やりたくない事も笑顔でやる、そんな人生は嫌だ。けれど、それは仕方ない事もある。
大体なんでも出来る元勇者、でも出来ない事も多いのも事実。
怒る妹をなだめる事も出来ない男ですみません。
「オラァ!」
正確で素早い指で脳にまで達していそうな寄生虫の触手を引き抜く。
っ・・彼女の額の穴から、じわじわとしみ出てくる液体、これは・・やべぇ!
急いでを手で塞ぐが、、脳液がこぼれ出してる。
(不味いな、たぶんコレ、血以外のヤツだ。
多分脳その物を傷つけた訳じゃ無いが、頭の液体が抜けたら普通にまずい)
脳を振動から守る液体が抜けて、脳が直接空気に触れたら、どうなるか解らない。
専門家でもない人間に脳障害の治療なんか無理だ。
なので、、、神様から貰った1000の超神器の一つ。
パラララパッパーー[スーパー=バンドエイドΩ]
空間を歪め、国民的キャラクタードラ〇もんっぽく取り出し、箱から出したバンドエイドを彼女の額に『ぺたっ』と張り付け。
肉体の損失を再生させ、即死以外の全てを治療するらしい神器。
仕様書には『べ!べつに絆創膏女子が好みって訳じゃないんだからね!』って説明書き
う~~ん、神様も解ってるね。
「・・・」大丈夫?神器とは言え、使った事の無い道具に頼るのは心許ない、とても心配。
さわさわと指で触り、傷の塞がりを確かめる。
(すごいな、もう表面の傷は塞がっていますが、、、)
重要なのは脳、脳に傷が着いていたりしては後遺症が残ったりしますから。
「・・・んっ・・っ?!」
「・・良かった、目が覚めましたか?
気分が悪いとか、頭が痛いとかは有りませんか?」
エルデの目が開き私と目が合う。
驚いた顔の彼女は私の顔を確かめるように何度も瞬きして、ゆっくりと顔を横にした。
「あのっ・・オルフェルク様、えっと、この状況はいったい・・」
「ああ、えっと」頸動脈を押えて失神させたとは言えません・・・
「えっとですね、興奮されたクロファルド様が急にお倒れになられましたので、このような感じで横になって貰って戴き、安静にしてもらって居た所です」
失神とか貧血の場合、横にして安静にして患者の様子を診るのは基本。
呼吸困難・脂汗・痙攣を起こしている場合は直ぐに病院に!
「そう・・なのですか、大変ご迷惑を」
「いえいえ迷惑など、クロファルド様がご無事なら・・・うん、熱は無さそうですね」
額に手を中てて、自然にバンドエイドを回収。
と言っても一回使いっきりの神器なので、傷さえ治れば捨てるだけなんですが、一応ね。
(もったい無い、せっかくの異世界絆創膏美少女の寝顔が!ああもったい無い!)
「えっと・・あの・・」
「すみません、クロファルド様に許可も取らずに触ってしまって、ご不快でしたか?」
同性でも、不意に額とか髪を触られると不快に感じる人はいます、ダメでしたか?
「いえ、その・・大丈夫です、それよりその・・ご迷惑で無ければ、その、もう少しだけ手を・・」
彼女の額を触っていた手を戻し、サラサラの髪を指で撫でて見る。
綺麗な髪は光りを反射し、明るく紅をさしたように鮮やかな赤、これは・・
「?・・!?、あっ!えっっとこれは、あの!」
彼女は慌てて髪を押え赤面して、、くあっ・・可愛い。
確か特別な色の髪を持つひとは、感情が高まると発色が良くなるとか何とか。
(この場合、えっと、つまり喜んでいただけているって事でしょうか)
耳の先まで赤くなって、可愛い、触りたい!好き!
「んっあぅ、あっ!あの!耳は!」
おっと「失礼!」無意識に触っていた様です。
仕方ないですよね、人は目の前に可愛い耳があったら触ってしまうものですから。
猫の手・ぴこぴこ動く耳、赤ちゃんのほっぺ、それらを見ると人は無意識に触ってしまうのです、それは人の本能なので仕方ないのです。
「いえ・・その、私の方こそご迷惑を・・」膝の上で耳を触られ、真っ赤になった彼女は少し涙を浮かべ、その目で私の顔を見上げてゆっくりと手を伸ばす。
モミモミ揉み揉み・・「えっと、どうでしょうか?」
「指が温かくて気持ち良いですよ?」
「っ!・・仕返しのつもりでしたのに・・ずるいですわ、私の方がお姉さんなのに」
赤い顔を更に赤くする彼女、なんだ?どういうこと?
年上なのに可愛いなぁ・・
「~~~可愛いなんて~~~っ~~」
この反応!女の子同士だからなの?
こんなに可愛い反応とか、妹にだってされたこと無いのに!
『っ!いきなり触るな!』とか『じろじろ見んなバカ!』とか、妹は顔が赤面したら直ぐに殴ってくるのに、このこ可愛いすぎ!すごく好き、こんなの好きになちゃうだろ。
妹の時は『いきなり殴るのはオレだけにしとけよ?顔と声は可愛いんだからさ、バレたら男にモテねぇぞ?』とか言ったら本気で蹴られたんだ。
助走を付けたドロップキックとか、身体が吹っ飛ばされたんだぞ?
その上、マウントポジションからのタコ殴り、本当に酷い。
散々殴った後で『バカ!』とかオレが悪いの?
赤鬼見たいな顔で怒らなくても良いじゃん。
兄貴だぞ?兄貴をタコ殴りにする妹とか、美人でもダメでしょ?
サワッ不意に頬を触る手の感触と心配そうな瞳。
「大丈夫ですか?」
「ーー大丈夫ですわ。すこしだけ、昔の事を思い出してしまっただけですので」
まあアイツの事だ、オレが居なくてもちゃんとやっているだろうけど。。。ふぅ。
(いきなり、ってのはな)せめて一声残してからじゃないと、死ぬに死ねないよな、兄として。
ルシアナ[聖女]ノイッシュ[魔法使い]彼女達が怒ってるのも、オレが突然神様に転生を願ったからだろうな。
冒険も戦いも、神々の試練にも共に挑んだ家族以上の仲間達、彼女達に一言ことわってから転生すれば、きっと今回オレが戻って来る事も無かっただろう。
[一言断ってから動く]それが出来なかったから、今のオレがあるんだよな。
だからこれはケジメだ。
彼女達に会って謝って、罵られて怒られてでも、元勇者の冒険は終わった事を伝えるんだ。
それであっちの世界に戻って・・
(またあの会社で働くのか、はぁ・・いやだなぁ・・)
あんまり良い思い出、無いんだよなぁ・・
パワハラ・モラハラ・人手不足・サービス残業・意味の無い社訓。
努力・挑戦・ノルマ・納期、『無理・出来ませんは、やらない理由にはなりません』とか・・
無理な物は無理なんだってばよ!出来ない物は出来ないんだって!
給料は安いし、会社の社内イベント?で天引きされる。
税金と税金[別名・社会保険料]は上がる一方だし・・普通に命がやばいんだよなぁ。
(オレ、こっちに残ろうかなぁ・・でもなぁ・・)
アイツ[妹]が怒ると恐いし、泣かれるのは嫌だし。
『お前[妹]を泣かすようなヤツは、オレがブッ飛ばす!』とかガキの頃、言っちまったしなぁ・・
あっちもケジメ、こっちもケジメ、両方取らなきゃいけないってのは仕方ないよな。
オレ、男なんだからさ。
元勇者の仲間、ルシアナ[聖女]ノイッシュ[魔法使い]
彼女達と会って、誤解を解くのが今回の勇者のお仕事。
ですが現在の勇者、見た目、女の子なんですよねぇ・・・