復活した魔王、その視線にある者は。
あの男[勇者]の驚く顔が目に浮かぶ。
口元が緩み、闇を飛ぶ速度が上がる魔王。
熱も音も風も無い空間は距離の感覚が付きにくい、だが魔王にはゴールは見えている。
「ふはははは、そこだぁ!!」今にも闇に沈む弱った魔王の側らに着地!
「おい貴様、まだ生きているのか?生きているなら悪いが、とどめを刺させてもらう」
横たわる瀕死の魔王を殺し、その身体を喰らう事で血と肉・力を回復させる、それが魔王の狙い。
「オレが今からお前を喰らい、私の肉体を回復させ力を取り戻させてもらう。いいな?」
指先を鋭く尖らせ魔力を込める魔王、同じ魔王としての慈悲だ、せめて苦しまぬよう。
「一撃でその命、刈り取ってやる」
その時、力付き消えそうだった魔王が目を開く。
「・・・驚いたな、まさかこんな所に魔族がいるとは・・・それも上位の魔・・貴様も魔王か」
「ああ、貴様も魔王のようだが、今は急いでいる。
遠慮無くお前の力をいただいて行くぞ、オレにはやる事があるのでな。
せめてもの情けだ」
鋭く尖らせた爪は黒の魔力で光り、鋭さと斬撃の威力が高まって行く。
「一撃だ、一撃で首を落とし痛み無く殺してやる、大人しく諦めろ」
「・・・貴様、勇者に挑むつもりか」
「解ってるなら話は早い、命乞いは聞かんぞ。
貴様も魔王なら死に際は潔く消えるんだな」
そう、魔王の死は潔い物で無ければならない。
残して良いのは言葉だけ、『我を倒した勇者よ、オレは地獄で待ってるぞ!』とか
『俺の首を後で群衆に見せてやれ!これだけの首はめったにないぞ!』とか
魔王は名台詞だけを残して消えるのだ。
「・・・私が命乞いなどする必要など、、無い。私はもう直ぐ消える。
だが、そうだな。
貴様に喰われてやるのもいいが、それではヤツ[勇者]には勝てない。
仮に貴様が全盛期の力を取り戻したとしても、貴様を倒した勇者の目には復活したお前はただの強い魔族の1体としか映らないだろうな」
「な!貴様オレを侮辱するつもりか!アイツはオレの宿敵だ!
復活したオレを見たら、ヤツは驚愕し恐怖し恐れ戦くのだ!」
そして『おっ!お前は!』とかいって私の恐ろしい姿に目を奪われ、目を離せないようになるのだ!!
貴様にお前にアイツの!オレ達の何を知っていると言うのだ!
「・・・そうだな、何も知らん、、のかも知れん。
だがオレが見た所、お前の力は鍛えられているが、精々オレの全盛期の力の・・・二倍には届かないだろう。
だが、オレを倒したヤツはオレを屠った後、オレが自分の命と配下の者共の屍を贄に、、、喚び出した最強の魔神すら倒したのだ」
お前の力は魔神には及ばない、それでは今さら勇者に挑んだ所で同じ事だ。
今の勇者からすれば、ちょっと強い魔物とエンカウントした程度にしかならないだろう、と。
「黙れ黙れ黙れ黙れ!
敗北者が!敗者の讒言など魔王が聞くか!最早貴様に慈悲は無い!死ね!」
「落ち着け、オレを殺し喰らうだけではヤツには勝てん。
だからオレの力をやると言っている。
オレと融合しろ、そうすれば貴様の力は何倍にも跳ね上がる、その力でヤツを・勇者を倒せ」
殺意を込めた爪が魔王の喉元、あと数㎜の所で止った。
「融合だと?・・・貴様正気か?私がなぜ貴様などと融合を」
融合するなら、あのおと・・げふん!げふん!
「オレはどちらでも構わん、どうせもう直ぐ闇に消える命だ。
お前に殺され喰われるのも、闇に溶けて消えるのも同じだ。
オレの言葉を信じ無いなら好きにしろ、そしてヤツにアッサリ殺されて来るんだな」
「・・・もし貴様と融合しても、気に食わなければ直ぐに放り出してやるからな!」
「言ってくれる、同じ魔王として好意で言ってやっているのだがな。
やるなら早くした方がいいぞ、もうオレの身体は消えそうだ」
「くっ!・・・どうすればいい!早く説明しろ!」
力を奪う事は最初から決めていた、なら喰うか融合するかの違いだ!
「オレの身体に手を置け、それだけでいい」融合を望む者が、お互い同意すればいい。
「いいか!オレがベースだからな!オレの身体を乗っ取るつもりならすぐに!!!」
一瞬の光りの爆発、そして身体を貫く衝撃が魔王を飲み込み、そして・・・
「・・・?!・・なんだこの力は!スゴイ!途轍もない力だ!
コレが融合ってやつか!この力なら負ける筈が無い!
オレはいま!究極の力を手に入れたぞ!待っていろ勇者!」
ふははははははっっっっ!!!!
究極の力?を手に入れた魔王は額の前で指を揃えて力を溜める!
「魔貫光!」魔の力と魔力を一点に集中して放った攻撃は、死と闇の世界の壁を貫き、生者の世界の光りが差し込んだ。
「・・・さらばだ、勇者に敗れし魔王達よ」
二度とこの場には戻らぬ覚悟を言葉に込めて、空間に開いた穴を力でこじ開け、自分が出られる大きさまで拡げた魔王は、光り満ちた世界に飛び出した。
いまはそう、宿敵!勇者の姿を求め風よりも早く魔王は飛んだ。
・・・・・・・・・・・
(ん?・・・アレは・・・魔王か?)
「な!アレは何!」ハリネズミが大声を上げる中、上空を飛ぶ強大な力を見上げる。
元勇者[アルシア]は、その強大な魔力と僅かに覚えている気配から、その影に魔王を思い出していた。
当時、自称勇者・職業勇者・選ばれし勇者・のんびり勇者・転生勇者・異世界から来た勇者・現実主義勇者・チートスキル勇者・外れスキル勇者・追放勇者・ハーレム勇者・魔物勇者・子供勇者・孤独勇者・盾の勇者・即死勇者・規格外勇者・・・等々、約一万人いた勇者達。
増え続ける勇者の数に合わせ、魔王・魔神・邪神・堕天使・悪神・破壊神・狂った神・進化した魔人も世界に溢れていた。
その中で勇者[ユウヒ]が倒した魔王は合計で8体、魔神・破壊神・異星の悪神を倒したり封印したり退去させ、
『疲れた・・・勇者辞めたい、戦いとか戦争とかもう無理、嫌、しんどい。。。
勇者辞めてどこか平和な世界で普通の人生を、普通の平均的な身体能力の人として暮したい』
そう神に願い、そして全ての記憶と能力を封印し、現代日本の男子として産まれ変わったのだった。
勇者なんてなるもんじゃない。
アレはただの殺しの道具、神様とか何者かが『そうあるように』と決めてやらせる役者と同じだ。
しかも報酬は適当な物ばかり。
国とか世界を救っても、世界を貰える訳も無し。
労力と苦労と苦痛と恐怖と人生の殆ど、それに対して褒美が釣り合っていないんだ。
まぁ国?とか、お金とか、魔王を倒せる力があるなら自力でいくらでも獲れるけど。
って事でアルシアは「さぁ・・・なんでしょうねえ・・」って、見なかった事にした。
「ね!ねぇ!アルシア、キミ!見なかったフリなんか出来るわけないよね?!
ねぇアレは何!この世界にはあんなのがいるなんて聞いて無いよ~~~」
「さぁ?本当になんなんでしょう、
多分私には関係無い何かだと思いますよ?」
「本当?・・・本当かなぁ??
でもでもそうかも、それにしてもスゴイ魔力だ、あれはまるでまぉ、、、何だろう、やっぱりボクにも解らないなぁ」
ハリーは訝しんだり驚いたり、顔を背けたりして忙しそうだ。
そうですよ、私もこの状況に顔を背けたいのですよ。
いまの私は追放された元公爵令嬢でキュアキュアなのですから、これ以上の属性は盛りすぎですからね。
属性メガ盛りでお送りしたいこの物語、毎週土日にまとめて公開するスタイルを取りたいのですが。
エピソードが浮かべば書いてみたい、書いて形が出来たらupしたいと思っていまう。
私って業が深いなぁと思う今日この頃。
って事で毎週土日公開、聖☆ソードきゅあきゅあ!
次回もキュアっとお送りいたします。