プロローグ
私、メルリーユ・オーリソルはこの国の王女である。
私は今日…
「フレデリック、お前に妹の保護を命じる」
いつも不機嫌なお兄様が機嫌良く楽しげにフレデリック様に命じた。
フレデリック様はお兄様の言葉に無表情で静かに問い返す。
「…保護ですか?期限はいつまででしょう?」
「メルリーユを害しようとする動きがあると報告されたのだ。期限は危険がなくなるまでだ。この館は守りにはうってつけだろう?」
お兄様がニヤニヤしながらフレデリック様を見る。
「…保護ですね。かしこまりました」
「ふんっここに来るのもこれで最後だろう。せいせいした」
フレデリック様は無表情のままだったけど、私は眉を顰める。
この館にフレデリック様を閉じ込めてるのは王族なのに…
フレデリック様がお一人で住んでいらっしゃるこの館は、二重の結界が張られている。一つはこの館が国の守りの要になるため、フレデリック様ご自身が張られた結界。もう一つは王族の許可がなければ通ることができない結界。
フレデリック様は伯爵家の方なのに王族よりも多い魔力を持っているという特殊な方。さらに頭もいいらしく、従来よりも強力な結界魔術を開発したらしい。他国から狙われやすいこの国が安全なのは、その結界が国を覆うように張られているからだ。それも上級魔術師が数人がかりで張る結界を、お一人で10年も維持している。
王族なのに下級魔術師としての魔力しかない私には考えられない。
だからこそフレデリック様を他国に渡したくないということはわかる。
だからって館から出られないようにするなんてひどい。そう思っていても、フレデリック様には私もその一員だと思われていると思うとなんとも歯痒い。
「いいかフレデリック。お前のこの10年の献身があって外出が自由になったのだ。俺たちを裏切るような真似は許さん」
「…承知しております」
お兄様はフレデリック様の言葉を満足そうに聞いたあと、すぐに城に帰っていった。
私はフレデリック様の水色の瞳をしっかり見つめてから改めて挨拶をする。
「メルリーユです。よろしくお願いいたします」
「…フレデリック・オルウェルです。保護は命令されましたが、世話は命じられておりません。館の中は私の私室と作業部屋、鍵のかかった部屋以外は自由にお使いください。では中に入る許可をお願いします」
フレデリック様は私とよろしくするつもりはないようで、長い黒髪をゆるく編んだ三つ編み翻し、素っ気なく言って足早に館に向かって歩き出した。
こうして私は今日、保護という建前で家族に捨てられた。