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若き騎士の野心と帝国の闇

遠く、低い轟音が地平線を震わせる。セイラム・ドミナス帝国が誇る巨大飛行戦艦アークスフィアが、乾いた大地を覆う影を落としていた。その甲板では、兵士たちが次々と兵器を積み込んでいる。光を反射する鋼の銃器、鋭利な刃物、そして帝国の技術力の結晶たるナノテクノロジー装備が整然と並んでいた。


若き騎士——ケイオス・ヴァルト。肩まで届くウェーブのかかった茶髪と鋭い瞳を持つ美しい青年で、鋼の鎧の上に羽織った黒いマントが風になびいている。彼はその光景を冷静に、しかし心の内には燃え上がる野心を秘めながら見つめていた。


「目指すは、最強のみ——」


ケイオスの心に、己が掲げた信念の言葉が浮かぶ。


ケイオスが属する騎士団オブシディアンレギオンは、セイラム・ドミナス帝国が誇る精鋭中の精鋭で構成された騎士団だ。ただの兵士ではない。彼らは古典的な騎士道精神と現代の軍人技術を併せ持ち、帝国の覇権を支える重要な戦力だった。


その中でも特異な存在が一人——。


「やっほー、ケイ君」


鈍い金属音とともに、身の丈を超える大鎌を引きずる少女がケイオスに近づいてきた。

アンジェリカ・フォールン。黒髪を無造作に束ね、透き通るような白い肌と冷たい紫の瞳を持つ少女。外見は儚げであるにもかかわらず、彼女こそが《オブシディアンレギオン》の最強戦士だった。


「アンジェリカ様……」


ケイオスは姿勢を正し、わずかに緊張した様子で敬意を示した。


「共に戦えることを光栄に思います」


アンジェリカは首を傾げるようにして微笑む。その表情には興味のなさと、どこか狂気じみた好奇心が入り混じっていた。


「うん、そう? でも、気をつけて。私の戦いに水を差すようなことはしないでねぇ」


アンジェリカはニヒルな笑みを浮かべながら、ケイオスの背後をゆっくりと歩き回る。


「命のやり取りは素晴らしいわ。ねぇ、ケイ君。あなたもそう思わない?」

「……ええ」


ケイオスは答えながら、彼女の異様な雰囲気にわずかに怯みつつも、その圧倒的な力への羨望を隠せなかった。アンジェリカは彼とさほど年齢が変わらないように見える。それなのに、彼女の力は圧倒的で、戦闘狂として恐れられる一方で、帝国全土の英雄として崇拝されていた。


彼の背後に再びアンジェリカの声が響く。


「ねぇ、ケイオス君。怖い?」


彼女の声は不気味なほど楽しげだった。


「……怖い?俺が、ですか?」

「だって、これから命を奪い合うのよ。それって……普通の人間なら怖いんでしょ?」


ケイオスはアンジェリカの紫の瞳を見つめた。そこには、彼が持つ騎士道精神とは相容れない何かが宿っているように思えた。


「俺には恐れる暇なんてありません。俺は——」

「最強になりたい、でしょ?」


アンジェリカは彼の言葉を遮るように言い、鎌を甲板に突き立てる。その音が夜空に響いた。


「なら、全力で生きなさい。全力で戦いなさい。そして、全力で壊しなさい。」


アンジェリカの狂気じみた言葉に、ケイオスは言葉を失う。


翌朝、大型飛行戦艦アークスフィアが紅龍連邦の前線に到着する。黒煙が立ち上る荒野の中、帝国の騎士たちが続々と降り立つ。

ケイオスもまたその一人だった。戦場に立つ彼の瞳には迷いがない。だが胸の奥底で、何かがざわめいているのを感じていた。それが、野心という名の呪いだとも気づかずに——。

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