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勝敗は戦う前から。

 まず動いたのは兜虫の王だった、少女の両拳が地に着くその瞬間!

ブンッ!素早く背中の羽根を拡げ風を打っつ。


(少女が自分に勝る可能性がある物、それは素早さだろう)

 軽い身体と柔軟な足腰が武器、間合を掻き乱し、隙を狙う小兵の戦法と虫の王は予想。

 それに対する王の戦いは一つ、圧倒的な力と速度での押し出し!


 1㌧以上もある巨体が風を切り、強い羽音を立てて直進する!その加速は数秒とかからず2人の間合を掻き消し、太く強靱な角が少女の身体を貫いた!


・・・・!!???

 分厚い衝撃、(重く鈍い反動がこの王の身体を押し止めている??)


 敵は細くか弱い身体、角があたれば肉は裂け身体は吹き飛ぶ。

 上手く避けた所で空を飛ぶ自分は何度も体当たりを繰り返すだけ、虫の王はそう考えていた。


(だが今、自分はどうなっている?地に伏せられている?なぜ?)


「オレを相手に、初手で押し出しは舐めすぎだろ」嫌いじゃ無いけどな。

 突っ込んで来た巨大兜虫を両腕で抱えて押える少女は笑う。


 突進する力に対し斜め上から押え付け、エネルギーが進む方向を下に変えた。

 身体を使い押さえ込み、左足を下げて体勢を更に下げてタックルを切る。


 ユウヒ・元勇者が好きな相撲に押し出しと上手投げがある。

 力と質量で相手を押し出すパワーの相撲だ。

 綱を掴み相手を放り投げる上手投げ、こちらもパワー相撲。


 いま少女の両腕は兜虫の首を締め、腰を落として相手の動きを押え待っていた。

 我慢出来ず兜が角を上げたら、その力を使って投げ飛ばすつもりだ。


『!ぐっ!』

 頭を押えられ強い力が首を挟む、その力と技に虫の王は自らの失敗を自覚する。


(こっ!この力!この技!まさか!この敵は!)


 身体に刻まれた強敵達との闘い。

 鋭い毒針を持つ敵もいた。

 外骨格を噛み砕く牙を持つ敵もいた。


 そして目の前の少女から感じた物は、自分と同等の力を持ち何度も樹液を取り合った強敵!

 巨大な顎を持つ兜虫の宿敵!

[ヒラタ大クワガタ]!


 森の王者であるカブトムシの自分と対を為す者!

 森の大将軍、ヒラタ大クワガタ!

『コヤツ!クワガタだったのか!』オレが見た目に欺されたのか?!??


 両方から身体を締め付ける力に驚愕する、ヒラタ大クワガタには無かった二つの細い力にまだ見ぬ強敵、ミヤマクワガタの姿を想像する。

 

(ヤツらの戦い方は、相手を両方から挟んで持ち上げる技!

 ここで下手に角を上げるのは悪手、頭を下げさせられたのは気分が悪いが!)


 身体を低く、樹に爪を立てたカブトムシを投げられる者など皆無!

 力と体力と体重の全てに虫キングに軍配が上がる。

 甲虫王は自分を押し付ける力を睨み付け、その力の揺らぎ・隙を狙う。


 一方その頃、堅い首を締め付けるアルシアもまた、兜の重心が地の伏せた守りの型に変わった事で思考を変える。


(ガプリ四つってヤツか、おもしれぇ!だがこの身体じゃ、ちと不利か)

 

 元勇者の力、力の残り香、異星の悪神を倒した男の力、神の力で封印はされているがその力を使えば赤ん坊の姿でも世界を瓦礫の塊に変える事が出来る。 


(神の封印は解く事が出来る。

 ただ1度封印を解いてしまえば、完全に勇者の力を取り戻す事になる・・・か)

 力に振り回されて面倒事が向こうからやって来る、せっかく転生して辞めて逃げた勇者の宿命ってヤツが追いかけて来る、それは嫌だ・凄く嫌だ。

 

 なにが楽しくて、人生の全部を暴力と戦争と殺し合いに捧げんといかんのだ!

 イヤ過ぎる、痛いし辛いし恨まれるし、夜もまともに眠れ無い、飯も落ち着いて喰えない、殺伐とした修羅の世界で、生きる為に殺し世界の為に戦い続ける、そんな勇者人生アホらし過ぎる。


 神様に願って1度死んで転生してまで普通の人間になったんだ、勇者なんかに戻って堪るか!


「って事で」呼吸と気合でなんとかするぞ!

 普通に息を止め、溜めた力で勢い着けて押す!

 押して押して押し返す!

「うりゃぁぁぁぁ!!!」

『?!?!?!』兜虫の王に衝撃が走った!  

 

 恐るべき相手はクワガタの戦法を使ったと思えば、次ぎの瞬間には自分を押して来たのだ。

 自分より遥かに小さく軽いはずの敵が、森の王である自分を押し返そうと力を込めている。

 その戦い方をする生き物は森では1種類しかいない、そう兜虫!兜虫の戦術だ!


 クワガタ!そして兜虫!次々と戦術を変える恐るべき敵、彼の複眼には巨大な怪物の姿が浮き上がる。

 此奴は強い顎をもつヤツ[オオクワ]か?同じ腐葉土を喰った兄弟分のアイツ[兜虫]か?


 次々と姿を変える巨大な敵は、負け知らずだった虫キングにプレッシャーを与え、ついには自分を押し出そうとしていた。


『・・っ!・・・』負けて堪るか!

 兜虫の王は爪を立て大地にしがみつく、だがその巨体は無慈悲に、そしてゆっくりと後退させられていく。


 ここが森であり、この場所が樹木の上であれば爪を立てた兜虫を押し・引きはがせる者はいなかっただろう。

 だがここは草原、虫達に力を与えるフィールドであるが、兜虫にとって草原は100の力を出せる場所では無かったのだ。


 鋭い爪で草を掴み抵抗する巨大な兜虫、その敵に対し重心を下げ足の指で大地を掴み蹴るように押す少女アルシア[元勇者 男]

 力と力、意地と意地をぶつけ合い、強者を決める虫相撲!


「すぅっ!」少女は呼吸を溜めて力を込める。

『きゅっ!』慣れぬフィールドで耐えるカブト!

 その勝負は一見膠着しているように見えた、だがアルシアの体力は勇者の気迫でカバーしてもあと数分が限界!

 ここで押し切らなければ巨大なカブトの質量を前に勝ち目は無い、かも知れない。


(悪いがこのまま寄り切らせてもらう!)

 横綱相撲の押し出しだ!土俵際まで一直線に行ってもらうか!


 力で相手をねじ伏せる、それが北中の播磨灘と呼ばれた男の相撲!


『ぎりっ!』

 勢いを増した少女の力にカブトの王が声を上げる、大地を掴む6つの手足が草で滑る。。。


 [敗北]

 

 カブトの王が持つ辞書には無い言葉が、今!正に刻まれようとしている。

 カブトの頭に浮かぶのは敗者の姿、王と戦い敗北した者達の不様な姿。

 不様に爪が空を切り、ひっくり返され・腹をさらして樹の幹から転げ落ちるマヌケな敗北者の姿。


『うぁぁ・・・』『はわわわわ』『おわっ!』そんな声を上げて落ちて行く敗者達の姿、甲虫王者ムシキンググレートである自分が、そんな不様な姿をさらして転がり落ちる姿が頭をよぎる。


『負けたく無い!』『負けて堪るか!』その気迫がカブトに力を与えた!


 身体の倍に広がる透明な羽根、堅く空気を叩くための硬質な翼、その翼が今開きトルクを上げたエンジンのように激しく空気を打っ叩いた。


 ドドドドドドドドドド!!!!!!

 羽根を持ったエンジンが声を上げる時、カブトの纏う空気が吠えた。

[ハリケーンドライブ]カブトの王が竜巻を作り、敵を空に吹き飛ばす!


「な?!」

 ジャンケンでいう所の押し出しは[グー]で投げ飛ばしは[パー]だ。

 ヤツの技、『パーのボタンを連打してね♪』って[パー]の連打が少女の[グー]を撃ち砕く!?


「うくっ?」身体が風で!

 根を張るように大地を掴んでいた足が離れる!

 ヤツの作った竜巻で身体が浮く!


 ギュォォオオォォオオ!!風が舞い上がり、アルシアのスカートが!

「させません!」キュアキュアのスカートにTo LOVEるは禁止です!スカートを押さえ無いと!


 その隙をヤツが見逃す訳が無い、身体を浮かせて放つのはカブトの大技、堅く太く反り返った角を使った、漢のかち上げ!


「くっ!この風!少女の身体では!・・・・っ!」

 子供だから、女の子だから、体格の差が、、、敗北の前では全部言い訳!


 1度土俵に立ったなら、どんな相手でどんな理由を付けようと敗北は敗北。

 この北中の播磨灘、自身の敗北を認められぬような漢に非ず。


 くっ、(ヤツめ最初からこのオレに手加減をしてやがったのか!!)


 最初からヤツが技を使っていれば、勝負にすらなって無かった。

 技を封印して力だけでこのオレと勝負してやがったんだ。

 本気の勝負、技を使った虫相撲なら一瞬で勝負が着く、そう思って手加減を!


 アルシアの心が屈辱で燃える、一瞬でも勝利を予感した・予感させられてしまった事に憤る。

 全てヤツの手の平の上・背中の上だった事に腹が立つ。


「次は負けません!」

 巻き上がる竜巻に飛ばされ、スカートを押えながら叫ぶアルシア。

 今回は完璧に負けましたが、次ぎは絶対に負けませんからね!!!。

 そう心に誓うキュア少女、アルシアさんでした。


相撲編終了、次ぎからは本編にもどります。

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