夜闇の訪問
セレナ王女の政策は着実に進んでいた。彼女の意志と行動力は、皇帝の思惑を恐れないという点で、ケイオスにも深い感銘を与えていた。しかし、そんなある日、セレナの城に暗い影が忍び寄った。
夜の静寂を切り裂くように、衛兵が鳴らす警鐘が響く。ケイオスは素早く剣を手に取り、王女の部屋へ駆けつけた。扉を開けた瞬間、そこには既に一人のフードを被った女性が立っていた。全身を黒いローブで包み、その目には冷たい光が宿っている。
「何者だ!」
ケイオスが剣を構えながら叫ぶ。
「待ってください。話を聞いてください」
セレナ声は低く穏やかだったが、そこに宿る緊張感は否定できなかった。
しかし、彼女は冷静だった。彼女は衛兵を手で制し、女性に向かって一歩踏み出す。
「あなたは何を求めてここに来たのですか?」
女性はゆっくりとフードを取り、その顔を露わにした。美しくも凛々しい顔立ち。だが、その目は長い憎しみを宿している。
「私はシュミ。かつて帝国によって滅ぼされたネオ・ヒューマンの生き残りです」
彼女——シュミの言葉は部屋の空気を凍らせた。
ケイオスは驚きと警戒の目を向ける。
「ネオ・ヒューマン...それが本当なら、なぜここに現れた?」
シュミは彼に視線を向け、冷ややかに笑う。
「あなたが私を斬ろうとする理由は分かります。ですが、騎士ともあろう貴方が私の話を聞かないのですか?」
セレナは手でケイオスを制した。
「私が話を聞きましょう。貴方が何を求めているのかを知る必要があります」
シュミは城内に通され、一息つくと静かに語り始めた。
「私は復讐のために生きてきました。紅龍連邦を操り、帝国に戦争を仕掛けたのもその一環です。しかし、戦争だけでは何も変わらないことを知りました。だからこそ、セレナ王女、あなたの政策に協力したいのです」
ケイオスは剣を下ろさず、鋭い目で彼女を見据える。
「その言葉を信じろと?紅龍連邦との戦争で何千もの命が奪われている。その事実をどう説明する?」
シュミは目を閉じ、小さく息を吐く。
「それが私の復讐だった。しかし、今は正規の方法で帝国を変えたいと思う。腐敗の根を絶てるなら、それに越したことはない」
セレナは真剣な表情で彼女を見つめる。
「私の政策を支持するという訳ですか?」
「ええ。あなたが本気で帝国を変えるつもりなら、私の力を貸します。ただし、私が紅龍連邦と繋がっていることは隠しません。そのことが不安なら、私を殺しても構わない」
部屋に張り詰めた沈黙が訪れる。ケイオスは剣を下ろし、セレナに目を向ける。
「どうしますか、王女殿下?」
セレナは一瞬目を閉じ、答えを探すかのように考え込んだ。そして、静かに口を開く。
「協力を受け入れます。ただし、私の理想に背くような行動を取れば、その時は容赦しません」
シュミは微笑む。
「それで構いません。私がここにいる理由は、それだけですから」
ケイオスは未だに完全には信用していない様子だったが、セレナの決断を尊重することにした。彼女の信念と理想が、ケイオス自身の心にも影響を与えていることを彼は感じていたからだ。
夜が明ける頃には、シュミはセレナの政策の支持者として名乗りを上げることになった。しかし、彼女の目的が本当に正義のためなのか、それとも復讐の延長線上にあるのかは、誰にも分からない。