁みたようだ。
「そんな私を姫様だけが助けようとしてくださった。今まで散々失礼な態度を取ってきた私に……本来なら不敬罪だというのに」
あっ自覚あったんだ。まあドミニク様だけじゃないしなぁ……て、ちょっとマリーベル、顔が凶悪犯みたいになってるから!視線で射殺しそうだから!宰相にバレてるから!
それこそ宰相に不敬だとマリーベルが咎められないかヒヤヒヤする。ドミニク様は気にしてないのか気づいてないのか話し続けている。
「今までの不敬を水に流し、私を助けてくださった姫様はなんと心が清らかなのか。死の淵にいた私にはあなたが救いの天使に見えました!これはもう一生を懸けて姫様に尽くさなければ!!女神を幸せにしなければ!!」
天使になったり女神になったり忙しいなと真剣に聞いていなかったら、急にドミニク様に手を握られてビクッとなってしまった。
「だから姫様、私と結婚しましょう!国内の情勢を考えると私と結婚するのが一番幸せになれますよ!」
私は国内で結婚するとなると降嫁することになる。3つある公爵家の中で前王弟の公爵家や王妃の実家の公爵家に嫁ぐと派閥に影響があるが、ドミニク様の公爵家は中立ということで大きな影響はないとか、嫁いできたらドレスや宝飾品を惜しみなくプレゼントするとか豪華な食事を用意するとか生活する館だけではなく別荘を渡すとかすごい勢いで売り込まれた。
……ちょっとだけ師匠が言ってた言葉がよぎったよ。本当にちょっとだけね。
……タスケナケレバヨカッタ……




