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甲虫王者VS

「虫キング!」「虫キング!」

 黒光りして雄々しく反り返る角!さらに両方の前足を高く上げて強さをアピールする甲虫の王、周囲の虫達のボルテージは高まり周囲の空気を熱くさせる。


 王者!強者!英雄!チャンピオン!カブトムシッ!!

 強き者、勇ましき者の放つ強烈なオーラが場を支配し、勝利の凱旋を讃えるように虫達が音を立てていた。


 臆病な者であれば即座に逃げ出していただろう、弱い者であれば失神し気を失って倒れていただろう。

 無用な戦いを好まない真の虫王であったからこそ、彼はあえてこの空気を演出し、弱き生物・小さい生物に逃げる道を与え、他の虫達に手出しが出来ない空気を作ったのだった。

 

 虫達の放つ空気に飲まれ、不様敗走する姿をその場に居た虫たちの誰もが想像していた。

ただ一人を除いては。


・・・・パァァァンンンン!!!!!


 草原に集まった虫達の出していた音を超える破裂音、その正体は小さい少女の両手を使った拍手。


 左右に伸ばした両腕を強く!素早く!自分の正面で重ね、その両手を打ち合わせた強い拍手が空気を破裂させて高らかに鳴った!

 刷り上げるように顔を上げた少女の眼光は鋭く、勇ましいオオカミのごとく強い光を放っていた。


 少女は拍手の後、ゆっくりと膝に手を置き、真っ直ぐに足を上げる。

 I字バランスのように高らかに上げた右足は、『ピタリ』と天を仰ぎ、左足は地を掴む大樹のようにガッシリと動かない。


 天高く伸びた足は力強く降り、ドスンッ!大地に潜む邪気を踏みすえる。

 四股[しこ]その姿を知る者なら彼女の意を直ぐに理解しただろう。


 両の足を地面に、腰を下ろし力を溜めた少女は睨むような目線で虫キングを見据え、そしてゆっくりと左手を腰の上部に、右手は指を揃え手刀とする。


 天に力を示し、強く大地の邪気を踏みすえたあと正面に身を構え、左手を腰に右手を横に高らかに上げ広げ、虫の王を睨み付けた。

 少女のその姿は横綱の土俵入り[雲竜型]

 力強い足腰、そしてその身体に似合わぬ巨大な相手をも恐れぬ気迫。


 その強い眼光と構えに虫達は静まり反り、それは勝利・・戦いにすら成らぬ相手、そう見下ろしていた虫王の触覚を振るわせた、いやそれ以上に虫の王が驚いたのはこの小さい生物の望みを理解したからだ。


 攻撃型の不知火型と攻防一体の雲龍型、少女が後者をとったのは偶然か。


『この私に甲虫王者に力の勝負 [虫相撲]を望んでいるのか?!』

 餌場を奪い合い勝ち続けた物、それが虫キングだ。

 その王に対し、最強の虫の王に対し、虫の戦いである[虫相撲]で戦いを挑んで来るとは!


・・・ズン!

 虫キングの六の足が大地を掴み、その猛々しい角を少女に向けた。

 黒く大きな複眼が少女を捉え、その丸い触角が彼女の心を探る。


 少女の纏う空気に恐怖の匂いは無い、自分に勇ましく戦いを挑む人間の戦士の匂い。

 人の使う魔法や鋼鉄をもはじく赤黒の外骨格、全身鎧の大男すら簡単に空に放り投げる角の力!

 力自慢・腕自慢の戦士達がなんども自分に挑んできたが、その中にいた僅かに嗅ぐ事が出来た[勇気ある者]の匂い。

 だが森にいた自分に・甲虫王者に虫相撲を挑む者など誰も居なかった。


『勇気は・・・認める、だが、人が虫に虫相撲を挑むなど・・・まさか!!』

 虫の王、虫キングが小さいころ、腐葉土に眠る白い幼虫だった頃に聞いた、古い虫王の話。


 その虫の王も自分と同じ兜虫だった、だが森に現われた3匹の人間、その1人に敗北した事で虫王を引退した、と言う。


『その戦いも虫相撲だったと』

 力の勝負、カブトムシが最も強い虫相撲で負けた、そんな話を信じろと・・・

 

 少女は足を拡げ腰を下ろし、こちらを見ている。その背後に・・・『なんだ、あれは?』少女の後に2体の影、片方は剣を持ち、もう片方は男の背中を見守っているような気配???

 虫の王は触角を動かし目を擦り確かめた。


『目の前にいるのは1匹?幻覚か?

背後に2匹の影?・・・』


 角を向けた兜虫の王はまるで何かに警戒しているように気を乱す、その黒い目に見えている者はかつての王が戦い、そして敗れた強敵の幻想[きおく」


「・・・オイオイ、オレを前に随分余裕だな。

 何を見ている虫の王、お前の目の前にいるオレは北中の播磨灘と言われた男だぞ」

 中学の頃は、相撲で負け知らずと呼ばれた男、それがオレだ。

 異世界にてデカい兜虫相手に横綱相撲だ!


 男なら・・・強い雄なら相撲で勝負!「掛って来いよ、ここが俺たちの土俵だ」


 キュアフォルシオン、否!ここでは少女アルシアは剣を大地に突き刺し、四股の構えで左手を地に着け、虫の王と向かい合う。


(・・・オレが勇者だった頃も、こうやってカブトムシと相撲をとったっけ)

 オレのうしろで『バカなの?アホなの?』って呆れたように睨む魔法使いと『素敵です勇者さま!』ってなんでも誉めて喜んでくれる聖女、、、う~~ん。

 

(そういえばオレ、あの2人と会うために呼ばれたんだよなぁ・・・)

 今さらって感じだなんだよなぁ、絶対怒ってるだろうし。

 楽しい同窓会って訳にはいかないだろうしなぁ・・・憂鬱だ。


 虫の王に人の言葉は解らない、だがこの時だけは少女の発した言葉の意味を理解する、そう『掛って来い』と言う言葉の後の困惑顔?

「とりあえず、オレと、、やらないか?」


 恐れ・困惑・疑心、それらを全て吹き飛ばした言葉は[自分への挑戦]

 絶対強者たる虫の王に虫の領域[虫相撲]で挑む者、その目に怯えも侮りも無し!


『きゅっ!』虫キングは鳴いた、それは挑戦者からの勝負を受けての応えだ。

「応!」少女も低く構え声に応える。

 

 一匹と1人、2人の思いが交差する。 

・・・・時間いっぱい、八卦良いよい発勁良し!

「「残った!」」


 二つの気の高まり、二体の益荒男の相撲はまさに同時刻、気迫と眼光がぶつかり合い、息を合わせたように取り組みが始まった!


 方や黒光る巨大な兜虫!方やまだ幼く細い少女アルシア、中身は元勇者の激突!

 勝敗は如何に!

見た目はキュアで中身は勇者、中学時代は土俵の益荒男・播磨灘!

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