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22話 宰相の訪問(前編)

 師匠が規格外なのは分かりきっていたことだけど、マリーベルまでその気があるとは思わなかった。そんな人たちと平凡……より少し劣っているかもしれない私は比べちゃダメ、凹むだけということで私は私なりに頑張ろうと決意した所で師匠が「そういえば」と何気ない様子でとんでもないことを言った。


「明日、宰相がここに来るから」


 私とマリーベルがポカンとする。


 ……は?宰相?宰相ってあれだよね。よく陛下の隣にいらっしゃる方だよね。陛下の補佐してる方だよね。臣下の中で一番発言権ありそうな方だよね!?


「……何で?あっこの前の刺客について何かわかったということですか?」


 やっと納得できる理由が見つかって少し安心する。それでも部下の人が報告に来ればいいのではという気はするが。


「いや、お礼がしたいとのことだ」

「お礼??」


 私は宰相にお礼をしてもらうようなことはしていない。むしろ政治的判断からも私をこの館に送ることに賛成したということなら、疎まれていそうだ。

 私と行動を共にしていることが多いマリーベルも、お礼されるようなことがある程の接触はないだろう。

 そうなるとやっぱり師匠かな。仕事で何か宰相を助けたのかもしれない。

 理由を考えて首を捻っていると、師匠が答えをくれた。


「宰相はドミニク様の父親だ」

「なるほど!」


 それならすごく納得。師匠は命の恩人だもんね。……あれ、もし私のとばっちりでドミニク様が怪我したのならやっぱり私疎まれてる?というか恨まれてるかも!?ど、どうしよう!?宰相に恨まれたら社会的に殺されそう!


 私が1人動揺している間に師匠は必要事項を述べていく。


「明日の朝の鐘の後にいらっしゃるそうだ。マリーは出迎えの準備を頼む」

「かしこまりました」


 あっ師匠へのお礼がしたいのなら私は関係ないか。会わなかったらいいんだ。そうだそうだ。


「メルも同席するように」


 ……退路を断たれた。


 がっくり項垂れる。


 その日は翌日が気になって何も手につかなかった。



 

 そして運命の当日がやってきた。朝の鐘が鳴ってしばらくしたら宰相が訪れたと師匠に言われ、緊張しながら一緒に門に向かう。

 結界を抜けてやって来たのは宰相とドミニク様、後ろに布に包まれた荷物を持ったベテラン執事っぽい男性の3人だった。宰相は以前見た時と変わりなく赤髪をかっちり固めてシルバーフレームの眼鏡をかけた隙の無い感じだ。多分陛下より少し年上の40代後半から50代前半くらいだと思う。

 挨拶をした時は普通だったけど、まだわからない。私が戦々恐々としながら大人しく立っていたら、挨拶している時は大人しくしていたドミニク様が私の前に跪いた。


「姫様!先日は助けていただきありがとうございます!ああ、本日も大変愛らしいですね。あなたは私の天使です。黄金の髪は光り輝き、黄緑の瞳は宝石にも勝る。天使ではなく、もはや女神か」


 ??????


 私が訳がわからず固まっていると、宰相がドミニク様に「大人しくしていなさい」と言いながら腕を掴んで立たせた。その間に師匠とマリーベルが私を守るように前に立ってくれたことでホッとする。


 びっくりした……中身別人なの?なんかこの前と違いすぎて怖い……


 それくらい態度が違う。数日前までゴミを見るような目でしたけど……


「とりあえず中にお入りください」


 師匠の言葉に、みんなで応接室へ移動する。その間もドミニク様の熱い視線を感じて居心地が悪かった。




「改めまして、姫様。先日は愚息を助けていただきまして、誠にありがとう存じます」


 応接室に着いて、ソファーに座り、お茶が運ばれてきたら早々に深々と頭を下げる宰相。ドミニク様も宰相と同じように頭を下げている。さらに宰相たちの後ろに控えている執事も同様だ。


 いやいやおかしいよ。助けたの私じゃなくて師匠だから!


「あ、あの頭を上げてください!私は何もしていません。助けたのは師匠……フレデリック様です」

「ああ、それもありますね。フレデリック、感謝する」

「……姫様の頼みでしたので」

「そういうことで、姫様がいらっしゃらなかったら愚息は命を落としていたことでしょう。本当にありがとうございました」

「いえ……」


 確かにあの時師匠は私が頼まなかったらドミニク様を見捨てていただろう。それでも師匠の力がなかったらドミニク様は助からなかったし、それに……


「あの、ドミニク様は私に巻き込まれて怪我をされたのではないのですか?もしそうならお詫びをしなければならないと思うのですが……あっそういえば犯人について何か分かりましたか?」


 宰相はサッと自分の横に座っているドミニク様、斜め前の師匠に視線を走らせる。


「それが……進展しておりません。矢は平民の間で広く流通しているものでしたので、購入経路から特定することもできません」

「そうですか……」

「ただ姫様が狙われていたとは断定できないのです。フレデリックの可能性もあります」

「え?師匠?結界張ってくれているのに?何でですか?」


 宰相が言うには、現在国内の情勢が不安定なのだそうだ。国王派、王妃・殿下派、前王弟派、そして師匠の父である伯爵派。大きく4つに分かれるそうだ。

 

 ……まさか陛下と王妃・殿下が違う派閥だとは思わなかった。


「フレデリックは上級貴族でありながら、王族よりも魔力があります。貴族の中には殿下ではなくフレデリックが次期王に相応しいのではないかという声もありまして……それを面白く思わない者もおります」

「……父と母がなんと言っているのか知りませんが、私は王になるつもりはありません」


 師匠が顰めっ面で答える。その表情から師匠は勝手に自分を担がれている状況に迷惑しているようだ。


「ああ、わかっている。ただ周りがな……」


 宰相はため息をつき、お茶を飲んでからまた口を開く。


「あとは中立派である私を派閥に入れるために、息子が狙われた可能性もあります。ですから姫様が気になさる必要はございません」


 ……私が知らないだけで色んな可能性があるんだ。視野が狭かった。「私のせい」ってすごい独りよがりだった。恥ずかしい……


「そういうわけでお礼の品をお納めください」


 そう宰相が言うと、後ろの執事が綺麗な箱を机の上に置いた。中に入っていたのは、蝶モチーフの緑と黄緑の宝石がふんだんにあしらわれた髪飾りだった。

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