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王女の政策と迫りくる脅威

巨大飛行戦艦アークスフィアの格納庫で、ケイオスとアンジェリカは別れの時を迎えていた。鋼鉄の壁に反響する作業音やエンジンの低い唸りが、緊張感を漂わせる中、アンジェリカはその冷たい紫の瞳でケイオスを見上げた。


「これで一旦お別れね」

「アンジェリカ様、僕の部隊をどうかよろしくお願いします」


アンジェリカは口元に微かな笑みを浮かべ、大鎌の柄を軽く肩に担ぎながら答える。


「最強の私がいるんだもの、心配しなくていいわ。でも……いつ何が起こるか分からないのが戦場よね。だから、ケイ君も気をつけて。」


ケイオスは頷き、少し硬い表情で言葉を返した。


「はい、そちらも幸運を祈っています」


アンジェリカは軽く手を振りながら去って行き、彼女の背中を見送りながら、ケイオスは彼女の無事を願わずにはいられなかった。

部隊の兵士たちはケイオスと別れを惜しむように、親しげなやり取りを交わしアンジェリカの後に続いていく。


「アンジェリカ様、次の戦場でもどうか隊長の分も派手にやってくださいよ!」

「うるさいわね、あんたたちのために戦うんじゃないわ。自分のためよ!」


と、アンジェリカは笑いながら応え、格納庫に一瞬、和やかな空気が広がった。


その後、ケイオスはセレナ王女の護衛任務に就くため、帝国の首都へ向かった。


首都セイラムは、空中を行き交う無数の飛行艇と高層タワーが織りなす近未来的な景観が広がっていた。地表には帝国の歴史を感じさせる重厚な石造りの建物が点在し、中世の美学と先進技術が共存する街並みが印象的だった。


セレナの居城は、この都市の中心部にそびえる巨大な白亜の宮殿で、彫刻や装飾が施されたアーチと光沢のある金属の柱が目を引く。城内は豪奢なシャンデリアとモザイクの天井画が訪れる者を圧倒し、周囲には控えの侍女や従者たちが忙しく動いていた。


セレナは、ケイオスを迎え入れると、自らの政策について静かに語り始めた。


「帝国の現在の構造は、貴族たちが富を独占し、民衆が搾取され続けています。このままでは持続不可能な状況です。私は新たな農地改革と教育制度を導入し、全ての民に公平な機会を提供したいのです」


セレナが推し進めようとしている政策、それは「平等法案」と呼ばれるものだった。現在の帝国は厳格な身分制度の上に成り立っており、貴族たちは圧倒的な権力を握り、平民たちは搾取される側だった。セレナの政策は、この身分制度を緩和し、平民にも一定の権利と地位を与えるというものだった。しかし、それは貴族たちの既得権益を脅かすものであり、帝国全体を揺るがす危険性を孕んでいた。


その言葉にケイオスは目を見開く。


「しかし、それは現体制の利益を脅かします。貴族たちが黙っているとは思えません」

「ええ、だからこそ貴方が必要なのです」


セレナは真剣な眼差しでケイオスを見つめた。


「貴方の剣と忠誠があれば、私はこの帝国を変える一歩を踏み出せる」


その後の日々、ケイオスはセレナの側近として、彼女を守ることに全力を注いだ。ある日、セレナの提案に反発した貴族の一団が暗殺者を送り込んできた。城の廊下で繰り広げられる激しい戦闘の中、ケイオスはセレナの背後に立ちはだかり、巧みな剣技で敵を退けた。


「ありがとうございます、ケイオス卿」セレナは胸に手を当てて礼を述べた。


「当然のことです」


セレナの侍女たちも彼女を心配しながら近づき、「姫様、大丈夫ですか?」と声をかけた。セレナは微笑みながら、「大丈夫よ、皆もケイオス卿を信じて」と応じる。


その後、ケイオスは彼女の政策を実現するための具体案を練る手助けをし、彼らの信頼関係は徐々に深まっていった。やがて二人の間には、言葉では表しきれない絆が芽生え始めていた。


護衛としての日々が始まると、二人の距離は徐々に縮まっていった。ケイオスは常に冷静でありながらも、時折見せる優しさがセレナを安心させた。一方、セレナはその純粋な情熱でケイオスに新たな視点を与えた。


ある日、セレナが庭園で一人、書類に目を通していると、ケイオスが近づいた。


「少し休まれてはどうですか?王女様」

「ケイオス卿、私はやるべきことが山積みです。それに、あなたを護衛に付き合わせているのですから、私が休んでいる場合ではありません」

「護衛は仕事の一環です。無理をすれば判断を誤ります」


その真摯な言葉に、セレナは微笑みを浮かべた。


「あなたはとても誠実ですね」

「それが仕事ですから」


二人の間に流れる静かな時間。その中で、ケイオスは彼女の持つ不思議な魅力に気づき始めていた。セレナの笑顔には、戦場で味わう緊張とは違う、心を温める力があった。


時間が経つにつれ、二人は政策の実現に向けて協力するようになった。セレナは貴族たちの支持を得るために様々な交渉を行い、ケイオスはその護衛だけでなく、必要に応じて助言を行った。


ある夜、二人は城の高台で星空を見上げていた。


「ケイオス卿、あなたがこうして私の傍にいてくれること、本当に感謝しています」

「私はただ命令に従っているだけです」

「それでも、あなたは私を守ってくれています。私にはそれがどれほど大きな支えになっているか……」


セレナの瞳には涙が浮かんでいた。その光景にケイオスの胸が締め付けられるようだった。


「王女様、私は……あなたが正しいと信じています。だからこそ、私はあなたの力になりたい」


その言葉に、セレナは驚きと喜びを同時に感じた。そして、彼女はそっと彼の手に触れた。


「ありがとう、ケイオス卿」


星空の下、二人はただ黙って立ち尽くしていた。言葉にならない感情が互いの胸に広がり、確かな絆が生まれつつあった。


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