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血と炎の空

青空を引き裂く轟音の中、巨大飛行戦艦アークスフィアが浮かぶ。鋼鉄の巨躯はまるで空を支配する神のごとき威容を誇り、その艦影が地表を覆うと、全ての光が薄暗くなるかのようだった。艦体を囲む無数の自動砲台が敵機を正確に狙い撃ち、レーザーの閃光が空中を交錯している。


その内部、戦闘ブリーフィングが終わった直後の艦橋では、黒髪を無造作に束ねた一人の少女が、紫の冷たい瞳で戦況を眺めていた。アンジェリカ・フォールン、セイラム・ドミナス帝国の最強と謳われる騎士であり、《オブシディアンレギオン》の切り札。その儚げな美貌とは裏腹に、彼女の背には身の丈を超える巨大な大鎌が鈍い電流を帯びて煌めいている。


「ケイ君、準備はできた?」


彼女は隣に立つ男に声をかける。ケイオス。波打つ茶色の長髪を後ろに流し、鍛え抜かれた体を黒い騎士鎧に包む姿は、まさに帝国の象徴。腰に佩いたロングソードの刃には、電流が静かに走り、その輝きが見る者の目を引きつける。


「もちろんです。これ以上、紅龍連邦の侵攻を許すわけにはいかない」


彼の声は低く落ち着いており、敵に対する決意が込められていた。周囲に控える《オブシディアンレギオン》の騎士たちも、尊敬の念を込めて彼を見つめる。


「ケイ様、私たちも直ちに出撃準備を整えます」


若い部下の一人が礼儀正しく告げる。その声には緊張感が混じりつつも、ケイオスへの信頼がにじみ出ていた。


《アークスフィア》から降下した騎士団は、紅龍連邦の前線基地へと向かう。地表には、近未来的な鋼鉄の都市が広がり、その廃墟と化した建物の間を赤いレーザーが飛び交う。帝国の最新鋭の歩兵たちは、全身を覆う黒い動力甲冑を身に纏い、内蔵型エネルギーシールドが攻撃を防ぐ。彼らの腕にはプラズマライフルが装備され、一発ごとに強烈な光を放つ。


「敵の防衛ラインまであと300メートル!遮蔽物を利用しつつ前進!」


ケイオスの指示が無線で響く。彼の冷静な指揮の下、部下たちは迅速に動き、敵の砲撃を回避しながら陣形を整える。空中では《アークスフィア》の護衛機が紅龍連邦の戦闘機と激しい空戦を繰り広げている。


その時、戦場を震わせるような衝撃音が響いた。紅龍連邦の戦闘ロボットが次々と地表に降り立つ。鋼鉄の巨人たちは両腕に備えられたレーザーキャノンを放ち、帝国軍の隊列を崩そうとする。


「行くわよ、ケイ君!」


アンジェリカが大鎌を握り直し、地面を蹴った。圧倒的な速度で接近した彼女は、大鎌を一閃させる。その刃に宿る電流が敵ロボットの装甲を容易く貫き、巨大な機械の体が爆発を起こして崩れ落ちる。


「アンジェリカ、貴方が突っ込むと俺たちが追いつけなくなる。」


ケイオスが苦笑しながらロングソードを構え、彼女の後を追う。彼の剣もまた敵の兵士たちを次々と切り裂き、圧倒的な戦闘力を見せつけた。


ケイオスが紅龍連邦の要塞内部に踏み込んだ瞬間、空気が変わった。腐臭の漂う暗い空間に一人の女性が立っていた。彼女の全身からほのかに発光するオーラが立ち上がり、目は冷たく鋭い光を放っている。長い銀髪がゆらゆらと揺れ、宙に浮かぶその姿は人ならざるものを示唆していた。


「帝国の犬がここまで入り込むとは驚きだわ」


謎の女が低い声で呟くや否や、空間が揺らぎ、無数の青白い光の槍が宙に現れた。それらがケイオスに向かって一斉に放たれる。


「っ……!」


ケイオスは咄嗟に身体をひねり、攻撃をかわしながら電流を帯びたロングソードを振るう。閃光とともに迫る槍を切り裂くも、彼女の攻撃は止むことなく続く。その力強さと精密さにケイオスの額に冷や汗が滲む。


「貴様、一体何者だ!」


問いかけるケイオスに、女は不敵に微笑むだけで答えない。そして手を掲げると、床から異形の蔦のようなものが湧き出し、ケイオスを絡め取ろうと襲いかかる。だが、その瞬間。


「ケイ君!」


アンジェリカの叫び声とともに巨大な大鎌が振り下ろされ、蔦を一刀両断にする。その勢いに乗じてアンジェリカが女へと迫り、激しい斬撃を繰り出す。だが女はその謎の超能力を駆使してこれを軽々と受け流し、笑みを深めた。


「その大鎌、貴方が例の……」


戦いは激しさを増すも、女は突如攻撃をやめ、宙に浮いたまま後方へと下がった。「今日のところは引いてあげる。けれど、次に会う時は容赦しないわ」そう言い残し、彼女は姿を消した。


要塞から戻ったケイオスとアンジェリカは、謎の女が示した能力について議論を交わした。彼女の力――物質を自在に操る力や、人知を超えた反応速度はかつて記録でしか見たことのないネオ・ヒューマンの特徴に酷似していた。


「でも、ネオ・ヒューマンは帝国建国時に滅ぼされたはずよ」


アンジェリカが不信そうに呟く。しかし、ケイオスは冷静に言い返す。


「もし生き残りがいるとしたら、それが紅龍連邦を裏から操っている可能性も考えられる」


二人はその足で騎士評議会へと向かい、今回の出来事を報告した。


評議会のホールは、ゴシック建築を思わせる高い天井と壮麗なステンドグラスで飾られ、重厚感と威厳に満ちている。評議会の中央に立つケイオスが一部始終を説明すると、評議員たちの間にざわめきが広がった。


「ネオ・ヒューマンだと? 馬鹿な! 彼らは滅びたはずではないか!」


ある老騎士が声を荒げる。だが、アンジェリカが冷たい目で言葉を放つ。


「私がこの目で見たのよ。それでも疑うの?」


最強の称号を持つ彼女の一言に場が静まり返る。それでも、評議会は即断を避け、事態の更なる調査を行うことを決定するに留まった。


評議会の議論が終わり、ケイオスとアンジェリカが退出しようとしたその時、優雅な足取りで一人の女性が入室してきた。豪奢なドレスをまといながらも、その瞳には鋭い決意が宿っている。セレナ王女だった。


「ご無礼をお許しください、評議員殿方。そしてケイオス卿」


セレナは深く頭を下げると、真剣な眼差しで彼らを見回した。


「私は護衛の騎士を求めています。帝国の現状を考えると、最も信頼のおける貴方にお願いしたいのです」


彼女の言葉にケイオスは目を細めた。


「王女殿下、私が選ばれた理由を伺っても?」

「貴方は、戦場で何度も民を救い、冷静な判断を下してきたと聞いております。それに……アンジェリカが推薦してくれたのです」


アンジェリカが横で肩をすくめ、苦笑する。


「ま、せいぜい頑張って~」


こうして、ケイオスはセレナの護衛役を引き受けることとなる――。


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