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13話 噂

 怯える仕立て屋の奥さんになんて声を掛ければいいのかわからず、取り敢えず出されたお茶をいただくことにした。


「あっ美味しい!」


 お茶に仄かな甘味があって美味しかった。私の言葉に奥さんはホッとしていた。


「このお茶って私でも買えるのかしら?」


 私が漏らした言葉に奥さんの顔色が曇った。


「今、貴族のご婦人方の間で人気だそうで品薄になっているようです……」

「そう。残念だわ」


 滅多に飲めないのならじっくり味わおうとゆっくりとお茶を飲む。その様子を見ていた奥さんが震えながら「うちにある分でよろしければお持ち帰りください」と言い出して、お茶を吹きそうになった。


 あ、危なかった……てそんな場合じゃなかった。


「いえいえいえ。そんなに貴重ならぜひご自身で楽しんでください。というか今いただいてごめんなさい。貴重なお茶を振る舞ってくれてありがとう」


 怖がらせないようにできるだけにこやかに話すと、奥さんの肩の力が抜けたのがわかった。


「姫様は噂とは違うんですね……あっでももう1つ別の噂が……」

「噂?」


 奥さんは思わず口にしてしまったようで、余計なことを言ってしまったとオロオロし出す。


「何を言われても大丈夫よ。どんな噂があるのか教えてくれる?」


 奥さんはそれでも言うのを躊躇っていたが、急かさず待っていたら教えてくれた。

 

 1つは何でもうちの国の姫様は我儘でプライドが高くて、気に入らないことがあるとすぐ使用人に当たるのは日常茶飯事。勉強は嫌いだから魔術も学ぶのを嫌がって、王族の勤めを果たさないということだった。


 え〜……平民の間ではこんな噂が流れてるの?いや貴族もなのかな。というかほぼ殿下のことじゃないの?

 魔術を学んでないことを私のせいにするなんて、本当に汚い。私は学びたくてたまらなかったのに。


 心の隅に追いやっていた怒りが沸々と湧き上がってくる。

 そもそもそんな噂を流して王族に何の得があるのだろう。普通厄介払いをしたいのなら、そんな噂を流さずとっとと降嫁させて王族から追い出してしまえばいいのに。こんな噂を流してしまえば私を嫁にもらおうなんて、よっぽど王族と繋がりが欲しい人しかいなくなって、政略結婚の利だって得にくくなるだろうに。

 まあ大人しく結婚する気はありませんが。


 私の顔が険しくなったため、奥さんがまたオロオロし始めた。


 いけないいけない。今はあんな人たちのこと置いとこう。


「教えてくれてありがとう。それより兄がご迷惑をおかけしていたみたいでごめんなさいね」

「あっいえ……そんな……」


 奥さんは緩く首を横に振っていたが、顔から怯えがなくなったことに私は安心した。それでも奥さんは殿下のことは語りたくないようで、ドレスの話題に変えた。


「……姫様。新年祭のドレスのデザインに希望はありますか?」

「うーん……デザインには詳しくなくて……」

「でしたら色はどうですか?」

「ピンクとか黄緑とか淡い色が好きだわ」

「お似合いになると思います。今年は何色のドレスをお召しなりましたか?」

「ずっと同じドレスだからピンクね」


 私の言葉に奥さんが固まってしまった。


 え?そんなに変なこと言った?あっそっか。普通新年祭なんて貴族が全員集まる宴で同じドレス着ないか。

 うーん、でも本当のことだしなぁ。


「……もう1つの冷遇されているという噂は本当だったんですね……」


 呆然としたまま奥さんが呟いたことで、もう1つの噂を聞くことを忘れていたことに気づいた。


 そんな噂も流れてるのね。まあこれは王族じゃなくて、貴族の何処かから漏れたんだろうな。


 奥さんに同情するような表情を浮かべられて居た堪れなくなったので、そんなに悪くないということを主張することにした。


「あの、でもマリーベルが、あっ今採寸してもらってる女性なんだけど、彼女刺繍が上手くてね、次の年からはドレスに刺繍してくれたの。その次はレースを買ってくれて縫い付けてくれたりして、段々豪華になっていってるの。だから毎年全く同じドレスじゃないのよ」


 私の主張に奥さんはますます顔を歪めていった。


 ……あ、あれ?……失敗した?

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