表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

退魔師と孤独の迷い子Ⅲ

読み方はエクソシストと孤独のロストです。

神凪六丁目、白泰山の麓である。人通りはそこまで多くは無い。六丁目は神凪の中で一番広く、麓から一〇〇メートル程離れた所からは立派な住宅が並んでいる。今いる麓には全くと言っていいほどに人はいなかった。駅とは反対側のためでもある。だからこそ、被害者が十五人で済んだのだろうか。そう考えると直樹はゾッとした。それだけ危害を加える事に快感を得るような妖怪なのか、それとも、それだけ人間を恨んでいるのだろうか。

 

風ひとつ吹いていない。音一つ無い。不気味なまでに静かだ。


 聞こえるのは二人の足音。見えるのは二人の人間の姿だけ。二人は細心の注意を払い、言葉を交わさなかった。周囲を見渡す。何も変わった所は無い。


 一体何分間歩いたのか、分からない。事件が集中している場所に辿り着く。空は雲一つかかっておらず、星や月がハッキリと見えている。


 幸い、この時間帯はいくら警察と言えど身の保身がかかっているために捜査はおろか、見張りなどもいなかった。直樹と静音はお互い顔を見合わせて頷く。そうして再び、周囲を調べる。


(……特に異変は無し、か)


 探せど探せど、手掛かりは無い。そもそもここに来たからと言って手掛かりがある補償など存在しなかった。ただ、行ってみれば何か分かるかもしれないという単純な考えだっただけである。


 小さな風が吹く、ような気がした。直樹は風を感じる。すぐに周囲を見渡した。ポケットから数珠を取り出した。普通なら気がつかない変化。だが、全くの無音、無風だからこそ気付けた異変。


「伏せろ!」


咄嗟の一言で一瞬静音は戸惑った。が、次には身を屈ませた。


手を合わせる。数珠を合わせた両手の人差し指と親指の間に掛ける。


轟音。小さな風は急に唸った。直樹と静音に向かって恐ろしいまでの速さの風が吹く。それと同時に、木の枝や小石が舞う。獲物に向かい襲いかかる。ただの人間なら、食い殺されてもおかしくはない。


――そう、ただの人間であれば


ならば、ただの人間ではない、人間の常識とはかけ離れた人間であれば!――


数珠を振る。直樹と静音の周りが『喰われ』た。その言葉が示すように、数珠が周囲の風や木の枝、小石を全て喰らいつくした。まるでその数珠が、意思があるかのように、直樹が認識した周囲の『障害物』を吸い込む。


「……よし」


 彼の数珠は元璋が用意した特別なものである。彼も詳しい事はよく知らないが、一説には鬼が作ったものとある。怪奇という存在において、龍に次いで強大な存在である鬼が作ったものであるという。それならば、人間には到底理解しえないモノを作れて当然ともいえるだろうか。


「さぁ、出てこいよ」


 直樹は道路の向こう側にある森への入り口に目をやった。もちろん何も異変は無い。ただ、その方向から風が吹いてきただけの話。だがそれで彼にとっては十分であった。


「お前は風を起こせるみたいだけど」


 ただ、ひたすらに。


「それは、自分の身体を使って起こすんだろう?」


 何もいないはずの場所を見続ける。


「それはつまりだ」


 数珠を握る左手がその先を見据える。


「その風の先にお前がいるんだろう?」


 獲物は完全に狙われていた。




 木々が揺れる。そこには小さなキツネのようなものがいた。だが、明らかにキツネのソレとは違う。まるで緊張して鳥肌が立っているかのように毛が逆立っている。


「ようやくお出ましか。鎌鼬」


「……鎌鼬? 何なんだい」


 鎌鼬は、まるで自分が鎌鼬だという事を知らないように、喋る。


 妖怪は人間を襲うモノも多い。恐怖に愉悦を感じる事もある。だからこそ、妖怪は人間に恐怖を与えるために、力だけではなく、言葉も発達させてきた。それはつまり、人間の言葉を話せるという事だ。


 学校で問題とされるイジメ。それの多くは暴力的なものではなく、言葉や態度と言った精神的な所を傷つけていく。そして最悪の場合は自殺まで発展する。それはどういうことか。言葉というものは、『人を殺すことのできる凶器』にもなりえるのだ。だからこそ、妖怪は精神的恐怖を与える目的で言語が発達したのである。もちろん、それだけの理由ではないのだが。


「自分が鎌鼬ではないと……?」


 静音は疑問を抱く。この特徴、そしてキツネのような姿。どうみても鎌鼬である。にも関わらず目の前の存在はそれを理解していないのだ。


「鎌鼬なんて知らない。ボクはただ、人間を襲うだけだ!」


 尻尾が動く。風を起こしたわけではない。ただそこには怒りが満ち溢れている事だけがハッキリと分かるだけだ。目つきは直樹と静音を今にも殺さんと言わんばかりの形相である。


「俺たちはここらで多発している切り裂き魔事件を解決するために来た。それをやったのは、お前か?」


「そうだよ。ボクはここを通りかかった人間を襲ったよ」


 嘘を言わなかった。誤魔化しもしなかった。嘘を言うつもりがないほどに、人間を襲いたかったのだろうか


「だから、お前たちも襲うんだよ!」


 今度は威嚇でも何でもない、嘘偽りなく二人を襲おうと尻尾をふるう。


 周囲の砂利が舞う。その前に。


「静音、後ろにいろよ」


直樹は静音の方を掴み、自分を壁にするように静音を後ろにやった。


「この白泰山の流脈は風」


 この世界の土地それぞれには、流脈と言うものが流れている。言わば霊的な流れである。ここ神凪は、白泰山を除き、その名前の通り風が強くなりにくい土地である。それはつまり、この白泰山が神凪一帯の風を寄せ集めているからである。本来他の場所で吹くべき風は、白泰山が司る風の流脈により多くが吸収されてしまうのである。


「我が仇なす風を奪い取れ……!」


 白泰山の風の流脈。直樹はそれを使う。数珠を地面へと置き、数珠が円状になる。その円の中心に手を当てた。


彼の退魔師の原点は白泰山の愛染倉神社。直樹は白泰山を原典とする退魔師。それは、白泰山の流脈を利用する事も出来るという事だった。


風の流脈の動きを可能なまでに活性化する。普段の何倍も、何倍も。流脈の動きを活性化するという事は、その能力も活性化するという事だ。つまり――


「なっ、風が……!」


 鎌鼬の起こした風は、フル活動している白泰山の流脈に吸い込まれる。鎌鼬が直樹達に向かって起こした風は、直樹達に届く前に方向を変え、白泰山の山頂へと向かっていった。


「残念だったな。お前の風は全部消させてもらう。それより、何でお前は人間を襲うんだよ」


「人間が憎いからに決まってるだろ!」


 それでも鎌鼬は風を起こす、全て白泰山に持っていかれようとも、それでも直樹達を襲うために。


「憎いんだ、人間が!」


 何度も何度も風を起こす。二人には傷一つつかない。それでも鎌鼬はやめない。何がその原動力となるのか。それは憎しみだった。その憎しみはどこから沸いてきたのであろうか。


「どうして、そんなに人間が憎いの?」


 静音が言う。少なくとも、愉快犯ではないようだった。


「人間が……」


 かつての風景が頭をよぎる。忘れたくても、忘れる事の出来ない絶望が。


「人間が、ボクの親を殺したんだ……!」


 鎌鼬は、風を起こすのを止めた。その瞬間、鎌鼬が直樹達に向かって来る。


「だからボクは人間を襲うんだ。ボクの親を殺した人間に復讐するために!」


「……!」


 その言葉に、直樹はピクリと動く。静音を庇う様に立つ。


「ボク達が何をしたって言うんだ! ただ、偶然麓に降りてきたのがいけないのか? 人間の常識を知らなかったからいけないのか。そんな理由で、ボクの父さんと母さんは死んだのか!」


まるで弾丸の様に、鎌鼬が襲いかかる。完璧に避ける事はおそらく無理だろう。直樹は静音を軽く押した。倒れこんでしまう程の強さではなく、バランスを崩し数歩下がってしまう力加減。


「なっ……!」


 だが、静音は予想外の事で判断が聞かず、六歩程下がった後で尻もちをついてしまった。


「うあああああああああああああああああ!」


 鎌鼬は風を起こして切り刻むだけではない。風を起こす為に発達させたその尻尾は、凶器にもなりえるほどである。空中で身体を回転させ、尻尾をムチのようにしならせ、直樹を襲う。それを直樹は可能な限りまで避けようと身体を動かす。だが、間に合わない。咄嗟に、直樹は左腕を自身の身体の前に出す。


「な、直樹!」


 血潮が飛ぶ。庇うように出した左腕は、幸いなことに完璧に切り裂かれるというわけではなく、少し掠った程度であった。それでも、腕にはまるでメスを入れたかのように鋭く、ブレの無い切り傷ができていた。


「まだだ、まだだ!」


勢いを殺すのに直樹達から一〇メートル程離れるまでとなった。そして、今度こそ直樹を立たせなくするために方向を変える。その視線は直樹を真っ直ぐに見据えていた。


「痛ぇな……けど、準備はできた」


 左腕を突き出し、鎌鼬の方に向ける。血が滴る。


「俺が退魔師としてやっていけるのには理由がある」


 何を言うのか、と鎌鼬は思う。だが同時に、ただの時間稼ぎであろうと判断した。再び攻撃を開始するために身体を低くする。


「退魔師の本懐ってのは、我が身を削り我が敵を討つ事にある」


鎌鼬はまだ動かない。本来鎌鼬は風を『起こす』事を念頭に置いている。その為、自身が激しく動き戦闘を行う事はそうある事ではないのだ。殺傷能力は非常に高いものの、その分普段の何倍も体力を消耗する。妖怪と言えど無限などあり得ない。乱れた呼吸を一度整える。その為に、臨戦態勢を取りつつも攻撃しなかったのである。攻撃をしないのではなく、出来なかったというべきか。


「この身体を巡り巡る血液こそが、俺の力だ」


 まだ呼吸が整わない。


「昔から、血と言うものは重要なものだった。契約を行う儀式の時も、自身の罪を償う時も、その人間の血は必要不可欠なものなんだよ」


 あと一〇秒、そうすれば呼吸は整う。


「どういう事か分かるだろう。この血を持って、お前を止めてやる」


 動ける。今度こそ確実に眼前の敵を再起不能にしてみせる。


「やれるものなら、やってみろ!」


万全の態勢となった鎌鼬は、全体重を乗せ直樹に襲いかかる。


「さぁ――止まれ」


 血が、地面に落ちた、その瞬間。まるで上から押し潰されたかのように飛びかかっていた鎌鼬は地面に叩き落とされた


「ぐ……っ!」


 指一本すら動かせない。


「血判術って言うんだ。自身の血を魔術でいう魔力に例える。血を原動力にする術の事さ。とりあえず、今は重力制御をさせてもらったよ」


 一歩、鎌鼬に近づく。


「動け、動けよ……!」


 それでも動かない。何度身体に命令しても全く動かない。それほどまでに直樹の術は完璧だった。それを、静音は直樹の後ろで見ていた。そして、立ち上がり直樹に近づく。


 血判術とは、いわゆる魔術のようなものである。魔術を使うのに魔力を使うということは、多くの人間がゲーム等で常識としているところだろう。血判術とは、それを血としたものである。その為、大前提に『傷を負う』必要がある。能動的であれ受動的であれ、血を流さなければならない。そして、その血を糧とし、様々な魔術の様なものが使えるようになるのである。


 直樹は鎌鼬の動きを止めるために、重力の制御を行った。普段の地球上の重力の何十倍、それこそ手足が動けなくなるほどの重力変化を直樹の目の前五メートルに施したのである。


「一つ聞きたい事がある」


直樹はその場で、鎌鼬に言った。


「お前は何で、そんなに人間を憎んでいるんだ? さっきの話からすると、人間に殺されたようだけど……」


「……ボク達は、新しい餌場を求めて偶然麓に降りてきた、ただそれだけだった」


 勝負は決していた。鎌鼬の敗北。この先、どうせ消える運命ならば、誰かに自分の苦しみを聞いてほしい。そう思った鎌鼬は、抵抗を止めて直樹の質問に答える。


「車が目の前に走ってきたんだ。父さんと母さんはボクを庇った。ボクは両後脚を折ったけど、生き残った。でも父さんと母さんは車に跳ね飛ばされたんだ」


 おそらく即死だろう。鎌鼬はただ一匹だけ、両親に助けられた。


「でも、ボクはまだ子供だ。それに、脚を折られた。餌をろくに取れず、結局死んだんだ」


 直樹は鎌鼬の話を黙って聞いている。眉一つ動かさずに、真剣に。


「死ぬ寸前、ボクは人間を恨んだ。憎かった。そして、気付いたらボクはこんなことになっていたんだよ。風を起こせた。そして、本能的に気付いた。この力があれば人間に復讐出来るって」


「……そうか」


そう言うと、直樹は一歩一歩、鎌鼬との距離を縮める。


「お前は、独りなのか」


 直樹は、お互いの距離が三メートル程になった所で脚を止めた。そして、鎌鼬に向かい、目を向けた。


「……」


 鎌鼬は、視線を合わせない。


「……俺は、今では大切な友達はいる」


 それでも、と直樹はどこか悲しい目をしながら続ける。


「親は事故で死んだ」


「……え?」


 鎌鼬は顔を見上げた。なんでそんな顔をしているんだ、と鎌鼬は感じた。


「本当に偶然だった。日帰りの旅行に行っただけだったんだよ」


 過去を思い出す。


「信号無視だよ。信号が赤だって言うのに、横から来た車は止まらなかった。後々知ったんだが、その信号無視をした人は飲酒運転をしていたらしい」


 境遇は似ていた。自分と、似た者同士だと、鎌鼬は感じてしまった。


「そんな、単純な理由で親父も母さんも死んだ。そして俺は偶然生き残った。飲酒運転をした人も生きて

いた」


「それなら、お前だってその人間が憎くないのかよ……」


「……憎くない、なんて言ったら嘘なんだろう。でも、憎んで憎んで、その人間を殺してどうなるんだ。親父も母さんも生き返ってはこない。死んだら生き返れないんだ」


 ゆっくりと、ふたたび鎌鼬に近づいた。


「俺は今生きている。だから、親父と母さんから貰ったこの命を大事にしたい。憎しみに支配されるんじゃない。人間として、親父と母さんの分も幸せに生きたいんだ」


 そして、鎌鼬の元に行くと、ゆっくりと膝を落とした。


「お前は、悲しいか?……一人でいるのは、辛いか?」


「辛いに、きまってるじゃないか……」


 涙が溢れそうになった。鎌鼬は両親が死んだ時の事を再び思い出す。


「なら、独りにならなければいい」


 その鎌鼬の目には、涙があふれていた。


「独りがつらいなら、傷の舐め合いをすればいい」


 直樹は自分の指を鎌鼬の目の周りに当て、涙を拭う。


「――契約しよう。俺と共に、孤独を紛らわすように生きよう」


 その言葉に、鎌鼬は震える。憎いはずの人間が、一度死んで妖怪となった自分に救いの手を差し伸べようとしているのだから。


「それは弱い者のやることだなんて言われるかもしれないけど、関係ない」


 俺達は強くなんかない、そう優しげな口調で言う。その姿を、静音はただ黙って見ていることしかできなかった。


「辛いなら現実から逃げればいい」


 たとえ弱者と弄られようとも。


「逃げて逃げて、落ち着いたら向かい合えばいい」


 負い目があったまま向かい合ってもまた失敗するだけなのなら、それに意味いは無い。だから、もう失敗しないように、逃げるのだ。


「だから」


 ゆっくりと、直樹は手を差し出す。


「俺と共に逃げよう」


 こうなるのを、鎌鼬は待っていたのだろう。孤独に生きる事が辛い。その辛さを分かってほしい。今まで、ずっとそう思っていた。憎しみの陰に隠れていた。でもその気持ちは、確かに心の中にはあったのかもしれない。


 だからこそ、鎌鼬はその直樹の言葉を受け入れた。




「どうするつもりなの?」


 六丁目公園、この公園に人よけの札を貼ってから入り、ベンチに二人は腰かけた。二人の前には一匹の狐のような妖怪。


「簡単さ。俺の式神にするんだ……痛っ」


 静音は密かに持ってきていた救急道具で直樹の腕を止血、包帯を巻いていた。幸いにもすぐに切り口はふさがる程度の傷だった為、静音も苦戦することは無かった。


「ちょっと我慢しなさい……あぁ、成程。でも、初めてじゃない? 妖怪を退治しなかったのは」


「今までの妖怪がろくでもない奴ばかりだったんだ。それに、依頼の内容は切り裂き魔の調査であり解決だ。退治しろなんて言われてないんでね」


 ちなみに、今まで直樹は蛇、河童、蜂、猪の妖怪と戦ってきたが、全て消滅させている。


「さて、契約をしよう。お前は今後、俺の式神として生きていく事になる。あぁ、式神ってのはあまり意識しなくていい。ペット、いや、相棒と思ってくれ」


 包帯をしてもらうと、直樹は静音にありがとうと感謝の言葉を言う。


 式神とは、簡単に言えば使い魔、従者のようなものである。契約をすることで、お互いの生命をリンクさせる。式神は主に従う。そして式神は主が死ぬまで生き続ける事が可能となる。


「分かった」


 鎌鼬は頷く。


「あぁ、あと、名前をつけてやらないとな」


式神との契約にはお互いの名前が必要となる。


「でもあまりネーミングセンス無いからなぁ。単純かもしれないけど、イタチ丸とかどうだ?」


「それがいい。良い名前だよ」


鎌鼬は笑顔を見せる。直樹達に見せる、初めての表情。


「よし、じゃあよろしくな、イタチ丸」


「うん、ボクこそよろしく」


 そういうと、直樹は針で指を刺し、そこから出た血で紙に文字を書き始めた。静音はそれを覗き込むも、相変わらず理解不能な文字だった。その中で、唯一イタチ丸と片倉直樹という名前だけは分かる。紙に文字を書き終えるとその紙を地面に置いた。


「そこで目を閉じて、下を向いてくれ」


 イタチ丸は頷くと目を閉じた。


「我が名において、我が血に命ず」


 直樹は片膝をつき、紙に手を当てる。


「我ら、この命果てるまで共に――」


 紙が燃える。そして一瞬にして消え去った。それと共に、イタチ丸の身体が一瞬、輝いた。単純な儀式ではあるが、意味は大きいものであった。


「……これで、正式にお前は俺の式神だ。仲良くやっていこうぜ」


「……うん!」


 イタチ丸は飛びはね、直樹の肩に乗った。

「それと、こっちは浅熊静音。仲良くしてやってくれよ」


「よろしくね、イタチ丸」


静音は嬉しそうにしているイタチ丸に向けて、優しげな笑みを見せた。


「よろしく。えっと、静音さん?」


「静音で良いわよ」


「じゃあ、静音!」


 直樹の肩から静音の肩に移動した。一人の家族と、その友人。イタチ丸にとって、欲しかった存在が、出来た。心から、幸せだと感じる。そして、思った。両親の分も幸せに生きたいと――





「あれからどう、元気にしてる?」


 それから三日後、生徒会長室に直樹はいた。静音と向かい合い、紅茶を飲んでいる。


「あぁ、元気すぎるくらいだよ。そう言えば、静音にも会いたがってたぞ」


「そう、それはつまり、直樹の家に行っていいって事よね?」


 普段はイタチ丸は直樹の家で留守番をしている。それは、イタチ丸に合うには直樹の家に行くという事だ。


「む、いや、まぁ……お前が行きたいってならいいけど……それより」


 別に人を連れ込むのが嫌であるわけではない。事実、武彦は何度か直樹の家に訪れた事もある。だが女性は別だった。


「何?」


「お礼。いい加減、何かしらで返したいんだ」


 既に今回を含め五回も静音に協力してもらっていた。流石に何もしないわけにはいかなかった。


「別にいらないって」


 毎回同じ答え。


「それでもだ。このまま借りを増やしてばっかりは嫌なんだ」


「律義な人ね」


 直樹らしい、と静音は笑う。


「いいだろ、別に。それで、何か無いか? 欲しいものでも、何でもいい」


「そう……じゃあ、デートしましょうよ。それと、イタチ丸に会いに直樹の家に遊びに行きたい。それでどう?」


 静音はそう提案した。男の部屋に行った事があるわけではないが、直樹が理性を保てず襲ってくる事はしないと信頼しているから言えた事でもある。もちろん口には出さないが。


「う、それはいいけど……」


「じゃあ決定。明後日、午後一〇時に三丁目公園に集合ね」


「……あぁ、分かったよ」


 視線を反らし、照れを隠すかのように直樹は答える。だが、心の中では、良い休日にしよう、と心から思うのであった。


「ねぇ、直樹」


「何だ?」


「デート、正夢になったでしょう?」


 悪戯をする子供の様に微笑む静音は、実に可愛らしかった、と直樹はつい感じてしまった。


第一話、完結です。やはり文章力がなぁ、と思ってしまったり。こればかりは書いて覚えるしかなさそうですね。あとは他の方のいいところを参考にしていくなど。


キャラに関してですが、つかみにくいところがあるかと思います。今後もっと掘り下げていく予定なので気長に待っていただけたらと思います。


第二話はいつになるかなぁ……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ