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14話 幸せな時間

「姫様!今年は瞳のお色に合わせて黄緑のドレスにしましょう!腕に寄りをかけて仕立てさせていただきます!!」


 悲痛な面持ちを浮かべていた奥さんは、少しすると何やら決意を灯した瞳をして立ち上がり、強く宣言した。


「あ……ありがとう……」


 奥さんの勢いに少し引き気味に答える私をよそに、奥さんは「奥から布を持って参りますね!」と急ぎ足で部屋を出て行ってしまった。


 ……奥さんもマリーベル、師匠化した……


 奥から大量の布を持って帰ってきた奥さんは、私の体に当てて似合う布を探し始めた。私はもう奥さんの好きにしてもらおうと、諦観した。

 それは師匠たちが採寸から戻ってくるまで続いたのだった。


 


 衣装の注文を終えて外に出ると、丁度昼食の時間になったようで鐘の音が聞こえた。


「昼食どうしますか?」


 マリーベルの問いに、師匠が私に目を向ける。


「店に入るのと、屋台で何か買うのとどっちがいい?」


 え〜すっごく迷う。どっちもいいなぁ。


 どちらも初めての体験だ。楽しみすぎる。迷いに迷って少し先の屋台からお肉のタレが焼ける香ばしい匂いに惹かれて屋台で食べることにした。


 お肉と玉ねぎが交互に串に刺さっている串焼きを、私とマリーベルは1本ずつ、師匠は2本買った。師匠がお金を払いそうになったから慌てて硬貨を出す。マリーベルも払おうとしていたので、「お金を使ってみたいの!」で押し切った。


 ふー油断も隙もない。


 師匠とマリーベルが不満気だけど気にしないで、受け取った串焼きを持って近くのベンチに座ってからお肉を齧った。


「美味しい〜ほら2人も」


 私が促すと渋々師匠とマリーベルがベンチに座り、お礼を言ってから食べ始めた。


「本当美味しいですね。火の魔道具では炭火焼きの味は出せませんものね」


 しみじみ言うマリーベルに頷く。師匠を見ると無言で食べているが、食べるペースが早い気がする。

 私は自然と笑顔になるのを感じていた。

 味はもちろん美味しいけど、それ以上によく晴れた空の下、自由に食べたいものを選んで、気を張る必要もない人たちと食べる食事がこれほど心が満たされるとは思わなかった。

 館に来てから食事空間の大切さを思い知った。


 陛下たちには怒りしかなかったけど、館に来てよかったわ。


 城にいた頃には感じられなかった充実感、解放感、満足感……本を読むだけでは体験できなかった気持ち。

 私は今、本当の意味で生きている。


「姫様?」


 私がニヤけていたので、マリーベルが気になったのだろう。


「美味しくって幸せだなって思って!」

 

 マリーベルが優しく微笑み、頷いてくれた。

 

 あっという間に串焼きを食べて、別の屋台で鶏のトマト煮込みも購入。具が沢山入っていたこともあって、少食の私は昼食終了。食後に近くの屋台で買った果実水をゆっくり飲みながら、師匠とマリーベルが食べ終わるのを待ちながら一息つく。ちなみに2人はパンも購入してトマト煮込みと一緒に食べていた。


 

 

「そろそろ食材を買って帰るか」


 もう少し町を見たいけど、監視もいることだし仕方ない。

 私たちは次々と食材を購入していく。キャベツ、レタス、ブロッコリー、トマト、きゅうり、玉ねぎ、人参、ニンニク、小麦粉、麺、ミルク、卵、パン、牛肉、豚肉、鶏肉、塩、砂糖、リンゴ……他にも色々買ってたような気がするけど、多すぎて全部覚えてない。

 見ていてわかったのは、大体食材1つの値段は大銅貨数枚で買えるということだ。

 流石に3人分の1ヶ月の食材を私とマリーベルの手持ちのお金では賄えなかったので、師匠に払ってもらうことになった。

 店先で支払いについて揉めるのも迷惑なので、食費に関しては館に戻ってから話し合うことになった。

 購入した食材を配送してくれるサービスがあるお店には、町役場に運んでもらうよう師匠がお願いしていた。どうやら事前に馬と荷馬車の手配を町役場の人たちに依頼していたらしい。転移の魔術陣で移動させればいいじゃないと思ったけど、平民を装っていたことを忘れていた。


 師匠の気配りすごい。というかそんなこと全然思い浮かばなかった……町に行けることに浮かれてたよ。ちょっと反省。……うん、今回学んだから次に生かそう!そうだ、そうしよう。


 配送サービスがなかった卵、砂糖を師匠が、ニンニクをマリーベルが持って町役場へ向かう。ちなみに卵と砂糖は重くて持てなくて、ニンニクは臭いが服や鞄につくとダメだからと持たせてもらえなかった。


 くっ筋肉!筋肉が欲しい!


 町役場の入り口から少し離れたところに荷馬車があり、丁度食材を積み終わった職員さんにお礼を言うと、ぎょっとしてからオロオロしながら頭を下げて逃げるように去って行った。


 ……そんなに怖くないよ〜……


 ちょっと切なくなっていると、今の職員さんと入れ替わるように男性がこちらへ歩いてくる。師匠よりも少し年上そうで、短い赤髪とせっかちそうな歩き方、こちらを睨むような表情から気性が荒そうに感じた。身なりがいいことから貴族なんだろう。


「フレデリック。仕方がないから私が直々に付き添ってやろう。荷馬車をひくような平民がやることはお前がやれよ。私は馬に乗っていくからな」

「…………かしこまりました」


 あ。師匠の表情が死んだ。


 赤髪男性は私とマリーベルを一瞥すると「フンッ」と鼻を鳴らし、嘲るような表情を浮かべた。その様子にマリーベルはカチンときたようだが、手を握りしめて耐えている。


 ……カゴバッグの持ち手がミシミシ言ってるわぁ……


 それにしても上級貴族ってこんな人が多いのだろうか。師匠の様子から、伯爵家の師匠よりも上の公爵家の人なんだろうと思うけど……この人といい、殿下といいこの国大丈夫なのだろうかとちょっと不安になる。まあここまで態度が悪い人は一部の人だけだと思うけど。

 そんなことを思っていたらぼそりとマリーベルが「流石殿下のご友人……」と呟いた。

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