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タイトル未定2024/11/10 16:09

「大丈夫でしょうか」

 締め切った馬車の中で隣に座りアルシアの手を握るルージュ、彼女は野犬や魔物、ゴブリンの群れと戦い経験を積んでいる、だが人間を相手に戦った事は無く、人の敵意や悪意には耐性が無いのだろう。


「大丈夫ですルージュ、貴女は私が守りますわ。

 知っているでしょう、私は結構強いんですよ?」

 私は彼女の強く手を握り返し、肩を抱き寄せ頭をなでた。


(キミが人を殺す必要は無い、そんな汚れ仕事は男の仕事・・・あっ、私いま女の子でした!

 どうしましょう?)


 現代社会を経験していても元勇者、オレに悪人・敵対者を殺す事に躊躇は無い。

 あの世界でも、法で縛られ自身にペナルティーが降りかからなければ簡単に一線を越える、そんな男だった。

 ですが、美少女の私、アルシアやその友人のルージュが人を殺して、簡単に日常に戻る、そんな世界は否定していた。

 

 (オレは良いが、人がするのは否定するとか、エゴだなぁ・・さてと、まずは現状の把握か)

 目を閉じて少し集中・・・[索敵]


 馬の足音、人の呼吸と声、人間が起こす空気の揺れを捉え、馬車の中にいる私に敵の数を認識させた。


(・・・敵との距離は大体50mか、野盗の数は・・・20・・23か、問題は装備と強さですが・・・)



「仕事だ仕事!みんな油断するなよ!」

「ハイハイ、またリーダーの心配症、いつも通りやれば大丈夫だって」

「そーそー、いつ通りに、ってね。

んじゃリーダー、私が先に弓で攻撃するよ!っ」

 若いリーダーが声を上げ、馬車の中に居た女傭兵の愉快そうな声。


 馬車の上で弓を構えた狩人が矢をつがえ、強く弓を引く。

[狙撃][旋射」命中精度を高めた矢が回転しながら速度を速めて飛ぶ。


・・・「命中、やつら素人さんみたいだねリーダー、飛び道具の守りもしてないみたい、よ!」

 敵集団の動きが乱れ、狩人の彼女に確かな手応え。


 続いてさらに追撃の矢を放つ!

 [狙撃][重ね撃ち]二本の矢が空を飛び、野盗の群れに吸い込まれて行った。


「次々行くよー」[連弓][速撃ち]

 矢筒から矢を抜いては素早く弓を引き、指を離して矢を放つ。

 先制攻撃を受けて逃回る野盗達から悲鳴が上がる!


「う~~ん、いつも通り良い腕だ、今日も良く当たる。

 さて、賊共が良い感じに散った、後はオレ達で蹴散らすぞ。

 ティルシー!オレ達の背中に矢をあてるなよ」

 

「デルバー、それって乱戦に入ったら私はサボって良い事?

 やったー、リーダー、私サボれるって!」

「・・・ったく、まぁ味方の矢でケガするよりはマシか、、、ティルシー、解っているだろうが」


「ハイハイ!任せて任せて!ヘマなんかしないって」狙撃!

 ふざけているような会話の中、彼女は逃げ回る野盗の身体に正確に矢を放ち射る。


「はいまた命中って!、ほらほら、みんな早く行って、私一人で全部やっちゃうよ!

 リーダー、デルバーがサボって私ばかり働かせてまーす、サボりの隊員は報酬の減額ですよねーー」

 笑いながら矢をつがえる狩人、その目は常に野盗の動きを追い、次ぎの的を射貫く。


「アイツら全部が逃げたら騎兵の仕事が本とに無くなっちゃうよー、

 仕事をしない傭兵[仲間]と報酬を山分にするってのは良くなくないよね!」

「へいへい、解ってんよ!お前ら、突撃体勢!ヘマすんなよ!」

 五人の騎馬が集まり槍を構えて走り出し、逃回る野盗の背中を追う。

 隊を組んだ騎兵が賊を突き刺し、馬の足で踏んで潰す。


「あ~あ、乱戦が始まっちゃった。じゃ私は指も疲れちゃったし、サボっちゃいますか」


・・・・・・・

(かなり出来る連中みたいだ、これならオレの出番は、、ギリギリまで無さそう)

 

 野盗の集団が王都へ向かう道を塞いでいて、矢を受けて逃回る。

 それを追って護衛の傭兵団が突っ込んで撃退、敵はクモの子を散らすように逃走を始め、その背中を騎兵がさらに追い回す。


(初歩的な陽動、矢の的にされているのは減っても痛く無い下っ端の野盗、って事は当然、、、)


(あっちの森の中に潜む敵意の気配が、4・・5つか。

 [潜伏]とその先のスキル[雑な隠密]を使って気配を隠しているな)


 仮にも魔神殺しの元勇者、洞窟・迷宮・密林の中で隠れ潜む魔獣と戦い、生き残り魔獣の王を狩ってきたユウヒにはその動きの全ては見える、もしもの時はルージュの身を守る事が最優先です。


「アルシア様?アルシアお姉ぇ様?」

 

 お?お?お?身体を揺さぶられて目を開けるとルージュさんが。


「大丈夫ですか?いざとなれば私がレイピアになっ」

「ダメですよルージュ、キュアキュアの正体はみんなにはないしょ、秘密なのです。

 それにお父様のオルフェルク侯がお雇いになられた方々は、すごく腕の立つ方達のようですし。

心配はいりません、そうですよね?」

 アルシアはルージュを抱き寄せ、同乗している白髪の執事に同意をとる。


(そんで、この爺さんもかなりの凄腕、武術の達人だな)

 背筋・目の動き・座っている状態でも常に警戒を怠らない気の動き、とくに私の動きを追って牽制してくる微細な筋肉の動きが恐い。


(あれ?ひょっとして、一番警戒されてるの私です?)

 大事なお嬢様にたかる悪い虫?そんな感じでしょうか。




(・・・)


 少女に笑顔を向けられた執事アルデールは、目を細くして表情を隠す。

 そして、僅かに頭を下げる事で疑いの感情を隠した。


 野盗が襲来するその瞬間も落ち着きを隠さず、緩やかな空気を纏う公爵の令嬢。

 自ら仕えるオルフェルク様の子女、ルージュお嬢様のご学友であり同じ年齢の少女らしい。


 そんな少女が飢えた野盗の気勢にも怯えず、柔らかい気を放ち座っている、その異質の雰囲気を受け、老いた執事の指先は、反射的に僅かに動いてしまった。


 [暗指]気配無く・予備動作も無く敵を屠る死技。

 静かに急所を捉え音も無く殺す技、その誰にも悟らせぬはずの動きの始まりを、わずかな殺気に反応した少女は、目の端で捉えていた。

 その上で彼女、公爵令嬢は僅かな動きでルージュを守り、そして死技の技から身をかわし、軽く受け流すような動きを見せた。


(一流の戦士でも気付く事の出来ない僅かな動き、刹那の指先の気の変化と技、それを少女が見抜きルージュ様を守る。

 その上でこちらの真意を見抜き、技の[意]ことの始まりを受け流す。

 貴族の少女がそんな事が出来るはずは無いでしょうし・・・)

 

 殺しの技に気付ける者なら、その身を堅め、護りの動きを見せる。

 だが護りの姿を霞みほども見せず、自然に角度を変えて受け流す事が出来る者。


 殺しの技を理解した上で恐れず、逆に余裕を見せて私の意思を躱させるなど、普通は出来ない。

 そんな事が出来るのは、余程の愚か者か技を極めた者だけ。


 そしてアルデールの体術はその流派に名を残す程のレベル、その技に気付き、受け流せる者など流派の者でも数人だけ。


[武師]上級マスタークラス、技を知り技を極め技に愛され技を使う、武神と呼ばれる者達。


(そんな、、、まさかですな)

 齢十数の少女がその域に到達できるはずは無い。

 で、あれば、本当に気付かなかったと考える事が自然と言う物でしょう。


「それよりも・・・」

 自分が仕え、溺愛する主人ルージュ様はその少女に抱き着き『ぐへ~~』と、欲望に乱れた顔、

(オルフェルク様にはどう説明したらよいのか・・・)

 愛欲・情愛・恋慕・まるで主人オルフェルクの新婚時代の浮ついた顔と同じ顔を浮かべている少女、ルージュ、まさかお嬢様は、そちらの趣味が・・・ううっ胃が痛いですよ。


 お嬢様が屋敷に戻られた時に、少し調べさせましたが。。。

 令嬢アルシア、彼女は第3王子の婚約者ではあるが、物静かで人と過ごす事の少ない寡黙で物静かと聞いてます。

 級友とは距離をとり、図書を読む事を好む人柄であると。

 

 別人の可能性・入れ替わった影武者、そんな疑惑も浮上し、公爵邸にも使いを出させ調べさせましたが・・・

 失踪した令嬢が彼女であり、本物のアルシアである可能性が高い。


 なにより彼女を慕うルージュお嬢様が彼女をアルシア様だと認め、そしてお父上のオルフェルク様も彼女を公爵の晩餐会や王国の舞踏会でお合いしている。

 その主人が彼女を『すこしだけ雰囲気が変られているが、彼女も成長しておられるのであろう、本物のアルシア様だと思うぞ?』と。


(彼女が本物のアルシア嬢だとしても、別の問題が・・・

 まさかお嬢様が女性愛に目覚めてしまわれるとは、、、本当に胃が痛いですぞ、それが公爵様の子女様となれば、ジイはオルフェルク様にどう説明すれば良いのか)


 いっそ野盗を軽く一蹴するような、一流で将来有望な若者が現われてくれたなら。。。

 そう思わないでは無い老執事アルデールであったが、目の前で静かに座る少女、アルシアこそ、野盗を一蹴できる将来有望な若者であったとは思わなかった。


  

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