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物語の住人、死の創作


ユウキは全ての情報をメグミに伝えた後、

昼寝に移った。

服を無くし頭突きを見舞われるという

最悪の連携によって、

黒い歴史を生み出させられた訳だが、

それは一旦水に流すとする。

カネダメグミ、彼女からの敵視は無くなったが、

警戒は解いてくれないようだ。

肩にかかる程度の髪を蓄え、

良いものを食べているのか全体的に肉付きがいい。

太っているというよりは、

かなりバランスがいい印象を受ける。

そして服だ。

彼女の、そして貸してもらった服は、

レイネンドの服飾を軽く凌駕している。

建築もそうだ。

上等な館の一室と遜色ない。

窓にはめられた硝子からも分かる。

見たことない器具もそこら中にあり、

同じ世界の住人なのか疑わしくもなってくる。


「ということは、あなたがあの…アデーラさん?」

「ああ、はい…ご存知のようで恐縮です…」


ユウキも覚えがあったので、

ここでは私は広く知られているらしい。


「ご存知というか…これが…」


そう言って彼女は本を差し出した。

かなりの技術を思わせるそれには、

こう書かれていた。


『とある魔女の一生』


恐ろしく精巧な文字列を軽く読むと、

私の個人的な情報が次々と出てきた。


「自伝小説を出した覚えはないのですが…」

「ええ、だってそれ…」


彼女は背表紙の下部を指さす。

そこには、著者大島大五郎と書かれていた。


「?」


私この人物を知らない。

だがその知らない人物が、こんな小説を書いている。

意味が分からない。


「あなたがその小説の人物の、

アデーラ・クゥスさん、でいいんですよね?

想像がつきませんが」

「ええ…多分」


違ったら逆に同姓同名のそいつを探してみたい。


「あと、これを…」


メグミはまた本を差し出してきた。

著者はやはり大島大五郎だが、

灰色の装丁で中は手書きだった。


「最後のあたりを見てください」


メグミの指示に従い、反対側から本を開く。

まず最初に目に付いたのは、ユウキという文字。

驚愕と同時に疑念が浮かび、

ユウキと遭遇してからドラゴンから逃げるため

歪みに飛び込む場面まで一気に読む。

これは、ほんの数時間前の出来事だ。

傍で監視されていた?。

あの場所で魔物の注意は私たちにしか

向かなかったので、違う。

はるか遠方らしいここから、

私たちを眺めながら執筆していた?。

だとしたらいい趣味している。


「大島大五郎さんにお会いすることはできますか?」

「…いえ…大五郎さんは先日、お亡くなりに」

「そ、それは大変失礼しました」


先日?。

矛盾に気づく。


「先日、亡くなったのですか?」

「ええ」


だとしたら一体誰が、

私とユウキが出会ってからを記録したんだ?。


「この本に最近書き込みした人は、

どなたでしょうか?」

「それが、勇気くんが出てきた辺りから、

ひとりでに文字が表れ始めて…」

「ほう?」


ということは、

大島大五郎が私を監視するために、

術式とともにこの本を作成した、ということか。

監視される謂れなど星の数ほどあるので、

どの因縁を辿ればいいか分からない。

そもそもニホン国に入国したことなどない。

逆に、肯定的に捉えてもいいことなのかもしれない。

私の素性を知っているからこそ、

ユウキが私の家に送られるよう仕向けたと。

政争などではなく避難のために、

こちらに寄こしたのだと。

本人の死亡も、辻褄が合うような気がする。


「あの…」


メグミが申し訳なさそうな顔でこちらを見ている。


「非常に言いにくいことなんですけど…」

「遠慮せずにどうぞ?」

「あなた…小説の世界から

やってきたんじゃないのかって…思うんです」

「…」


…。


「は?」

「…」

「冗談も程々にしてくださいよ」

「…」

「私と共に過ごした記憶のあるユウキがいるのに、

どうしてそんな素っ頓狂な話が出てくるんです?」

「…」

「第一具体的に…」


自分が物語世界の住人である。

その言葉の信憑性が増すほどに、

抗うように詭弁を弄す。

先程の頭の中もそうだった。

それらを理解しているように、

メグミは頷いてくれている。

だが詭弁を、否定をやめたくなかった。

認めたら。

認めてしまったら。

友の死が仕組まれていたということを、

許してしまうことになるから。



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