表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ジジィ無双~最弱キャラであるジジィに転生したが、転生特典で無双する~

作者: 軌黒鍵々

「大変申し訳ございません!!」


 頭に響く重々しい謝罪の声。それを聞きながら、ぼんやりと目を開けると、視界は漆黒から一転して真っ白に染まっていた。どこを見ても壁も天井も見当たらない、ただの白い空間。そんな中、目の前には三人の女性がこちらに向かって深々と頭を下げている。


「あのー、何がなんだか……さっぱりですけど、とりあえず頭を上げてください。」


 目をこすりながら思わず口を開いた。状況が全く理解できない。いや、パニックに陥るほどではないにせよ、普通の感覚ではこの状況を説明できる言葉が見つからない。


 きっと、これは夢だ。そう結論づけるのが妥当だろう。


 そんなことを考えているうちに、三人の女性が一斉に頭を上げた。そして、真ん中に立つ金髪の背が高い女性が一歩前に出ると、申し訳なさそうに口を開いた。


「私たちは女神。生と死を司る存在なのですが、実は……その……少々不慣れな部分がございまして……」


 彼女が途切れたところで、左側に立っていた女性が話を引き継ぐように言葉を続けた。


「実は、私たちのミスで、間違ってあなたを死者としてここに召喚してしまったのです。本当に、本当に申し訳ございません!」


 一番右の女性が深々と再び頭を下げると、それに合わせるように他の二人もペコリと頭を垂れる。


 ……なるほど、そういうことらしい。状況がようやく把握できた。いや、信じがたい話ではあるが、俺は死んだ。この三人の神妙な態度からすると冗談で済ませる雰囲気ではなさそうだ。


 それにしても、女神か……。なるほど超絶美人揃いなわけだ。


「で、俺はどうなるんですか? 生き返るとか、そういう方法は?」


 つい軽い口調で尋ねてしまった。まあ、こんなに深刻そうな空気である以上、生き返れる可能性はほぼゼロだろうと察してはいたが。


 予想通り、真ん中の金髪の女神は申し訳なさそうに小さく首を横に振る。


「一度召喚してしまった魂は、原則として元の世界に戻すことは不可能なのです……」


「そっか。まあ、人間誰しもミスはあるし、俺もそこまで未練があるわけじゃないけど……でも、これはちょっと大きすぎるミスだよな。」


 そう言いながら、少し説教めいた口調になってしまうのを自覚したが、こればかりは仕方ない。だが自分でも驚くほど冷静でいることに気づく。


「で、俺はどうなるの?」


「はい。異世界に転生していただく形になります。」


「転生……?」


 なんだかラノベで聞いたことがあるような単語だな、と思わず口元が緩む。


「同じ人生を最初からやり直す、もしくは別の世界で新たに人生を始めるという選択肢があります。どちらをご希望でしょうか?」


「いやいや、異世界転生が可能なら、それでお願いしたい。」


 即答する俺を見て、三人の女神たちはほっとしたような表情を浮かべた。


「では、早速転生の準備を進めさせていただきますね!」


「ちょっと待て!心の準備とか諸々……まだ――」


 俺の言葉が終わる前に、辺りに薄青い光が広がり、ウィンという電子音のようなものが耳をつんざく。


 うん。 ……嫌な予感しかしない。


 その瞬間、まるで体が引き裂かれるような感覚に包まれ、息を呑んだ。身体が浮き上がり、何かに引き寄せられるような、異次元に引き込まれていく感覚。それはまるで、無限のトンネルを落ちていくような、圧倒的な速度で押し寄せてくる重力に押しつぶされそうな感覚だった。


 目を閉じる暇もなく、まるで何かが自分の中に突き刺さるような痛みが走った。


「うぅ……」


 思わず声を上げるが、呼吸すらしづらくなる。まるで体が解けていくような、何かが剥がれ落ちていく感覚だ。


 それでも、異世界に転生するためだと思い直し、何とか冷静さを保とうとした。だが、その意識の片隅で、ひとつの疑問が浮かんできた。


 転生するって、こんなに……痛いもんなのか


 頭をよぎったその思いも、すぐに次第に消え、意識が薄れていく。


 ――その後、気づけば、どこかの世界にいる自分がいた。


 目を開けると、広い部屋の中に横たわっている自分がいた。天井の隅には小さな窓があり、淡い光が差し込んでいる。肌に感じる空気はひんやりと冷たく、まるでこの場所が山間の一軒家の中にいるかのような感じだった。


 「……ここは?」


 ふと、声が漏れ出る。体を動かしてみようとしたが、なぜか動きが鈍い。力を込めて、なんとか起き上がろうとするが、ひどく疲れているような感覚が残る。


 「あれ……?」


 目の前の手を見て驚いた。自分の手が、あまりにも細くて、皮膚がシワだらけで、なんだか異様に老けて見える。それだけではない。顔を触ると、あちこちにたるみが感じられ、鏡で確認しようと部屋の隅にあった反射面を覗き込んだ。


 ――そこには、明らかに老人の顔が映っていた。


 「……う、嘘だろ?」


 驚きのあまり、手が震える。頬を叩いてみたり、目をこすったりしてみるが、何も変わらない。


 俺はジジィに転生してしまったらしい...。


 なぜ、イケメン(自称)の俺がこんなヨボヨボ爺さんになってしまったんだ...。いや、もう考えても仕方ないか。とりあえず現実を受け入れようと思ったその時、ふと目の前に何かが落ちてきた。


 それは紙のようだった。驚きながらも手に取って広げてみると、そこには信じられないような内容が書かれていた。


 「転生の際、再び不手際が生じ、あなたが意図せずして老人の姿に転生してしまいました。本当に申し訳ありません。」


 ――何!? またもや女神たちのミスかよ!


 その文面を読んだ瞬間、頭が真っ白になった。転生する際の手違いだっていうなら、なんでこんなことになるんだよ…。だが、文の下の方に、さらに信じられない内容が続いていた。


 「その代償として、あなたには『全知全能の杖』を授けます。この杖は、あなたが望む力を与えるものであり、持ち主に無限の力をもたらします。どうか、その力で新たな人生を歩んでください。」


 全知全能の杖…? なんだそれ。逆に不安になるような言葉だ。だが、今更後悔しても仕方ない。老体のまま生きていくには、この杖の力が必要かもしれないしな…。


 とりあえず受け取ってみるか。


 紙に書かれた言葉通りに、ふと気が付くと目の前に長く細い杖が宙に浮かんでいた。その杖はまるで生きているように、薄い金色の光を放ちながら微かに震えている。柄には複雑な文様が彫られ、先端には透明な宝石のようなものが輝いていた。


「これが……全知全能の杖?」


 そう呟きながら手を伸ばすと、杖が自らの意思で俺の手元に滑り込んできた。触れた瞬間、全身に温かい力が流れ込む感覚がした。


「おお……これは、すごいな」


 その力は、ヨボヨボの老体でもすぐに分かるほど圧倒的だった。


「全知全能ってことは……何でもできるってことだよな?」


 まずは手始めに、自分の体をどうにかできないか試してみることにした。


「ええっと……若返らせてくれ!」


杖を掲げて願うと、先端の宝石が輝き始めた。すると、次の瞬間――。


ジジィのままだった。


いや、ジジィは治んないのかよ!! 思わず自分でツッコんでしまった。


 杖を握りしめたまま、俺はしばらく呆然としていた。いや、全知全能の杖って言ってたよな? 望む力を与えるって書いてあったよな!?


「おいおい、どうなってんだよ! 俺のこのヨボヨボボディを何とかしてくれるんじゃないのか!?」


 杖を振り回しながら叫んでみたが、何の反応もない。杖の先端が微妙に光った気がしたが、それもすぐに消えてしまった。


「もしもし! 女神たちー! 不手際とか言うなら、もうちょっと仕事してくれよ!」


 もちろん返事なんてあるわけがない。俺は仕方なく肩を落とし、杖を床に突き刺すようにして立ち上がった。その姿勢が、なんとも情けない。


「ふん、全知全能とか言っといて、こんなの詐欺じゃねーかよ……」


 その時、杖の先端がまたもや微かに光り、今度はかすれたような声が聞こえた。


「…………願いが漠然としすぎています……」


「は?」


 俺は慌てて周りを見回したが、誰もいない。声はどうやら杖の中から聞こえてくるらしい。


「あなたの願いは『若返らせてくれ』というもの。だが、それではどの年齢に戻すのか、具体的な体型や健康状態などが不明瞭。ゆえに効果が発揮されなんだ」


「……細かすぎだろ!」


 どうやら、この杖には願いの内容を具体的に伝えないといけないらしい。なんて面倒な全知全能だ……。


 俺は文句を言いつつも、杖を握り直した。確かにこの杖が喋る通り、具体的に願いを伝えないとダメらしい。とりあえず今のところは若返り計画は後回しだ。まずはスキルというやつを試してみるか。


「スキルねぇ……この杖、スキルを作るとかもできるのか?」


 杖を掲げて試しに願ってみる。


「俺に役立つスキルを適当にくれ!」


――杖の先端が微かに光り、静かな声が響く。


「適当なスキルは作れません。必要な能力を明確にしてください」


「また細かいこと言いやがって……」


 仕方なく、頭をひねって考える。とりあえず冒険者らしく何か基本的なものがいいだろう。


「よし、じゃあ『鑑定スキル』だ。周りの物とか人とかの情報を見られるようにしてくれ!」


 杖が明るく輝き、俺の手の中で軽く震えた。


「スキル『鑑定』を付与しました」


 その言葉と共に、頭の中に何かが刻み込まれる感覚がした。なるほど、これがスキルってやつか。


「よし、早速試してみるか!」


 しばらく歩くと、砂利道の先に小さな街が見えてきた。城壁で囲まれていて、門の近くには数人の兵士がいる。ファンタジーの世界っぽさ全開だ。


「おっ、早速鑑定スキルの出番か?」


 俺は門番らしき兵士に目を向け、心の中で「鑑定!」と念じた。すると――。


【門番A】

職業:兵士

レベル:12

スキル:剣術初級、防衛術初級


「おおっ、本当に情報が見える!」


 つい感動して声を上げたが、門番たちは俺を怪訝そうに見ただけで何も言わなかった。どうやら「鑑定」は目立たないスキルらしい。


 門を通り抜け、街の中に足を踏み入れると、そこには活気ある市場が広がっていた。店が立ち並び、人々が賑やかに声を張り上げている。


「へぇ、なかなか賑やかだな」


 ふと目についた果物屋の台に並ぶ果物に「鑑定」を使ってみる。


【赤い果実】

効果:疲労回復(小)

説明:この世界では一般的な果物。甘味と酸味が特徴で、食べると少しだけ疲れが取れる。


「なるほどな、食べ物の効果まで分かるのか。便利じゃねぇか!」


 スキルの力を楽しみながら街を歩いていると、突然目の前を走り抜ける人影が見えた。少年だ。ボロボロの服をまとい、小さな袋を抱えて必死に逃げている。その後ろからは、怒りの形相を浮かべた店主らしき男が大声で叫びながら追いかけてきた。


「この泥棒ガキ! 俺の金を返せ!」


 人々がざわつきながらも、誰も手を出せずにその場を見ているだけだ。少年は人混みを巧みにすり抜け、必死に逃げ続けている。


「……おいおい、街に入った途端これかよ」


 俺はため息をつきながらも、杖を握りしめた。このまま放っておくわけにはいかないだろう。


「さて、全知全能の杖さんよ。早速働いてもらうぜ」


 少年の後を追いかけながら、俺は杖を構えた。ここで何かが始まりそうな予感がしてならない――。


「さて、まずはこのスキルの実力を試させてもらうか」

俺は杖を片手に少年に「鑑定スキル」を発動した。


【名前:リオ】

【年齢:13歳】

【職業:スリ】

【スキル:逃走術初級、隠密初級】

【所持品:小袋(中身:銀貨5枚)】


「ほう、逃走術と隠密スキル持ちか。そりゃあ捕まえにくいわけだな」


 しかし、情報が見えるとなれば話は別だ。逃走術があろうと、足跡や動きのパターンが分かるようになれば追いつくのは時間の問題だ。


 少年は人混みを巧みにすり抜けているが、俺は鑑定スキルでその一歩先を読める。次の一手を予測し、少しずつ距離を詰めていく。


「よし、あの路地に逃げ込むな――そこだ!」


 俺は角を曲がりざま、杖を掲げた。


「動きを封じる術!」


 杖の先端が光り、少年の足元に光の輪が広がった。輪は少年の動きを一瞬で止め、彼はバランスを崩して地面に転がり込む。


「いってぇ……!」


 少年は悔しそうな顔をしながら振り向いた。


「くそっ、あんた何者だよ!」


「ただのジジィだ。さて、返すものがあるだろう?」


 俺は冷静に少年を見下ろし、逃げられないことを確認した。


 その場に店主らしき男が息を切らしながら追いついてきた。


「おおっ! この泥棒め、よく捕まえてくれたな!」


 店主は少年の持っていた小袋を取り返し、中身を確認すると安心したように頷いた。


「ありがとうよ。こいつの処分は俺たちに任せてくれ」


「まあ、そうしたいところだけど……少し話をさせてもらうよ」


 俺は少年に視線を向けた。


「おい、リオ。お前、なんでこんなことをした?」


「……お金が必要だったんだよ!」


 少年は俯きながら答えた。話を聞けば、病気の妹がいるらしく、どうしても薬代が足りなかったらしい。


「ふむ……お前の事情は分かった。けど、次からは盗みなんかせずに頼れ。誰かしら助けてくれる人はいるだろう」


 そう言って、俺は杖を掲げ、銀貨を数枚生成した。


「これを使え。正しい方法で薬を買うんだ。それと……次はスリなんてしてみろ、その時は覚悟しろよ」


 リオは驚いたように顔を上げ、泣きそうな声で礼を言った。


「ありがとう……! 本当にありがとう!」


事件が解決し、ほっとしていると、どこからか声をかけられた。


「お主、あの鑑定スキルはどうやって手に入れたんだ?」


振り向くと、そこには威厳のある鎧をまとった騎士の姿があった。


「え? ただのスキルだが……何か問題でも?」


俺が答えると、騎士は驚愕した顔で続けた。


「問題どころか……鑑定スキルは伝説級だぞ。普通の冒険者どころか、王国でも滅多に持つ者がいない。お主、ただ者ではないな」


「伝説級……だと?」


思わず自分の杖に目を向ける。全知全能の杖の力とはいえ、まさかそんな大層なスキルだったとは――。


「なるほどな、どうりで便利なわけだ」


これを機に、俺がこの世界で注目されるのは避けられないだろう。だが、それも仕方ない。伝説のスキル持ちなら、それに見合う活躍をしてやるまでだ...。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ